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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
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かるた

12/12/06 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:3件 メラ 閲覧数:2028

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 子ども達がカルタ遊びをしているのを、オレは従兄弟のマサルと一緒に、ちびちびと酒を飲みながらぼんやり眺めていた。カルタの文面を読み上げているのは同じく従姉妹のミホだ。ミホはマサルの姉にあたる。
 台所ではオレの妻とお袋、妹と叔母さんの四人で正月料理をせっせと仕込んでいる。
 ミホは昔から絵本の読み聞かせなどが上手だった。だから今もこうして聞いていても、なかなか気の利いた言い回しでカルタの文面を読み上げる。「ことわざかるた」というカルタなので、いっそうのこと、ことわざの言葉の響きが心地よく聞える。
「犬も歩けば棒に当たる」
 ミホがそう読むと、オレの子どもが一人、妹の子供が二人、マサルの子供二人と、マサルの嫁さん達が、わあっと歓声を上げて、『い』のカルタに群がる。
「姉ちゃん、読むの上手いな」
 ぼそっと、独り言のようにマサルがつぶやいた。酒に弱いマサルは熱燗のお猪口を何杯か飲んだだけで顔を真っ赤にさせていた。そして「あのカルタ、昔よくやりましたね」と、しみじみ言ってから、お猪口に残った温い酒を煽った。
「ああ懐かしいな。オレ達もああして、ばあちゃんに読んでもらったな」
 そう、あのカルタはオレが子供の頃からあるものなのだ。今は世代交代し、自分の子ども達がそれで遊んでいるというのは、妙なものだ。
 こうして親戚一同で揃って集まる事は今回が始めてかもしれない。だから親父とお袋は突然賑やかになったせいか、妙に興奮しているような、変な状況だ。無理もない。親父は火葬が終り、それからずっと酒を飲んでいたせいで、今は昼寝している。晩飯になったら起してくれ。
 今日、ばあちゃんの告別式が終り、オレ達は親族だけで、喪服姿のままオレの実家に集まった。精進落しさながら、元旦にぽっくりと亡くなったばあちゃんの遺骨を祭壇に置いて、そのまま正月のお祝いのような、奇妙な催しが広かれようとしている。
 マサルは目を閉じている。放っておいたらこのまま眠ってしまいそうだ。マサルは一番ばあちゃんっ子だったので、今回のばあちゃんの死はかなりショックだっただろう。しかしばあちゃんはもう九十一歳だったし、認知症のせいで心は半分あっちの世界に行っていたのだ。そしてここ一ヶ月、急激に弱っていた。皆覚悟はできていた。だからそれほど哀しみに暮れる葬儀でもなかった。
 外は雪がちらついている。北陸の冬はやはり寒い。生まれ育った我が家とはいえ、すっかり東京の生活に慣れたオレには、この寒さは堪える。ビールより熱燗ばかり飲むものだから酔いが回って困る。
 ミホは笑顔を浮べ、ゆっくりと「ことわざかるた」の文面を読み上げている。子供たちはカルタとミホを交互に見ながら、ワクワクした様子で楽しんでいる。
 ミホは少し膝を崩して座っている。黒いストッキングに包まれたふくらはぎが、いつも以上に艶かしく見えてしまい、オレは首を振って酔いを醒ます。何を考えているんだ。
 子供の頃、二つ年下のマサルとはよく遊んだが、ミホとはそれほど親しくなかった。いつも遠めに、その美しい姿をした同じ歳の少女を見ては、子供心にうっとりしたものだ。
 ミホは半年前に離婚して、この町にまた帰ってきた。大阪での五年間の結婚生活は、ミホにとっていったいどんなものだったのだろう。
 ミホは髪の毛を耳にかける。文面に視線を落としていたから、オレは安心してミホの事を見ていたのだが、ふと彼女が目を上げ、オレと視線がぶつかった。オレは目を逸らすにもタイミングが遅く、ただぼんやりと、彼女と見つめ合った。
「あ、リュウくんのパパ、もう酔っ払っているのかな?」
 ミホはオレの息子のリュウにそんな事を行って笑った。
「うん、パパね、金曜日はもっと酔っ払うんだよ」四歳の息子は、そんな事を言うものだから、オレは思わず苦笑いをする。しかしそれが都合のいい照れ隠しになった。 
 ミホは再びカルタの文面を読み始める。少し屈んだ白い胸元に、小さなネックレスが光る。カルタの文面を持った左手には、指輪ははめられていない。三十台半ば、まだまだ肌艶は瑞々しく潤っている。
 子供達のはしゃぐ声。必要以上に明るいミホの声。窓の外へ目をやると、相変わらずふわふわと、白い雪が降り続ける。
 オレはおもむろに立ち上がり、酒のつまみをせびりにいくため、台所へ向かった。隣にいるマサルはすっかり眠りこけている。ミホの横を通り過ぎると、またその細い足先に目を向け、オレは唐突にもミホがかつての夫と過ごした、夜の夫婦生活を想像してしまい、また頭を振り払った。何を考えているんだ。


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このストーリーに関するコメント

12/12/07 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

いつもながら、読ませる作家ですね。
細かい描写がリアルで繊細です。
実に良い!

本当に素晴らしい文筆家だと思いました。

ありがとうございます。

12/12/08 草愛やし美

メラさん、拝読しました。

そうそう、まったく違った邪念が浮かぶってありますね。あまりのリアルさに、オレ=メラさんで読んでしまいました。(苦笑)

12/12/15 鮎風 遊

かるたに、男の心情が交錯する。
なぜか納得しました。

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