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ハジメさん

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名前は唯野──

17/09/11 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 ハジメ 閲覧数:91

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「編集者になりたかったの?」

と、上司が言った。
乾杯のビールも飲みきらないうちの、様にならないタイミングだった。

「え?」

と、私は言った。
ざわつく地方の安居酒屋。
遠くで先輩が騒ぎ立ててる声がする。

上司はなんでもないような顔で枝豆をつまむ。
大学を卒業して4ヶ月。
そうなんですよと相槌を打つには、まだ時間も酔いも足りなかった。

「あのね、あそこにいる、違う違う右側じゃなくて反対の、そう、その席の一番奥に居心地が悪そうな男がいるでしょ」
「はあ……」
「彼ね、元編集者」
「えっ」

上司が笑う。
歓迎会と称された飲み会は、私よりも愛想もノリも良い同期のおかげで大いに盛り上がっていた。

「名前は唯野」






─研修が終わったら、君は彼の下についてもらうから

ビンゴゲームの歓声を聞きながら、私はぬるいビールを持て余していた。
いつの間にか上司は消え、枝豆の抜け殻だけが目の前にある。

私が地元に帰ってきて、喜んだのは両親だ。
地元の、そこそこの企業について、きっとそこそこの歳で結婚する。
都会の煌びやかな喧騒は遠く、ノリも愛想も悪い私は頭だけがよく切れて、この会社でも浮いてしまうことだろう。

自惚れと確信。
そして敗北。




「あの」

居酒屋の空気よりもはっきりと、煙草の苦い気配がした。

「地元がこちらだったんですか?」
「え?」
「冴島さんから、前職が編集者だったときいて……東京にいらしてたんですよね」

その人は、薄まったハイボールを飲んでいた。
会社の波にものれず、居心地悪そうに揺蕩っている。

「君は──」
「来週から、唯野さんの配属になります。榛原といいます」
「はいばら………」

怪訝そうな視線。
新入社員らしい、黒と白のスーツ。

思い出したように目と目があった。

「君、もしかして……
うちでバイトしていた……?」





「そうです、榛原さん。私貴方に会いたくて、この会社まで追ってきたんです」


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