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FRIDAYさん

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機械仕掛けの約束

17/09/14 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 FRIDAY 閲覧数:180

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 科学技術の発展と相反して資源開発と環境問題が限界を迎え、人類が叡智を絞った宇宙船に乗り地球を離れ、約千年。地球に残った者たちは、わずかな土地を守りつつ少しずつ地球を再生し続けていた。『償いの浄化』と計画された地球の再生は困難を極めたが、しかし残された者たちは決して諦めなかった。いつか旅立った人々を迎えるために。
「……だがそれも、昔の話さ」
 蜜蝋の灯りが小さく照らす酒場のカウンターで、琥珀色の液体の注がれたグラスを傾けながら、男は言った。
「今じゃあ誰もそんなこと考えちゃいねえ。ただ課された指令に否応なく従うだけさ。出てった連中はここに帰る気なんざない。捨てたのさ。俺たちに不始末を押し付けて、な……実際、ここまで再生できるなんて思っちゃいないだろ」
 なあ、と男は椅子を一つ挟んだ隣の女に言う。女は口許に淡い笑みを浮かべたまま、何とも答えない。
「自分たちの存在意義、なんてのは連中の大好きな文句だが」男は構わずに続ける。「俺たちにゃあ明確だ。地球を浄化するため。けれどその先はない。全てが終われば、用が済んだ俺たちはどうなる。ただでさえ汚染に呑まれて俺たちの数は減り続けている。しかもそれ以上の命令はない。さて……どう思う」
 男の問いかけに、女は首を傾げる。
「考えたこともありませんが……概ね予想はつきますね」
「俺たちがどれだけ頑張っても、報われることはないのに、なぜ俺たちは活動し続けなければならない? せめて自我を持たなければ、こんな先のなさに絶望することはなかった」
「確かにそうかもしれません。いつからでしたか、私たちがそう思うようになったのは。四百年前でしたか」
「定かじゃねえ。だがいつでもいいし、無駄なことはわかってる。俺たちは指針に従わずにはいられない――虚しくとも。あんたは?」
 女は薄く笑んでいる。
「あんたも長いことこの辺りを浄化しちゃいるが、難航してるだろ。俺も随分前からここでやってるが、さっぱり進んじゃいねえ。あんた、前はどこにいたんだ」
「日本、ですね。小さな島国ですから、さして時間もかかりませんでしたよ」
「だがあそこも相当酷かったと聞くぞ。そこを終わらせてきたんだから大したもんだ。その上休まずこっちに来て、立派なもんさ。だが理解できねえ」
 なあ、と男は問う。
「あんた、どうしてそんなに頑張るんだ? 指針に従うとも、やり方は俺たちの裁量だ。けどあんたは何のズルもしてない……何でそんなに急いでるんだ」
 女はしばらく答えなかった。浅く開けられた窓から緩い風が入り、灯火を揺らす。
 ふ、と女が小さく吐息した。笑みを含んだ吐息だった。
「約束を、したんですよ」
 そう答えた。
「誰と、どんな約束をしたんだ」
 女はグラスを傾けた。唇を湿らせる程度に口に含み、飲む。
 昔語りですよ、と女は言った。
「私は以前はハウスメイドでしてね。とある屋敷に仕えていました」
「そういう連中もいたな。全員、残留組だ」
「私もその一人で……お仕えした屋敷のお嬢様と、別れのときに一つ約束をしたのですよ」
 どんな、という問いかけに、女は笑みとともに言った。
「『私は必ず帰って来るから、その時までに地球を綺麗にしておくこと。それからまた、お母様に内緒で遊ぶの。やりたいことがいっぱいあるんだから』、と」
「それは約束じゃなくて、指令だろ」
「私もそう思いましたが、お嬢様は続けて言ったのです。『約束よ』ってね。だから私にとって、これは約束です」
 女の言葉に、しかし男は鼻で嗤った。
「俺たちに向かって約束とはな。いやに幼いじゃないか」
「ええ、幼い。お嬢様は少女でした。けれどお嬢様は私と約束をした――それが全てなんですよ」
 言って、女はグラスを一息に呷りカウンターに置くと、立ち上がる。
「行くのか」
「ええ、約束を果たすためにね」
 女は出口へ去る。その背に、男は言った。
「連中は帰るかわからない。ただでさえ千年経ってる。それでも待つのか」
「ええ、約束ですから」
「連中はとうに塵になってるか、あるいはどこかに安住してるかもしれん。それでもか」
「ええ、約束ですから」
「これで最後だ」
 男はグラスを置いて問うた。
「例え連中が戻っても、千年だ。あんたのそれは、もう千年前の約束というわけだ。つまりあんたのお嬢様は十中八九、もう生きちゃあいない――それでもか」
「ええ」
 女は出口で立ち止まり、浅く振り返って笑んだ。
「それが、私とお嬢様との約束ですから」
 扉の鈴の音を置いて、女は出ていった。

 人類が地球を捨てて、千年。
 せめてもの罪滅ぼしにと置いていった自動人形たちは、いつか彼らが帰るその日のために、ただ世界を浄化し続ける。
 例え、人類が戻らぬと知ろうとも。
 己の行いに無意味を悟ろうとも。
 小さな約束を果たすために。


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