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悪には悪の事情がある

17/09/11 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 plum 閲覧数:77

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 悪の組織だからといって、けしてブラック企業なわけではない。福利厚生はしっかりしているし、残業も全くない。夏冬は長期休暇も貰えるし、全国にある保養施設も利用できる。昇給も定期的になされるし、賞与にも満足していた。
 けれどもただ一つだけ不満がある。上司とうまくいっていないのである。俺はまだ組織に入って三年目の一兵士だし、向こうは勤続二十年の中隊長様だから、こっちに至らない点があるのは確かなのだろうが、俺に対する扱いがひどい。個人的な恨みでもあるのではないかと思うぐらいだ。
 たとえばこんな事があった。その日は都心のビルに爆弾をしかける作戦で、数人に分かれて任務を遂行した。自慢じゃないが爆発物の取り扱いには覚えがあるので、手際よく設置して現場を離れようとしたら、いきなり爆弾の時限タイマーが動き出したのである。しかもあと残り数十秒しかない。中隊長から無線が入る。
「手違いで起爆スイッチが入ったらしい。すぐ解体してくれ」
 言われるまでもない。逃げようとしたって間に合わない状況だ。俺は無我夢中で爆弾を分解し、配線を切って爆発物を無効化した。真っ白になった頭の片隅で、スイッチは中隊長にしか扱えないことを思い出していた。
 またこんな事もあった。その時の作戦は誘拐で、幼児をさらってヒーローを脅す計画だった。俺は人さらいにも覚えがあるので、手際よくターゲットを捕まえ、アジトに連れ帰ろうとしたら、中隊長から無線が飛んでくる。
「手違いでターゲットを間違えたらしい。すぐ返してきてくれ」
 また手違いかと思った。誘拐の経験がない人間には分からないかもしれないが、人間はさらうよりも返すほうが難しい。なにせ保護者の周辺は厳戒態勢だし、幼児を一人で帰すわけにはいかない。何とかこっそりと家に連れて行ったまでは良かったが、脱出する際に見つかってしまい、さんざんに銃で撃たれた。よく当たらなかったものだと思う。
 そうして俺はとうとう死にかけたのである。その日はヒーローたちと戦う作戦で、新開発の怪人を投入する前に、いつものように俺たちで、できるだけ相手方の体力を消耗させる計画だった。そのために幾つかの部隊に分けられ、数人で一人の敵に襲い掛かるのである。
 俺はリーダー格の赤いやつと戦う部隊に入れられた。自慢じゃないが俺は腕にも覚えがある。同僚たちも俺と一緒の時は気が楽だと言っているし、ひょっとしたら我々だけで一人ぐらいは倒せるのではないか、という冗談が出るぐらいだ。
 戦場は港だった。俺たちは潜水艦で移動し、海岸近くに到着すると、そこから岸まで泳いで渡った。すると海岸沿いから声が聞こえてきて、ヒーローたち五人の男女が談笑しながら散歩している。中隊長が一声号令をかけた。
「突撃」
 俺たちは一斉に襲い掛かった。しかしまたしても様子がおかしい。作戦通り赤いやつを狙ったのだが、それがなぜか俺一人だけなのである。部隊の仲間は皆、他のヒーローのところへ突進している。俺は戸惑って足を止めてしまった。
 ヒーローの方もそうだったらしい。赤いやつは眉をしかめて、いぶかしそうな顔をしている。そうして他の仲間を助けに行こうとしたようだった。その隙を見逃すわけにはいかない。俺は渾身の一撃を繰り出した。
 いくら腕に自信があっても、やはり一人では無理である。赤いやつが躍るように身をかわしたかと思うと、そこから先は俺の視界が真っ赤になった。後頭部を蹴られたらしいことは、後で人から教えてもらった。

 目が覚めた時には、視界一面真っ白だった。俺はベッドに寝かされているようで、組織の病院の天井が見えていた。戦闘の結果はどうなったろうと思うまでもなく、隣のベッドでは新怪人が眠っていた。ひどく頭が痛んだのは、殴られたせいだけではあるまい。
「具合はどうだ」
 司令官が枕元に立っている。普段は畏れ多くて直接話すこともできない人だ。しかしこの時の俺は辞職を決意していたので、皮肉混じりに言ってやった。
「体は問題ありませんけれども」
「何か思うところがありそうだな」
「私は組織に向いてないんじゃないかと思うんです」
「事情は私も知っている」
 と、司令官は窓辺へ体を向けた。そうしてやや間を置いて言った。
「実は彼は癌なんだ」
「中隊長がですか」
「余命半年だそうだよ」
「まさか。そんな風には見えません」
「表面上はね。任務を指揮するのもやっとのはずだ」
「確かにミスが目立ちます。どうしてそこまでして」
「後任を育てるためだ。君の名前が挙がっている」
 俺はまた気を失いそうになった。今まで手違いだと思っていたのは、そういう目的があったのか。
「ああいう男だからね。言葉が足りないところはあるかもしれないが、私も君に期待してるよ」
 俺は短く返事をした。それ以上の言葉は必要なかった。


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