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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
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黒い帽子を被った上司

17/09/11 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:101

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  宣伝部に配属になった。
 部長と部下(私)のたった二人だけの部署である。

「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
 部屋の天井近くに向けてしゃべったあと、頭を下げた。
 キャットタワーの上で、部長が小さくしっぽを振るのが見えた。
 良かった。
 一応、私の存在を受け入れてくれたみたい。
 前任者の沼田さんによると、部長は人間の好き嫌いが激しく、嫌いな人には容赦なく、爪を荒げて飛びかかってくるらしい。
 ――そんな理不尽な暴力も、猫ならば許されてしまうのはどうなのかなとも思うけれど。いけない、猫と云ってはいけないのだった。
 沼田さんから『部長は言葉はしゃべらないけれど、ある程度言葉を理解しているので、猫よばわりすると怒られるよ。自分のことを猫ではなく部長だと思っているから』と数日前の引継ぎの時に教えられた。
 沼田さんは名前通りのどんよりとした沼を思わせるような目をしていた。
 私のことを見ているはずなのに、どこか違う場所を見ているようなおじさんだった。宣伝部には十二年在籍して、定年になり辞めるのだと笑った。

「十二年も? お疲れ様でした」
「あっ今、猫の世話を十二年も、って思ったよね?」
「すみません。ちょっとだけ」
「だよねえ。俺もそう思うけど、慣れちゃえば案外いいもんだよ。もちろん出世コースからははずれるけど。ノルマも難しい人間関係も、ここではなし」

 アパレルメーカーのデザイナーとして二十年働いてきて、突然の配置換えだった。売れる服を作れなくなって、会社のお荷物になってしまったということだろう。
 考えようによっては、猫の、いや、部長のお世話をして定年までお給料が出るのなら、それはそれで幸せなのかもしれない。
 定年か……今、四十二歳だから定年まで十三年。
 長いようで、短いのかもしれないし、短いようでいて、案外長いものかもしれない。いすれにしても、その時間を生きてゆくしかない。
 出会いもなさそうな職場環境だし、結婚もしなさそうだけど、まあ、働き口があるだけマシか。

 部長は、目から上の頭の部分だけ黒い帽子を乗せているような、白猫。
 もとは今は亡き創業者が、ある日、公園で拾った猫だったという。その猫の顔を見て、創業者は久しぶりに笑った。営業不振が続き、暗かった気持ちを一気に明るくしてくれたのが、その猫の顔だったのだ。ためしに、その猫をキャラクター化し、Tシャツを作ったところ、爆発的に売れた。世間では『帽子猫』と呼ばれ、ブームが起きたのだ。会社を救ってくれたヒーローとして、創業者は猫に部長を任命したらしい。それがこの宣伝部の始まり。
 沼田さんは沼の目をして、そう説明してくれたっけ。

「確か我が社は創業六十年ですよね。長生き過ぎないですか、帽子猫」
「もちろん一匹の猫であるはずがないよ。何代目かは俺も知らないけれど」
 猫が六十年近くも生きていたら、化け猫だ。もちろん同じ猫であるはずがない。どんなからくりがあるのか知らないけれど、老いた猫から若い猫へ、とって変わる。どちらも帽子猫。おそらく親子なのだろう。

 悲しいかな、ブームは去る運命にある。けれどブームが再びやってくることだって、ありえないことではない。

「部長、朝ご飯です。お水もどうぞ」
 キャットタワーを伝って降りてきた部長が机の上で古伊万里とおぼしき皿の上に取り出したツナ缶を食べ始める。
 トイレ砂を掃除したあと、私はパソコンを開き、『帽子猫部長の業務日誌』というブログに書き込みをする。これも大事な業務のひとつだった。

『今日、新しい部下がやってきた。見たところ、四十歳くらいの女だ。私なんかおばさんだからとしきりにぼやく。四十歳など、まだまだ若いではないか。猫の年だったら二百八十歳だぞ。それに比べたら、ピチピチのギャルとはいかないが、まあ、まだ若い』

 さっき、盗み撮りした部長のスナップ写真をアップし、更新したあと、今日の来訪者の数を調べた。百人ちょっとだった。

「部長、まずはブログの来訪者二百人をめざしましょう」

 食事を食べ終えた部長は、いつのまにかまたキャットタワーの一番上にいて、私をじっと見下ろしていた。
 攻撃されてはいないが、警戒はされているかんじだ。頭を撫でさせてもらえるまで、時間がかかりそう。
 そもそも部下が上司の頭を撫でていいものだろうか。
 でもあの黒い帽子に触ってみたい。まさか取り外しの出来るカツラではないよね?

「いつか、その帽子、撫でさせて下さいね」

 部長が耳をピクッと震わせた。
 確実に独り言が多くなりそうな予感がする。

 


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このストーリーに関するコメント

17/10/14 泡沫恋歌

空の珊瑚さま、拝読しました。

帽子猫の部下に雇って欲しいですσ(´∀` )ァタシ

17/10/16 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。

私も!!

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