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吉岡 幸一さん

性別 男性
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ロマンチックな約束

17/09/13 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:1件 吉岡 幸一 閲覧数:557

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 サスペンス映画を観終えた後、ハンバーガーショップに立ち寄ったふたりは映画の感想を言い合いながらポテトをつまんでいた。
 殺害された恋人の後を追って女が海に入っていくシーンで映画は終わった。あの世で結ばれよう、と死の直前に恋人と交わした約束を果たすために女は海に身を沈めたのだった。
「約束を守ることって大切なことよね」
 彼女はうっとりと目を閉じて美しい女優の顔を思い浮かべるように話した。彼はぼんやりと彼女の顔を眺め、アクション映画を観たかったと思っていた。
「男の方はこの世で結ばれたかったんだろうけどね」
 そう言った彼の皮肉は通じなかったようで、彼女は真顔で「あの世で結ばれる方がロマンチックじゃない」と、力を込めて答えた。
「まあ、確かに」
 彼は皮肉を言ってしまったことをすぐに後悔し、作り笑いを浮かべて愛想良く同調した。先に惚れた手前、彼女の機嫌を損ねたくはなかった。
「そういえばあの約束のことなんだけど、次の日曜日にお願いね」
 余韻を引きずったまま言う彼女の笑顔につられて、彼は「わかっているから」と反射的に返事をしてしまった。
 約束って・・・・・・。彼には思い当たる節がなかった。曖昧な笑顔を返しながら記憶をさかのぼってみるが何かを約束した覚えがない。
 約束ってなんだったかな、と軽い感じで聞き返せば良かったのかもしれないが、彼はここ最近の彼女との会話を頭の中で探っている間にタイミングを逃してしまった。
 後でメールのやり取りでも見ればわかるだろう。忘れているくらいだからたいした約束ではないんだろう。そう思って流してしまったが、帰ってから過去のメールを確認しても約束らしい内容は見つからなかった。
 メールに残っていないのなら、会っているときに何かを約束したのだろう、ということは想像がついたがどう頭をしぼっても思い出せなかった。
 彼女とは今年の夏にバイト先で出会い、彼の告白から付き合い始めてまだ一ヶ月しかたっていなかった。互いに大学二年生、容姿に恋をした彼はまだ彼女のことをよく知らなかったが、これから徐々に知っていけばそれで良いと思っていた。
 同じ大学なら友達経由で約束の内容を探り出せたのかもしれない。バイト先が同じだったとはいえ、互いに短期のバイトだったため周りに聞けるような相手はいなかった。
 次の日曜日までに何度かメールや電話をしたが、がっかりされるのが嫌で約束の内容を聞き出すことはできなかった。口から出かけてはすぐに口を閉じてしまっていた。
 日曜日、会った彼女はいつもより少しおめかしをしていた。先週観た映画の女優のように首にピンクのストールを巻いていた。
「今日が約束の日なの覚えている?」
 彼女は会うとすぐに聞いてきた。焦っているというより、待ちわびているといった感じだった。
「ああ、もちろん、わかっている」
「じゃ、行きましょうか」
 そう言うと彼の手をとった。どこに行くのか、聞くこともできず彼は手を引かれるまま彼女についていった。
 バスに乗って着いた場所は海岸だった。目の前には波の荒い緑色の海が広がっていた。
 そうか海を見に行く約束をしていたのか。思い出したわけでなかったが、彼はそう確信した。恋人に海辺の景色はよく似合う。この前観たサスペンス映画でも恋人同士が浜辺でキスをするシーンがあった。きっと映画の後にでも「今度、一緒に海に行こう」と言ったのかもしれない。軽い気持ちで言ったから覚えていなかっただけなのだろう。
 疑問が晴れたことにほっとした彼は、勢いのまま彼女を抱きしめると唇を寄せた。初めてのキス、彼女の涙かと思えば空からぽつぽつと雨粒が落ちてきだした。
「さあ、行きましょう。約束をはたしましょう」
 彼女はつよく手を握ると彼を引っ張って海に入っていった。なんという強い力。彼は何が起こったのかよくわからないまま海に足を踏み込んだ。
「約束って何? 海を見に来るのが約束じゃなかったのか」
 我に返った彼は叫び手を振りほどこうとしたが彼女の手は離れなかった。
「怖くなったの。ねえ、一緒にあの世で結ばれようって約束したじゃない」
「そんな約束はしてないよ。それに誰も僕らのこと反対していないんだから、この世でだって・・・・・・」
「あの世で結ばれる方がロマンチックでしょう。まるで映画みたいで」
「冗談はやめてくれ」
「約束したでしょう。ねえ、約束はまもらないといけないのよ」
 約束などしていない、と再び言いかけた彼の口に海水が流れ込んできた。彼女はかまわず奥へ奥へと進んでいった。
「ああ、なんてロマンチックなの」
 差し込んできた太陽が雨粒と波にあたり輝いていた。彼女はうっとりと微笑みながら波にのまれていった。


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このストーリーに関するコメント

17/10/28 光石七

拝読しました。
何の約束か、ちゃんと彼女に聞いて確認しておけば……
でも、聞くに聞けない主人公の気持ちもわかります。
面白かったです!

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