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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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一番大事なモノは、

17/09/11 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 泡沫恋歌 閲覧数:121

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「はあ? 誰が上司だってぇ〜?」
 素っ頓狂な声で助手の佐藤がDr.山田に向かってきき返す。
「……だから、ここは山田ラボだし、責任者はこのわたしだ。君は助手なんだから、いわば部下だろう?」
「で、それが……?」
 研究室のパソコンでギャルゲーをしながら面倒臭そうにいう。
「上司の言うことをたまにはきいたらどうなんだい」
「仕事ならやってるでしょう? 空いた時間にゲームして何が悪いの」
 佐藤はパソコンの魔術師と呼ばれる天才的プログラマーである。
「君が優秀な助手だと認めているさ。けどね、明日は大学の理事長たちがこのラボを視察にくるんだ。この部屋をなんとかしてくれたまえ……」

 劇薬保管倉庫の奥にある山田ラボは、博士と助手の二人きりの研究室なのだ。日頃は誰もここには近寄らないし、大学からも見捨てられている。だが、年に一度だけ研究費を計上するために事務局の視察を受けなければならない。
 しかし山田ラボの室内は、おおよそ研究室とは思えない有様だった。
 壁一面に貼られたアニメのポスター、棚に並べられた美少女キャラのフィギア、アニメキャラのぬいぐるみやクッションが床を覆い、BGMは声優が歌うアニソンが流れている。
 これらはすべてアニヲタ助手佐藤のものである。
「明日は視察だから、アニメグッズを片付けてくれまいか」
「嫌です!」
 即答で拒否する佐藤だった。
「上司の命令が利けないのかい」
「僕はあなたの部下じゃない。ミカリン姫の下僕ですもん」
 佐藤は人気声優のファンクラブ「ミカリン王国」に所属している。ミカリンが声を当てているアニメの熱狂的なファンである。
「アニメは趣味として、もっと仕事に真剣になってくれよ」
「僕の人生で最優先すべきことはミカリンのことです」
「じゃあ、わたしは……」
「博士は97番くらいかな?」
「わたしより優先順位が前の96番はどういう項目かね?」
「う〜んと、天気が良ければ布団を干す」
「ううぅ……わたしは布団にも負けているのか」
「今までの人生でパソコンしか友だちがいなかった、この僕に光をくれたのはアニメです。僕のすべてをミカリンに捧げています」
 清々しいほどきっぱりという佐藤である。
「そんなこと言ってないで、この部屋なんとかしようよ。足の踏み場もない。明日は視察団がくるんだ」
 涙声で訴えるDr.山田である。
「アニメグッズを片付けるなんてお断りです!」
 なにを言っても、聞く耳持たない佐藤にDr.山田もほとほと手を焼く――。
 だが、こうなることはある程度予測されていたので、Dr.山田の方にもちゃんと秘策があった。

「佐藤くん、ほれっ!」
 いきなり頭にヘルメットのようなものを被せた。
「スイッチ・オン!」
 ボタンを押すと、痙攣しながら佐藤が床に崩れた。
「実験なしで、ぶっつけ本番だったが……頑丈な佐藤くんなら平気だろう」
 このヘルメットは脳に電気をながし、ショックで一時的に記憶喪失にする装置だった。
「佐藤くんのアニメへの執着をなくせば、きっと掃除に協力してくれるはずだ」

 そして10分後、佐藤は目覚めた。
「ここはどこですか?」
「佐藤くん、目が覚めた? わたしは君の上司のDr.山田だよ」
「知らない」
 すっかり記憶が飛んでしまっているようだ。
「えっ? まあ、わたしを忘れても掃除はできるだろう。今からこの部屋のガラクタを全部片付けてくれ」
「分かりました」
 人が変わったように素直な態度だ。
「じゃあ、今から事務局に明日の視察の件で話してくるから、佐藤くんは掃除やってて」
「了解しました」
 従順な助手の姿に感激し、スキップしながらラボを出たDr.山田である。

 そして1時間後に戻ったDr.山田が見たものは、パソコンや研究機材がすべて取り除かれて、アニメグッズ一色になった山田ラボの中だった。
「こ、これはいったい!?」
 茫然と立ちつくすDr.山田、アニメグッズ(ガラクタ)を片付けろと指示したはずなのに……まさか、こんな結果になっていたとは!?
「ガラクタは捨てました」
 高価な研究機材がゴミとして捨てられている。
「佐藤くん、君の大事なパソコンはどうした?」
「もう必要ありません」
「うわ〜っ、大事なスキルまで失った!」
「僕が一番大事なモノはアニメグッズです」
 アニヲタを甘くみていたことを心底後悔したDr.山田である。
 こんな研究室に視察団が来たら、もうお終いだ! ラボの責任者という地位も、たったひとりの部下さえ失ってしまう。
「ああ〜明日の視察はどうしたらいいんだ!? このままだと山田ラボが消されてしまう!!」
 頭を掻き毟り悶絶するDr.山田の隣には、アニメグッズに囲まれてご満悦の佐藤の姿があった。
 上司の言葉よりも、アニメ命の部下なのだ――。


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