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ちりぬるをさん

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銀行強盗にはロマンがある

17/09/15 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:1件 ちりぬるを 閲覧数:193

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 身支度をしながら観ていたテレビから連続銀行強盗のニュースが流れてきた。その手口を紹介する再現VTRを鼻で笑いながら僕は家を出た。

 手足を縛られた状態でかれこれ三十分が経つ。目指し帽を被った男の狼狽ぶりは相当なもので、僕を含む人質全員がもう諦めて投降すればいいのにと思っていた。
 この犯人は巷で流行の連続銀行強盗に便乗した模倣犯だった。なにせ手際が悪い。人質を拘束している間に防犯ブザーを鳴らされ瞬く間に完全包囲されてしまった。
 それでも彼は諦めずに持参したバッグに札束を詰めながら、時々僕らの方に銃口を向ける。多分撃つ気はないのだろう。それどころか本物ですらないのだろう。犯人には申し訳ないが、行員と居合わせた客合わせて十人の人質は誰一人危機感を持っていなさそうだったし、僕が考えていたのは早く警察が突入して帰らせて欲しいということだけだった。

「あの」僕の後ろから声がした。さっき窓口で僕の受付をしてくれた女性だった。
「あなたもう逃げきれないの分かってますよね? 早めに自首しませんか?」
 普通ならば犯人を刺激することを言うなという流れになるのだろうが、ここでは「よく言った!」という空気が流れた。
 犯人の男はバッグを閉めるとゆっくりと振り返った。顔が隠れていてよく分からないが女性のことを睨んでいるように見える。そのまま僕達の方へ歩み寄り、机の上に飛び乗った。僕達を見下ろす。
「あんた達には申し訳ないことをしたな」
 頭こそ下げないが意外にも優しい穏やかな声だった。
「おふくろが病気になっちまってよ、手術するのに大金がいるんだ。俺の稼ぎじゃ到底払えないような金額でさ。頭抱えてた時にテレビで銀行強盗のニュースを見たんだ」
 それで思い立ったのならば恐ろしく短絡的で無計画だ、と僕は呆れる。
「小さい頃から女手一つで俺を育ててくれたおふくろなんだ。だから絶対に捕まるわけにはいかねえ」
「どうでもいいわ」
 犯人の浪花節が全く響かなかったのか、女性は吐き捨てるように言った。
「そんな話どうでもいいからさ、早く逃げるなり、捕まるなりしてくれないかな? 私このあと用事があるんだけど」
 犯人があっけにとられたように彼女を見る。それは僕ら人質も同じだった。いくら偽物の銃を持った間抜けな強盗とはいえ、この状況でそんなことを口に出来る神経と度胸は賞賛に値する。
「……大事な用なのか?」
「合コン」
 その場の全員がもう一回り目を丸くした。
「なによ? 相手はセレブなのよ? このチャンスを逃して私の婚期が遅れたら責任取ってくれるの?」
 周囲の呆れ顔を不満そうに見回しながら彼女が言った。彼女の婚期を遅らせている原因はおそらくその性格だろうと僕は思ったのだが、犯人よりも彼女を怒らせることに危機感を持った僕は黙っておいた。
「あんた名前は?」
 犯人が銃を女性に向けて尋ねる。彼女は「守屋よ」と一切物怖じせず胸元の名札を見せながら答えた。
「俺は西野だ」
 犯人はこともあろうに目指し帽を脱いで自己紹介をした。
「守屋さん、よかったら俺と付き合わねえか?  肝の座った女は嫌いじゃない」
 驚愕も過ぎると麻痺して何も感じなくなるらしい。僕はいったい目の前でなにを見せられているのだろう? という疑問で頭が一杯だった。他の人質の様子を伺うと皆同じように眉間にしわを寄せていた。
「まあ、顔は悪くないし。母親思いな所もあるし。それに……お金もあるし」
 彼女はバッグを一瞥し、頷く。
「ただし条件があるわ、無事に逃げられること」
「そこは僕が協力しよう」
 思わず口走ってしまった。皆の視線が新たな登場人物である僕に向けられる。目立たないように心掛けていたが仕方ない。
「地下のボイラー室から下水道に抜けられる隠し通路を作っておいた。それを使うといい」
 付き合いたての二人はこれまで散々人を驚かせておきながら、僕の言葉にポカーンと口を開けている。
「早く行って」
 僕が急かしてようやく二人は現金の入ったバッグを手に走り出した。溜め息をつく僕を事態を飲み込めない人質達が説明して欲しそうに見つめる。
「ここで起きたこととこれから話すことは内緒ですよ。皆さんの顔は覚えましたから他言したら殺しますよ」
 皆は取れて落ちそうなほど首を縦に振った。
「僕が巷で流行りの連続銀行強盗なんですよ」
 皆が一歩分後ずさりした。
「本当は明日強盗に入る予定で用意してたんですけどね、先を越されては仕方ないです」
 まさか最後の下見に来て別の強盗に巻き込まれるとは思ってもみなかった。
「なぜ彼らを助けたのですか?」支店長が尋ねる。
「どうせあの通路はもう使わないですから。それに、面白いものを見せてもらったお礼です」
 僕はニッコリと微笑む。機動隊が突入してきたのはその五秒後だった。


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このストーリーに関するコメント

17/11/19 光石七

拝読しました。
銀行強盗のニュースを鼻で笑った矢先に自分が銀行強盗に巻き込まれるなんて……と思っていたら、犯人の手際の悪さに肩透かしを食らい、さらに突然の交際申込とOKに驚きました。
そして明かされる主人公の正体。
二転三転する展開に翻弄されました。でも、それが心地よかったです。
面白いお話をありがとうございます!

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