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小街さん

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第六編

17/09/13 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 小街 閲覧数:140

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 ワイドショーはいつも能天気だ。いまここにある危機を伝えようともせず、どうでもいい政治家の口利きや芸能人の不倫、果ては盗聴までして有名人を晒し者にして喜んでいる。
 警視庁警備課の松井は同僚の石川と一緒に、昼飯にそばを手繰りながらカウンターの端にあるテレビを見ながらそう思った。そもそも僧侶が見つけた古文書を東大の偉い先生に鑑定してもらうために運ぶのをなぜ俺たち警察が警護するんだ?これは警備会社の仕事だろ。苛立ちながら汁を飲み干した。
 
 その時、ワイドショーの画面が大きく変わって「世紀の預言書発見か!」との見出しが躍り出た。それは、日本の占星術、宿曜道の江戸時代の達人が現代の先まで見通した「預言書」が発見された、というものだ。俺たちがさっき大学まで搬入に付き添った本じゃないか! 松井は目を丸くした。
 ワイドショーによると、この古文書は、僧侶の家の整理を手伝っていた古美術収集家の友人が見つけたもので、およそ100年前の写本らしい。この古文書は今まで第五編までと思われていたが、どうやら見つかった古文書は未確認の第六編の可能性がある。さらに第五編は第二次大戦の勃発までの預言だが、第六編は現代の少し先まで預言している。だがその内容の恐ろしさのあまり為政者により写本も焚書されてきた。明治までこの六編の噂は絶えなかった。という。
 こんな古文書とその噂の紹介の最中、古文書を発見した“友人”が心不全により先ほど亡くなった、と騒ぎ始めた。司会者は人が死んだのに「あー中を読んだ人が死んじゃったら、何が予言されていたのか聞けないですね−、残念!」などと言っている。そして次の瞬間、つい数時間前に自分の使用人と俺たちに古文書を預けた僧侶自身が、記者会見の直前、石段から足を踏み外し転落、死亡したとの速報が入った。

 嫌な予感がする。隣にいる相棒の肩を軽くたたき俺たちは店を飛び出した。俺たちの仕事は古文書を送り届けること、そして判定結果がでたら文科省が管轄するしかるべき研究所へそれを再度届けることだった。今日の仕事は終わっている。しかし俺は今までの経験から“予感”を信じることにしている。
 赤門前の歩道を疾走し、赤門をくぐり抜ける。古文書を預けた蓬原教授の研究室があるF-2棟が見えてきた。ワイシャツが汗で背中に張り付く。石造りの建物の入り口に着くと松井は「石川!お前は向こうの階段から3階の先生の所へ」と小声で指示し、中へ入った。ひんやりとした冷気をほおに感じる。エレベータじゃない。階段だ。松井はそう思い階段を駆け上がる。建物の中は静寂そのものだ。「気のせいか」3階に着いた松井はそう思い、歩き始めた。
 その時、白い布をかけたトレーを両手に持つ一人の女が角を曲がって松井のいる階段へやって来た。すれ違う前に松井はとっさに「それは何ですか?見せてください」と言って女の行く手を遮った。女は慌てる様子もなく落ち着いている。素人じゃない。「これから年代測定をする資料です」女が言い終わる前に、松井は布をまくり取った。
 『宿曜経法録 六』!さっき蓬原先生の研究室に届けた古文書だ、と思ったその時、女は折りたたんでいた警棒を松井の頭に振り下ろしてきた。松井はとっさに女の手を取り、投げ飛ばす。床に伏せた女を後ろ手に手錠をかけ、古文書を手に取り、女を引きずりながら蓬原研究室に入った。松井は叫んだ「先生!蓬原先生!」蓬原教授はたばこを吸いながら椅子に座り“あーぁ”と、呆れた顔をしてこちらを見た。

 「あなたが捕まっちゃってどうするの。この一本を吸い終わったら、文書が盗まれたと警察に電話しようと思ってたのに。電話しなくて良かったわよ」細くかすれた独特な声。
 「蓬原先生??」松井は何が起きているのか判らなかった。その時、遠くで「松井さん!」と叫ぶ石川の声がした。石川にも何かあったらしい。蓬原教授は二本目のたばこに火を付け話を続けた。「宿曜経法録。江戸時代凄い数学者が日本にいてねぇ、関孝和、聞いたことない? この関先生は算術で未来も確率を交えて予知できると考えたのね、そしてその当時、徳川吉宗に仕えた僧侶で宿曜士の覚勝から占星術を学んで、二人で書き起こしたのがこれ。もうないと思ってたらまだ写本が出てくるんだから」。松井の背後の扉から二人の男が部屋に静かに入ってくる。
 蓬原教授は続けた「これね、年代に誤差があるけど全部あたってるの。でもね、最後の六編の終わり方があまりにもきつすぎたの」。と彼が言ったところで松井は頭に強い衝撃を感じた。遠のく意識でかすかな女の声を聞いた「この二人が戻って来ると思わなかったわ。とんだ事件になるところよ。この六巻はあってはならないの。日本が、世界が間もなく滅亡するなんて公表できない。何の意味もないニュースを見ている方が人は幸せなの・・」。


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