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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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誰が何と言おうとこれは事件なのだ

17/09/15 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:122

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最近の映画やドラマは「事件ありき」なのが気に入らない。今日見た映画も予告では期待できると思ったが残念な内容だったよなぁ。

「外的な要因によって二人の心がかき乱されたあげく結びつきを強くする、というストーリーが少し深みに欠けると思いました。突然ヒロインの親が離婚して、そのショックにより声が出なくなるなど、リアリティがありません。もっと二人の微妙なすれ違いや心の動きなど内面を丁寧に描いてほしかったです」

映画レビューのブログにはこのような感想を挙げた。ただの思い付きと趣味で始めたサイトの割にはそれなりにPVもあり固定の読者もいるようだ。
僕自身は好き勝手書いているだけなのだがコメント欄は賛否両論ある。今回は彼氏役の俳優が最近めきめきと人気が出てきている若手イケメン俳優だったのでそちらのファンからの反論が結構あるようだ。

ある日仕事から帰ってくると、例の記事に新着コメントが付いていた。
「原作のファンです。私もヨシさんの意見と同感です。特に健のバイク事故は原作にはないエピソードで無理やり付け足した感じがありました。原作の、微妙な二人のすれ違いや心の通い合いの部分がおざなりだったような気がします。作家のファンとしても残念でした。」

なるほど、原作ファンからはそのようにも捉えられるのか。僕は原作を読んでいないが感じていることは似ているようだ。そう言ってくれる人がいるのは嬉しいが、人気俳優の信者からこの人叩かれないかな?程度にちょっと気になった。

僕は、単館ロードショー系の小さな映画館で働いているのだが、今の支配人からは「俺もう少しで引退するから、お前よろしくな」と冗談半分で言われている。マニアックで人見知り、根暗で年齢=彼女いない歴、の僕なのだが、好きな映画を扱う仕事をして生きていく、死ぬまで一人でもそれで幸せかもしれない、最近では漠然とそんなことを考えたりしている。

その日は映画館の感謝イベントで、会員限定で近くのバーを貸し切っての立食パーティだった。僕は会場のセッティングや受付の応援など細々とした雑用でバタバタと走り回っていた。
ようやく少し落ち着いたと思った時に一人の女性から声をかけられた。
「あの、もしかして、違ったら申し訳ないんですけど、ヨシさん、じゃないですか?映画の感想をブログに書いてる」
「え」
彼女は顔を真っ赤にしている。たどたどしい言葉で彼女が語ったことを整理すると、映画館のこと、仕事のこと、職場近くの喫茶店、など僕がブログに書いた情報をつなぎ合わせていくうちに、自分がよく行っているこの映画館のことなのではないか、と思い当たったという。
ではなぜ僕だと特定できたのかは「な、なんとなく」と言って下を向いてしまった。化粧もあまりせず、パーティーに来ている他の女性と比べると白いTシャツに太めのGパン、という地味な装いではあるが、よく見ると顔はなかなか可愛い。

「あ、あの、これ!」

彼女は鞄から一冊の文庫本を出した。それは、僕がブログで酷評したあの映画の原作本だった。

「おこがましいとは思うんですけど、あの映画見て私が思ったこと、ヨシさんが言ってくれてて、周りにも見た人いたけど同じような感想言ってた人がいなくて。だから嬉しかったんです。分かってくれたって。だから・・・」

「ああ、ありがとう」ぎこちない手で文庫本を受け取る。

次の休みは、彼女が貸してくれた本を読んだ。

映画ばかり見てるので本をあまり読まないのだが、一気に読んだ。ページを繰る手がとまらない。これはまさしく僕が「こんな風に描いてほしかった」と思うストーリーだったからだ。

いてもたってもいられず、彼女が教えてくれたアドレスにメールを送った。
多少なりとも好意を抱いている人に自分から連絡をしたのなんて、いったい何年ぶりだろう。

3か月後、僕たちは二人で喫茶店にいた。

映画ぐらいしか趣味のないつまらない自分だけれど、一緒に映画をみて感想を語り合ったり、あなたの好きな本を貸してもらったりしたい、そう伝えた。僕にとっては精一杯の口説き文句だ。彼女は「私、自分と趣味が合う人がいなくて、前に付き合ってた人とも共有できなくて、自分の好きなことを馬鹿にされたりするぐらいなら一人でいたいって思ってたんです。ヨシさんは、私が好きな本を好きだって言ってくれて、どんな感想も馬鹿にしないでちゃんと聞いてくれてほんとに嬉しかった」そういって泣いてくれた

多分誰とも深いところで分かり合えなくて一人で生きていくんだろうな、そう思っていた僕の日々に突然恋がやってきた。

誰かと心を通わせたり、付き合ったりが普通にできる人達にとっては取るに足らない出来事なのかもしれない。
でも、僕にとってはこれは事件だ。

どんな映画や小説にも勝るとも劣らない、大事件なのだ。


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