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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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約束しない

17/09/15 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:2件 小峰綾子 閲覧数:342

時空モノガタリからの選評

「相手を縛らない、約束はしない」という二人。彼らの関係は、安心感と息苦しさ、両面をあわせ持つ会社や家庭や恋人などの通常の関係性の枠の外にあって、自由さと気楽さにおいて繋がっているという点で特異な関係だと思います。これは相手自体に惹かれているというよりも、強く繋がらない、束縛しない、約束しないという点において結びついた、どこか矛盾をはらんだ関係のように映ります。彼らに男女としての意識が少しはあるのかないのか、はっきりとはわかりませんが、微妙なバランスで崩れかねないこの関係がいつまで続くのか、結婚によって変化するのかが読んでいて気にかかる内容でした。取り立てて派手な出来事も起こる訳でもないのに、かすかな引っかかりが読後感として残りました。

時空モノガタリK

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今日二人が揃ったのは21時で、比較的早めの時間だった。金曜の夜、毎週定時前後でメールを送りあい、今日は何時に仕事が終わりそうだとか、今日は別の友人と飲むことになったから行けないとか、連絡を取り合うようになってもう何年目だろう。

明子と優は高校の同級生、同じクラスの時によくつるんでいた友人たちの中の2人だ。お互いに大学進学のために東京に出てきたのだが、大学時代はお互いの生活が忙しく二人で会うことは数えるぐらいしかなかった。それが、仕事を始めてからいつの間にかなんとなく会うようになった。明子が転職した直後に駅でばったり会い、お互いの会社が同じ沿線上にあることが分かったのがきっかけになった。

金曜日必ず会うことにしようと約束しているわけではない。お互いに週の最後の日は気晴らしに飲みたい性質であるので、もし他の予定がないのならば会って夕飯がてらビールでもひっかければよいし、どちらかの仕事が立て込んでいて終電間際まで終わらなければおとなしく帰宅する。同僚に誘われればそちらを優先する、特にルールを決めたわけでもないが暗黙の了解でそうなっている。

「おつかれ!」「おう。おつかれ!」

一杯目はビールで乾杯。仕事で疲れた金曜日の夜の体にアルコールが沁みわたる。実はここ2週は会っていないので3週間ぶりだ。2週間前は明子の仕事が炎上していて連絡できる余裕ができたのも20時過ぎで、結局23時過ぎにようやく会社を出たので落ち合う時間がなかった。優は一人で映画のレイトショーを見て帰った。

先週は優が大学時代の友達とビアガーデンに行く約束をしていた。明子は会いに行く心構えでいたので多少気にならないでもなかったが、仕方ない。二人は約束をしているわけではないのだから。明子は駅ビルのスーパーでちょっと高級なワインとチーズとローストビーフを買って自宅で一人で晩酌を楽しんだ。

「なんか、日焼けした?」明子は優に聞いた
「ああ、先週海行ったから。」
「海とか行くんだ?」
「俺だって海ぐらい行くよ。」
「彼女と。」
「バーカ。彼女できたなんて言ってないだろ。まあ女の子もいたけどさ。」
「へー。あ、なんかつまみ頼もう」
「興味無しかよ」
「すいません。枝豆と軟骨揚げ!あと冷ややっこお願いします。」

いつもの通りの特に内容もないが気楽な会話。二人で会うようになったこの数年の間、どちらかに彼氏、彼女がいたこともあった。会う頻度が物理的に減るせいもあるが、互いに相手ができた時は必ず報告する流れになっていた。何なら他の誰よりも早く報告する相手になりつつある。それでも金曜の夜に連絡を取り合い、会える日に落ち合うのは途切れることなく緩やかに続いてきた。
一度、優の彼女に明子の存在が知れて喧嘩になったことがある。何がきっかけで彼女がそういう行動に出たのかは今となっては分からないが、携帯を勝手に見られ、金曜の夜に必ず連絡を取っている女性がいたので当然の如く相手は不信がった。昔からの知り合いなので疚しいことは何もない、浮気でもなければ彼女でもない、ただ金曜の夜にたまに会って飲むだけだ、そう説明したが分かってはもらえなかったようだ。ほどなくして彼女の方から別れを切り出したそうだ。別に心配する必要はないのに、というのはこちら二人だけの都合で、周りはそのようには見てくれないのだろう。
そう、何も知らない人に二人の関係を説明しようと思ってもできない。恋人、友人、飲み友達、セックスフレンド、そのどれでもないし、ただ会って食べて飲んで話をした後に、電車で、時にはタクシーでそれそれの家に帰るだけだ、それ以上でもそれ以下でもない。誰に何を言われてもそれだけなのだ。
 二人をつないでいるのは、夜だ。二人とも夜の深い時間、眠らない東京の街でささやかに
祝杯をあげる。誰にも邪魔されることなく。
優の彼女にばれる事件があって以降も二人の距離感や会う頻度は特に変わらなかった。どちらともなくメールをし、会ったり会わなかったりする。

「なんか、親にお見合い勧められてんだよね」
「へぇ。三十路過ぎて彼氏もいないからいよいよ心配してんのか」
「ねぇ。断るにも理由がないとめんどくさいからさ」
「俺、乱入しようか」
「親になんて説明すればいいかわかんないからやめて」
「ところで、こないだ久しぶりに映画見てさ・・・・・」

今日もとりとめのない会話は続いていく。
いつか、終わる時が来るのか。どちらともなく会わなくなるのか、どちらかが終わりを告げる日がくるのか。
それは何をきっかけとするのか、結婚か、引っ越しか、それとももっと精神的なものなのか。今は分からない。その時はその時なのだ。
それでも今は、約束をしない金曜日を重ねていくのだ、
相手を縛らない、約束はしない。
それが二人の約束なのだから。


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このストーリーに関するコメント

17/10/25 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
約束はしないことが約束、着眼点にまず感服しました。
二人の関係は特異的である一方で実際にあり得る関係でもあると思います。
とりとめのない会話の中に互いの安らぎや癒し、焦りや不安、依存心などが見え隠れし、軽妙さの中に現実的重みもあり、読み進めながら胸の奥の奥がジリジリするような、ざわつくような感覚がありました。
素晴らしかったです!

17/10/27 小峰綾子

光石七さん 見に余るお言葉ありがとうございます。嬉しいです。実際に見聞きしたことのある話のいくつかを自分の中で膨らませて文章にしたつもりです。少しでも響いたのであれば光栄です。

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