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十一日日記

17/09/11 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 いちこ 閲覧数:76

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文月七日
今、職場では日記を書くのが流行っている。
皆が揃ってするくらいなのだから、面白いに違いない。私も同じく書くことにした。
さて、けれども何を書くべきか。
明日上司に聞いてみよう。

文月八日
今日は雨だった。
昨日書いたように、今日は上司に日記には何を書くべきなのか聞いてみた。
すると彼女は、
「何を書いても良いのよ。お天気でも、ご飯でも、可愛らしいもの、美しいもの、嫌だったこと、怨みごと、好きなこと、何だって書いて良いのよ。だってあなたの日記ですもの」
と教えてくださった。
慣れるまでは彼女の挙げてくださった内容を書いてみよう。

文月九日
今日は1日晴れていた。
本日の題材はご飯だ。
お昼は職場の皆さんと揃って食べる。他愛もない話をしながら過ごすが、どこか緊張がある。ここにいるのは出世の敵同士なのだから仕方がないけれど。
しかし、今日はいつもお忙しい上司が輪に加わってくださったから、とても和やかだった。
さすが彼女だ。誰にでもお優しく、華がある。

文月十日
今日もよく晴れていた。
本日の題材は可愛らしいものだ。
可愛らしいもの。たくさんあるようでなかなか思い浮かばない。
そうだ、蛙の子が可愛らしい。小さくて、鮮やかな緑色で、喉を震わせながらこちらを見上げてくる。
けれどもあれは蛙の子ではないそうだ。蛙の子はおたまじゃくしで、緑の小さいのはただの小さい蛙なのだという。でも、可愛らしいから「蛙の子」で良いと思う。
以前私がこう主張した時、上司は同意してくれた。そしてその白い柔らかそうな指先で蛙の子をつついた。
雨濡らす我が身の人になかりせば蛙の子にぞ生まれまほしき

文月十一日
今日は薄曇り。
本日の題材は美しいもの。
やはり美しいのは我が主人だろう。他のどこの主人よりお美しいに違いない。
そして、主人のお側にいる上司もお美しい。主人のお世話をしていらっしゃる上司は、全身から人の善さがにじみ出ていて、何者にも負けそうにない美しさだ。
もちろん主人もお美しいが。
麗しき花の周りに舞う蝶は呼ばふ声だにとどかざりけり

文月十二日
今日は曇り。
本日の題材は嫌だったこと。
最近嫌だったことは、私と上司がお話ししている時に、他の者が割って入ったことだ。
せっかくの時間が台無しだった。
鵲の渡せる橋も人の寄る音にぞ消ゆる影も残さじ

文月十三日
今日は降ったり止んだり。
本日の題材は怨みごと。
怨めしいのは我が身だ。
何故女に生まれてきてしまったのだろう。何度思ったか分からない。
男に生まれていれば、ただ憧れて焦がれるだけでなく、思いを告げることもできたのに。待つこと願うことしかできない女の辛さ。
分かっている。きっと男に生まれていても、私は大成はしていないだろう。勉学に秀でもせず、歌も下手で、出世も恋も望めない憐れな男にしかなれないだろう。そして言うのだ、女であれば、と。
私は今、女であるからこそ、彼女の近くにいられるのだ。そのことに感謝せねば。男だったなら鄙びた歌を送り付け、笑われ、お姿を見ることさえ叶わなかったはずだ。

文月十四日
今日は雨。
本日の題材は好きなことだ。
私の好きなことは、上司とお話しすることだ。お姿を見るだけでも嬉しい。お手伝いができればさらに嬉しい。
彼女はこの上なくすばらしいお方だ。
もっと長くそして永く共にありたい。
夏の夜の白き橋より葉露より君を眺むる時ぞ徒なる

文月十五日
今日は晴れ。
昨夜の夢で、私は誰か男の手紙を上司に渡していた。それを見て、手紙を渡そうと思い立ってしまった。
昨日の日記の歌を清書し、彼女に渡してしまったのだ!
男から預かったものだと告げて渡したが、彼女は何とも言いがたい表情をしていた。
気付かれているのだろうか。

文月十六日
晴れ。
恐ろしい噂を耳にした。
上司が、主人の側へ行ってしまうというのだ。
あの御方が十四日の夜に彼女の元へ渡ったそうだ。決して渡った等ということはなく、手を出したと言うべきことだろうが、事後にでもどうにか渡った形を調えるのだろう。
彼女にとっては大出世だ。喜ばねばならない。祝わねばならない。
もっと近くにいたかった。

文月十七日
晴れ。
仕事の合間に、上司が声をかけてくださった。
この前の返事を書いたから渡すとのことだった。
先ほどどきどきしながら開いてみると、
「かささぎの橋渡るより山鳥の長き夜にぞ子蛙の呼ぶ」
とあった。
夏の短い夜より、秋の夜長にこそ蛙の子が呼ぶ。
子蛙とは、私のことではないだろうか。
天の川を年に一度短い夜に会う二人にはならず、夜長にこそ。
自分に都合の良い解釈だが、そうでも思わないといられない。
信じずに信じて、彼女が上司でいてくださる日々を良いものにしよう。


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