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浅月庵さん

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可能性探偵と消えた読書感想文

17/09/12 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:291

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 脳が活性化しすぎて夜眠れなくなるからと、子どもみたいな理由でコーヒーを拒んでいたハガナイさん。
 そんな彼の実家からコーヒー豆が送られてきたので、せっかくだからと二人で味わうことにした。
「ハガナイさん、ちょっと聞いてもらいたい話があるんですが」
「それは私への事件依頼かな?」
「お金は出せません」
 彼は途端に黙り込むと、新聞に視線を戻す動きだけで私の質問を拒絶した。
「ところで、コーヒーはまだかな?」
「それは探偵助手への仕事依頼ですか?」
「別料金は出せない」
「別もなにも、今月分のお給料がまだです」ハガナイさんはバツが悪そうに新聞で顔を隠すので、ここぞとばかりに畳み掛けることに決めた。「話、聞いてもらえますよね!?」
「両耳を傾け倒そうじゃないか!」

 姪は小学生で、つい先日まで夏休み期間中でした。
 休暇中の宿題はお母さんの見えるところで片付けていたみたいなので、読書感想文も同様に書き上げたようです。ただ、その内容に関しては、母親に一切見せようとはしませんでした。
 そして夏休み明けの登校初日、姪は先生に言いました。
「読書感想文を失くしてしまいました。今朝、ランドセルに入れたところまでは覚えてるんです」 

「ハガナイさん。感想文がどこに消えたかわかりますか?」
 そう聞かれた探偵は、コーヒーを何口か啜って言った。
「まずは“可能性”を列挙しよう」
 ハガナイさんは様々な事件に対し、思いつく犯行の手口をこれでもかというほど並べることから“可能性探偵”と呼ばれていた。

「まず、登校中にランドセルの中身をぶち撒けたなんてことは」
「ないみたいです」
「学校に到着してから席を外したなんてことは」
「ないです。他の生徒による盗難の線も薄いかと」
「それじゃあ、その感想文が自動で消滅してしまうような」
「えっ?」
「......ゴホン、間違えた。実はランドセルの底に小さなブラックホールが」
「そっちの方がありえないです」

 ハガナイさんは長く溜息を吐くと、天を仰いだ。
「頭が冴えてきたぞ」
「えっ?」

「ちなみにこの読書感想文殺人事件は、現在進行形の問題なのかな?」
「誰も死んでません。それに、どういう意味です?」
「君は答えを知ってるのかな、と思って」
「知ってますよ」
「そうか」ハガナイさんは急に立ち上がると、歩を進め、私に近づいてきた。「じゃあ、その姪っ子ちゃん。読書は好きかね?」
「好きです」
「国語は得意かな?」
「得意です」
 ハガナイさんが迫ってくる。怖い怖い。
「好きな食べ物はビーフジャーキーかね?」
「そうです」
「嫌いな食べ物はパクチーかな?」
「はい」
 そこまで答えるとハガナイさんは一瞬黙り込み、口を開いた。

「その姪っていうのは、もしかして幼い頃の“君自身”じゃないのか」
「ほぇっ?」
 私は思わず変な声を出してしまった。
「知り合いから聞いたという前置きは、その人自身の話である“可能性”が高かったりするんだ。そして君は、当事者でないのに、細かい質問への答え方がすべて断定的だった」
 なんだこの人は、妙に鋭いぞ。
「それじゃあ、謎は解けましたか?」
「君は先生に読書感想文を“失くした”と言った。盗まれたでも落としたでもなく、そう断言したんだ。朝ランドセルに入れたことは覚えてるのに」
「……」
「君は先生に嘘を吐いたんだ。本当は感想文を持ってきてるのに、それを提出しなかった」
「ハガナイさん、あなた」
 私は失礼ながら、この人のことを初めて探偵として尊敬した。
「最近、君は小説を書いているね。暇なときに」
「よくお気づきで」
「本が好きな君は多分、感想文ではなく原稿用紙に“小説”を書いたんじゃないかな。好奇心か、先生に褒めてもらいたくてかは分からないが」
「どちらも正解です。ですが、寸前で見せるのが恥ずかしくなりました」
「だから母親にも見せられなかったんだな。それから小説は一度も書かなかったのかい?」
「えぇ。まったく」
「じゃあなんで君は、今になってまた?」
 
 ーーあなたみたいな変人と出会ったことは、自分に起こった小さな“事件”だった。才のない人間が、まんまと創作意欲を取り戻してしまったのだから。
「......ハガナイさんのことが書きたくなったんです」
 そう言うと彼は、目を丸くして驚いた後、すぐ真顔に戻った。
「それじゃあ、物語を紡ぐ君へ問題。どうして私がこんなにも今日、頭が“冴えて”いたのか。わかるかね?」
「理由があるんですか?」
「ふふ。馬鹿げたタネは明かさずに、創作者である君の発想力に頼るよ」
 推理小説に“謎”は欠かせない、とでも言うように、ハガナイさんは笑みを浮かべた。

 それからいくら理由を聞いてもハガナイさんは答えを教えてくれず、ただコーヒーを啜るのみだった。


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このストーリーに関するコメント

17/11/18 光石七

拝読しました。
ハナガイさんにまた会えてうれしいです。
今回は探偵らしくカッコよかったですね。
誰も死なない、傷つかない「事件」で、楽しく微笑ましく読めました。
面白かったです!

17/11/18 浅月庵

光石七さん

いつも感想ありがとうございます!
励みになります。
可能性探偵カムバックしました。
そうなんですよ、今回はある種平和的な
「事件」にしようと思っていたので、
面白いと思っていただけて嬉しいです!

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