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蒼樹里緒さん

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性別 女性
将来の夢
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未来図上を司る

17/09/10 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:139

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 時空保護管理局の取調室は、いつ来ても窮屈だ。一職員の僕でさえそう感じるのだから、正面に座っている男子高校生は尚更だろう。
 ぶすっとした彼に、僕は苦笑いを浮かべるしかない。
「ワープゲートは時空保護管理局の管轄で、歴史・災害調査目的の職員しか利用できないって小学生もわかってることなのに。どうして君は不法侵入なんてしちゃったんだい」
「うっせえなー。俺だってやり直したい人生があるんだよ。おっさんにはわかんねえだろうけど」
「僕はまだ二十八なんだけどな」
 運悪く管理局の警備システムの一部に動作不具合が発生し、その隙を狙って彼はワープゲートの設置された地下へ侵入しようとした。そこを警備員たちに取り押さえられ、今に至る。
 侵入者は、これまでにも数人いた。幸い、すべて未遂に終わっているけれど。とはいえ、未成年者の例は今回が初で、僕も戸惑った。
 夏休みの終わりが近いからって、何もこんなことまでひと夏の思い出にしなくてもいいのに。
 椅子の背もたれにだらしなく身体を預け、少年は半眼で言う。
「おっさんみたいに時空調査官になれば、過去にも行けるようになるんだろ」
「そうだね。国家資格だし、試験も宇宙飛行士並みの超難関だけど」
「俺は、のんびり待ってなんかいられねえんだ」
 不満げに吐き捨て、彼はうつむいた。
「高校卒業するにはあと二年半、そっから時空調査官の試験に受かるのだってたぶんかなりかかる。そんなのは遠すぎるじゃねえか」
「それはそうだけどね。未来への時空移動も、大規模災害予測調査目的以外じゃ法的には禁止されてるし、都合よくスキップはできないよ」
「知ってるよ、あーもうッ」
 彼が苛立たしげに足を踏み鳴らす音と、頑丈なドアの自動ロックが解除される電子音が、ほぼ同時に響いた。
「お待たせいたしました」
 凛と涼やかな声で、入室者はあいさつする。男二人のむさ苦しい空間に、花が可憐に咲いたような空気に変わった。
 僕と同じ黒いスーツ姿の若い彼女は、少年に向き直って目礼する。
「あなたの保護者の方とは、先程ご連絡がつきました。こちらへ向かわれているそうですので、ご到着次第、あなたの行動経緯等も含めて詳細にご説明いたします。よろしくお願いいたします」
 見つめられた当人の顔が赤らんでいく。
「か、か、かわっ……!」
「はい?」
「おい、おっさん! ここに就職したら、こんなかわいいねーちゃんとも一緒に働けるのかッ?」
 態度を一変させ、少年は目を輝かせて訊いてくる。
 眼鏡のレンズを拭きながら、僕は微苦笑した。
「君、正直だね。その調子で、取り調べにも素直に答えてくれると嬉しいんだけど」
「聴取記録、無記入のままじゃないですか」
「残念ながら、なかなかしゃべってくれなくてね」
「おっさんもまあまあのルックスみたいだけど、ねーちゃんがおっさんの部下だなんてもったいなさすぎるぜ」
「いえ、私は彼の上司です」
 きっぱりと否定した彼女に、少年は絶句する。
「だ、だってどう見てもおっさんのほうがずっと年上だし、ねーちゃん敬語だし」
「敬語は使わなくていいって本人の仰せでね。おかげさまで、フランクに仕事させてもらってるよ」
 職員手帳を広げ、自分のIDカードを提示してみせる。隣に佇む彼女も同様に。
 見比べながら、少年は目を白黒させた。
「ねーちゃんの階級のほうが上とかマジかよ……」
「実力主義体制だからね。若くて優秀な人が偉い立場になるのも自然だよ。僕は出世に興味はないから、彼女の補佐として働いてるけど」
「あのっ!」
 急に、少年が床に正座した。僕の上司に、がばっと頭を下げる。
「俺、やらかしたことはきっちり反省して、二度としません! これから勉強しまくって時空調査官になりますっつーか、将来、あなたの部下にしてください!」
「……は?」
「お願いしまーす!」
 今度は、彼女が呆気にとられた。咳払いをひとつして、少年を冷静に諭す。
「前向きな目標ができたのでしたら良いことですが、ご自身の犯した現在や過去の過ちともきちんと向き合って、ぜひ今後に活かしてください。事情聴取にも、引き続きご協力くださいね」
「ありがとうございます! なんでもしゃべります!」
 感極まった表情で、彼は椅子に座り直した。僕のことは、もう眼中にないようだ。
 上司に席を譲り、僕は見張りとして壁際に立つ。頑張って、とウィンクで伝えれば、彼女は微苦笑で応えて少年と向かい合った。
「では、ワープゲート侵入の動機からお聞かせください」
「はいっ」
 背筋をシャキッと伸ばした少年は、満面の笑みで答える。

「小学生のときにコクって振られた担任の女の先生とまた会って、コクり直して付き合いたかったからです!」

 彼女の部下になる云々以前に、少年の将来と人間性が心配になる僕らなのだった。


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