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風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 アマゾンの電子書籍キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
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感覚シェアデバイス(自由投稿版)

17/09/13 コンテスト(テーマ):第114回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 風宮 雅俊 閲覧数:76

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 モニターアンケートで当たった『感覚シェアデバイス』を装着するとベッドに寝転び装着感を整えると、スイッチを押した。起動画面に続いて星の海に浮かぶ地球が現れるとその横にメニューが表示された。
「ようこそ、バーチャルトラベルです。お客様は本日より『冒険家コース』の選択が可能になります。免責事項をご理解の上、誓約書に『同意』のボタンを押してからお楽しみ下さい」
 抑揚のない音声出力に合わせて免責事項がスクロールしていく。いよいよ、このアプリの目玉機能にアクセスが出来る様になった。

 感覚シェアデバイスは、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感を感覚提供者が装着している感覚サプライデバイスからの信号がクラウドにストックされ、好みのトラベルを『実体験』するデバイスだった。
 名所巡りの初級コースの時には、ナイアガラ滝の遊覧船で身体を揺らす大音量と水飛沫で肌に張り付く冷たい服。実際に濡れなくても遊覧船から降りるシーンの頃には、温かい部屋なのに震えが止まらず翌日には風邪をひいていた。
 旅慣れた者の中級コースの中には路地裏を彷徨うコースがあった。その時に選んだのはイタリアの路地裏のコースだった。表通りから裏通りに入る。地元民しかいない静かな道、日常がそこにあった。おばあちゃんが日向ぼっこをしている角を曲がると誰もいない静かな道だった。陽の光に溢れ季節も時間もない様な道だった。もう一歩進んだ時に激痛が襲い地面に叩きつけられた。感覚提供者は殴られ意識を失っていたが、薄目に映る犯人の顔、荷物を物色している音がデバイスを通して伝わって来た。PTSDを発症してもおかしくない衝撃だった。翌日、クレームを入れるとさらりと躱されてしまった。上級コースに進む上で誓約書を取っている事と不適格者はフィルタリングで弾いているとの事だった。そう言われても事件後は前より後ろを見て歩くようになっていた。

 いよいよ、このシステム最上級の冒険コースにアクセス出来るようになった。トラベルの延長線上に冒険があるとは思わないものの普通の生活を送っている者には踏み込めない場所を体験できるのは魅力的だった。
「冒険家コースにはアーカイブとライブの二種類があります。アーカイブにはダイジェスト版とフルレコード版の二種類があります。ご希望のトラベルをお選び下さい」
 音声ガイダンスの後に冒険コースが表示された。スクロールをして見ていくと一番下に『ライブ グリーンラウンド横断』があった。ライブはこれ一つしかなかった。何があったか分かっているアーカイブより、次の瞬間に何が起こるのか分からないライブ。これこそ冒険コースに相応しかった。

 呼吸を整え感情をフラットにした。冒険家の感覚と自分の感覚が混ざる時に身体がズシリと重くなり倦怠感に襲われる。最初の一分間がこのデバイスの欠点だった。感覚がクリアーになるに従い自分が氷の平原に立っている事が分かった。
「頑張って来いよ」
 丁度、出発式のようだ。協賛する企業の名前が並んだ板の前を冒険家は一歩一歩とソリを引きながら進んでいく。目の前には真っ白な大地が地平線の彼方まで広がっていた。
 目に映るのは空の藍と氷床の白。聞こえてくるのは一歩踏み込むごとに鳴る氷の音、一歩進むたびにズシリとついて来るソリと氷が擦れる音。風一つない快晴だ。
 一キロほどして冒険家は思い出したように振り返った。そこには前方と同じ真っ白な大地が広がっていた。スタート地点のステージもアーチもなくなっていた。
 夕方一時間前の力を失いつつある陽射し。長く伸びた影がゆっくりと回って行く白夜。
 極めて順調であり、極めて単調であった。

 気が付くと朝になっていた。眠りに落ちると強制切断され自分のベッドにいる事が認識出来た。時間のない牢獄みたいな場所だった。最初は、これが白一色の大地グリーンランド。これが太陽の沈む事のない白夜だと思った。冒険と言う観光も悪くないと思った。しかし、想像を絶する単調は牢獄のようだった。


