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セレビシエさん

受験生です。 小説と生物が好きです

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ものわすれ

17/09/12 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 セレビシエ 閲覧数:334

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ある朝、彼が目を覚ますと、大きな違和感が彼を包み込んだ。その正体はすぐに顕になって彼を高い崖から突き落とした。それで彼は急いで着替えると、玄関まで走っていき、靴は踵を踏んだ履き方で、そして玄関のドアに鍵もせずに大慌てで家から飛び出した。目的地までの最速移動方法を考えて、彼は始発の電車に飛び込んだ。電車の中、人はまだ疎らで、彼はこのときにはじめて呼吸をしたかのような感じに思った。けれども、心臓の鼓動は明らかに速く、おまけに走って駅まで来たので、秋の空気の涼しいのにも関わらず、彼は汗をかいていた。なので靴を履き直すとか、鍵の閉め忘れ等は彼の頭の片隅に追いやられて窮屈そうにしていたし、個々で主張もしなかった。少し汗が引いてきたところで彼は目的の最寄駅に着いた。彼はドアが開ききる前に飛び出ると、やはり大急ぎで目的地へと向かった。目的地とは白く大きなマンションのとある一室、201号室であった。彼はそこまで走っていくと、一息もつかずにインターホンを押した。30秒くらいして、若い女の声が聞こえた。
「俺だ、開けてくれ」
彼は少しだけ息を落ち着かせたあとにそう言った。彼と女は恋人同士であった。ドアが開くまでの間、彼は意味も無く世話しなく動き回ったり、あまりに女が出てくるのが遅い実際は遅いという程ではないので思わず玄関のドアを蹴り破りそうな衝動に駆られたりした。女は綽然として彼を受け入れた、パジャマみたいなぶかぶかの服を着ていて、それは彼をより女と反対の方向へ向かわせた。女はリビングまで入っていき、彼はそれに着いていった。リビングのテーブル、四つあるイスの内の一つに女が座ると、彼は注意深く部屋を観察し始めた。しかし目的の物が見つからずに腹を立てるばかりであった。彼と女は昨晩を彼の家で共に過ごした。それなのに女は彼が起きたときに彼の部屋にはいなかった。それは今朝の違和感をもたらす一つの要因となりはしたが、些細な問題であった。実際、そういうことは何回かあったのだ。女はイスに座りながら彼の顔を見つめていた。女からすると、目覚めたばかりで、実際今どういう状況にあるのだとかを詳しく分析する程に脳が動いていなかった。彼は女を放って目的の物を探した。そしてそれはベランダから見つかった。しかし、そんなところにあったので、それの外見は大きく変わってしまい、彼は怒りで目の前が真っ暗になった。そして、いきなり女の方を向いて、殴りかかった。女はこの瞬間に目が覚めたが、暫くして、意識を失った。
彼が、ハッと我にかえると、既に事態は取り返しのつかない所にあった。つまり、女は息をしていなかった。彼のこういった悪い癖は彼自身も理解していたが、やはり、簡単に改善出来るものではなかったので、彼は心の底から後悔をして女の死体の上に涙を落とした。後悔のバケツに入った水をひっくり返してしまうと、彼はこの厄介な死体をどうすればいいかと考えを巡らせた。よく見ると、女は血を吐いていて、全身は痣だらけであり、誰の目からしても他殺であることは間違いなかった。彼は二、三時間考えて、女を埋めることにした。幸い、女が吐いた血の量は僅かであり、それが問題になることはなさそうであった。彼は一度、自分の家に戻り、巨大なキャリーケースを持つと、今度は人目を気にしながら女の部屋に戻り、女を上手く折り畳んでキャリーケースの中に入れた。思っていたよりも綺麗に女がキャリーケースの中に収まったので、彼は自分の技量に少しほくそ笑んだ。そして彼は女の車にキャリーケースを乗せて、どこか出来るだけ遠くへドライブをしようと思った。探していたものは外見が変わり果ててしまいはしたが、やはり大事に抱えて彼は車を発進させた。三時間程車を走らせた後で、彼は山奥の土の下に女を埋めた。それからどこか能天気に、自分のしたことなど忘れてしまった、という風に自宅へ帰るのであった。実際、こういう所も彼の悪い癖であったが、彼はそれに気付くことはなかった。
さて、彼をこの殺人に走らせたもの、つまり彼が探していたそれは、古い、金髪少女の人形であった。彼はこの世で自分の命よりもその人形が大事なのだと信じて疑わなかった。先日、女はその人形があんまりボロボロなのでこっそり自宅へ持ちかえり、それを洗ったのだったが、この善意は彼には喜ばしいことではなく、むしろその逆だった。そして女は、まさかその、ボロボロの人形が彼の宝だとは知る由も無かった。
彼は自宅へ戻ると、鍵をし忘れたことに気付き、何故だかニヤリと笑った。そして人形を大事に抱えて、ぐっすりと眠った。

end


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