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吉岡 幸一さん

性別 男性
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社長、揺れています!

17/09/08 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:1件 吉岡 幸一 閲覧数:227

時空モノガタリからの選評

シュールな展開が徹底していて、好きな人にはツボにはまる内容だと思います。今回の選考では平均的に評価が高いわけではないけれど、好きな人にはかなりツボにはまった作品だったようです。絵画中の桜島が大噴火、会社のビルを吹っ飛ばし、三千メートルも吹き飛ばされながらものんきに会話する社長と秘書には悲壮感がほとんどないところがなんとも非現実的かつユーモラスで、クスリと笑ってしまいました。またビルとヅラという二つの社長の大事なものが綺麗に吹っ飛んでしまう展開は皮肉ですが、確かに死というのは大切にしているものを無に帰してしまうものなのだなあということも感じました。(本作の意図としては、あえて絵と現実とのつながりなど余計なことは説明しないのであって、そのような解釈は不要ということかもしれませんけれど。)振り切った不条理さが徹底していて、そこが逆に新鮮でした。吉岡さんの作品は絵画的・静的なシュールさを持つ作風が多いですが、今回は昭和の漫画的ユーモアが漂う点でもちょっと変わった内容だったと思います。

時空モノガタリK 

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「社長、あの、それが揺れています」
 秘書が怯えたように指をさすと、社長は慌てて頭に手をやってズレていたカツラを元通りに整えた。
「あ、わかってると思うが、くれぐれもこのことは他の社員には内密にな」
「はい。もちろんですとも」
 秘書は目を見開いたまま何度も頷くと、我に返ったように目を閉じて今度は首を横に振った。
「違います社長、揺れているんですよ」
「地震か。気づかなかった。こりゃ大変だ」
「地震じゃありません。山が、そこの山が揺れているんです」
「山なんて窓からは見えないぞ。君は何を言っているんだ。ここはビルの四階だぞ。社長室から見える景色といったって隣のビルの壁がみえるだけだ。仕事のしすぎで疲れているんじゃないのかね」
「もおう、後ろに飾ってある絵ですよ。描かれている山が揺れているんです」
「絵なんて飾っていたかな」
 社長は思い腰をあげて立ち上がった。振り返ると壁にはM五十号サイズの桜島を描いた絵が掛けられてあった。
 その絵は海と空と桜島しか描かれていなかった。桜島の山頂からは灰色の噴煙がたちのぼり青い空に広がっていた。写実的な絵ではあったが、噴煙のたちのぼる景色はどこかのどかで美しかった。
「そうか、そうか、絵が飾ってあったのか。芸術には疎いもんでな」
 芸術は関係ないでしょう、と秘書は思いながらもそれを口に出すことはなかった。
 社長は腕を組んだり顎をさすったりしながら絵を眺めた。唸ったかと思えば首を傾げたりした。
「確かに山が揺れているぞ。なんだか山の色が赤くなってきているようにも見えるな」
「でしょう。不思議ですよね」
「これがだまし絵ってものなのかな。どんな仕掛けなんだろうね」
「これ油絵ですよ。だまし絵とは違うんじゃないかと思うのですが」
「わしも老眼が進んでいるからな、そのせいかもしれないな」
「私の目は老眼じゃありませんから」
 振り返った社長はまじまじと秘書の胸をみるとため息をついた。
「君のおっぱいもこのくらい揺れてくれたらな、わしの元気もでるのに」
「社長、セクハラですよ!」
 秘書は両手で胸を押えると社長をにらみつけた。
 軽口をたたいているうちに噴煙の量は次第に増していき、青い空のスペーズが狭くなっていた。山肌は赤くふくれあがり、絵からは焦げたようなすっぱい匂いが漏れ出してきた。お湯が煮えたぎるような音も聞こえてくる。
「いよいよか」「いよいよです」
 腰に手を当てた社長、胸に手を当てた秘書が横に並んで絵を見つめている。
 急に絵の前から熱風が吹き出すと、桜島は収縮しすぐに膨張し、そして勢いよく噴火した。噴煙が空高く吹き出し、溶岩がはじき出され、どろどろに溶けたマグマが噴火口を下っていった。
 アニメではない。映画でもない。単に絵のなかの世界で噴火が起きたわけでもない。桜島が噴火した瞬間、社長室の天井が吹っ飛び、社長と秘書は空高く吹き飛ばされてしまった。高度三千メートルに達しただろうか。
 社長のカツラは飛ばされ、秘書のブラウスのボタンは外れた。
「笑ったら許さないからな」
 社長は頭を両手で押えながら飛んでいったカツラを目で追っていた。カツラは高速度で社長の頭上から遠ざかっている。
「それどころじゃないでしょう」
「わしの大切な会社が壊れてしまった。せっかく苦労して建てた自社ビルだっていうのに。支払いだってまだ残っているんだぞ。まあ、カツラの支払いは終わったけどな」
「そんなことは後で考えていくださいよ。それより・・・・・・」
 社長と秘書は上空三千メートルからまっすぐに落下していた。地面は近づき、ビルの群れの輪郭ははっきりしていき、白い雲は上方へ遠のいていく。息ができないほど苦しかったが、意識ははっきりとして気を失うことはなかった。
 崩壊した社屋がはっきりと目に入ってきた。四階建てのビルは跡形ものなく崩れ落ちている。十数名の社員らしい姿がビルの前にたたずんでいるのが見える。消防車や救急車、パトカーも集まってきている。桜島の姿そっくりになった瓦礫のテッペンからは赤い火が吹き出していた。
「大丈夫だったのか、あいつら。怪我をした奴はいないだろうな。見舞金でも払ってあげんといけんかな」
「社長、社長、部下の心配ありがとうございます。さすが思いやりのある社長です。でも今は自分の心配をしてください。もうすぐ私も社長も地面にたたきつけれてしまうんですよ。そしたら、もう・・・・・・」
「死んでしまうってことだな。それは困ったな。・・・・・・せめてカツラを被っていたらなあ」
 燃え上がる瓦礫の横では部下達が落ちてくる社長と秘書を指さし、消防士達が巨大なエアマットを急いでひろげていた。
社長は髪のない頭を両手で被い、秘書は胸のパッドの位置を直しながら、飛ばされたカツラの行方を探していた。



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このストーリーに関するコメント

17/10/15 光石七

遅ればせながら、入賞おめでとうございます!
拝読しました。
シュールな設定とユーモラスな二人の会話が絶妙にマッチしていて、大変な状況なのに醸し出される温かみとおかしみについ口角が上がってしまいました。
個人的には桜島の登場もうれしかったです(鹿児島県民なので)。
楽しませていただきました。

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