 あれから、四週間が過ぎていた。自分でも不思議なくらい毎日『ライブ グリーンラウンド横断』を選んでいた。
 天気に恵まれている時は、氷床の上を黙々と進むだけだった。変化のない弱々しい陽射しと進んでも変わらない風景のなか、時間の経過も前に進んだ実感も何も得られなかった。
 ブリザードの時は、半畳ほどのテントの中で体力と食料の消耗を防ぎながら待っていた。聞こえてくるのはテントを叩く氷の音に紛れて、冒険を後悔する呟き、ポップスを口ずさむ声、横断計画の協賛金をケチったスポンサーを罵る叫び・・・・
 彼の目を通してみる日記、彼の耳を通して聞く声、五感しか伝わらないデバイスなのに彼の気持ちが手に取る様に分かった。

 友人からは、まるで別人のようだと。物事に動じなくなったと驚かれる様になった。確かに変わった。冒険と比べれば日常のあらゆる事が、大事件だと感じていた事がある意味、怒られるだけの事、やり直せば良いだけの事だった。

 今日も家に戻ると感覚シェアデバイスを装着してベッドに寝転んだ。何が楽しい訳ではない。すでに、彼だけの冒険ではない。自分には見届ける責任があった。
 順調であれば、ゴールまで数日の距離になっていた。食料の大半は消費してソリは軽くなっている筈なのに・・・・踏みしめる一歩一歩に力がなく遅くなっている。彼の独り言はもはや英語ですらなくなっていた。
 目に映る風景は縞模様のある氷床・・・・、踏みこんではいけない氷河の上を歩いていた。
「クレパスがある。おい、見えないのか! いや見えている筈だ。止まれ!! 止まれ!!!」
 絶叫していた。デバイス装着時の激しい感情は脳に障害が出る危険性があると免責事項にも書かれていた。
 彼はクレパスの隙間から落ちると氷壁に叩きつけられ、身体が逆さまになって止まった。

 何時間が過ぎただろう。ソリがストッパーになった事、頭が上向きに戻っていた事で一命を取り留めていた。しかし、ソリのロープが腕を締め上げ指先の感覚は殆どなくなり、呼吸の度に背中に激痛が走った。
 彼は氷壁にしがみ付くとよじ登り始めた。腕を動かす度にうめき声が上がり、足を動かす度に奥歯が潰れるほど噛み締めていた。
 激痛が彼を正気の世界に引き戻していた。不要な装備はクレパスに残し僅かな食料を寝袋に詰めると足を引き摺りながら歩いた。


 海が見えた。青く何処までも広がる海。打ち寄せる波の音。沖合には迎えの船が待機していた。
 彼はへたり込むと、呟いた。
「終わった」


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このストーリーに関するコメント

17/09/13 風宮 雅俊

あとがき

 投稿条件の二千文字に対して二千五百文字ほどになった作品を規定文字数まで削って投稿しましたが、色々と無理がありました。そこで、文字数に制限なく書き直したのがこの作品です。と言っても三千文字を越えていませんが。

 この作品を書くにあたり「感覚シェアの範囲」をどこまでにするか?で悩みました。五感と感情を共有するとより没入感のある作品が書けると思いました。しかし、異性に対する感情は男性設定であれ女性設定であれ逆の性が感覚シェアすれば、そこには嫌悪感しかないと思いました。そこで「五感と共感」をキーワードに作品を書き進めました。

17/09/13 風宮 雅俊

 もう一つの問題として、「冒険のリアリティー」を何処に置くのが共感されるのか?でした。ドキュメント番組を見た時に「冒険映画のラストシーンの様な勝利の雄叫びみたいなものはない」と、ある冒険家の言葉がありました。確かに、身近な事例として受験にしても仕事などでのプロジェクトでも難易度が高いほど、葛藤や不安、後悔など様々な感情が渦巻いたのではないでしょうか。そして、終わった時に全身を覆う開放感。「明日からはやらなくて良い」これだと思いました。
 チャレンジした者は、ある者は数日、ある者は数秒かもしれません。暫くしてから、自分には出来た達成感。限界を超えた喜びが湧きあがって来るものだと思います。

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