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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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ブラックバード・ブラックボード

17/08/28 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:280

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 理由はひとつ。
 黒と黒に挟まれて、黒に返る。黒に、帰る。
 黒のジャージに黒い無地のTシャツを着て、僕は高校のプールに入水する。今日は八月の三十一日。明日からの二学期は、天国か地獄のどっちかで転入生かな。
 深夜のプールは、ヌメヌメと死後の境界を暗く反射させていた。素足で履いたスニーカーは軽く、月に手を伸ばして掴めそうな気がしたよ、ジョー・ストラマー。
 ズブスブ。体に力を入れる、浮かないように。苦しくなって、飛び出して、いつか笑い話かな、中島みゆき。
 知っていた。一度ボーイスカウト時代に川遊びで溺れた経験があるから、水を飲めばいい。苦しみなんて脳におきた危険信号がかき消してくれる。混濁。見える、のび太が溺れてる漫画のコマ、カナヅチだった僕の手を引いてくれた小学校の担任。派手な水着に着替えるのを、嫌がってたことは知ってた。
 ホラホラ。重しなんか抱かなくても、このとおり。どっちに帰るか。どっちに強く呼ばれるか。僕は、黒に呼ばれて、黒に帰る。ブラックアウト、スコーピオンズ。
 黒に近くなった脳内に、照射した来光は黒髪のエロい女子高生だった。
「いじめられた?」
「あぁ、あぁ、たくさんね」
「親はあてにならない?」
「あぁ、あぁ、見て見ないふりさ」
「もう、生きててもいいことなんかないんだ?」
「あるかもしれないけど、こっちの方に呼ばれたからさ」
「あたしね、やなのよ」
「何が」
「あたしの真似しないでよ」
「知らないよ」
「重りも無し、誰かに沈められたんでもない、足の着くプールで溺死。二十四年前の夏、真似しないでよ」
「知らないよ、僕十七だぜ、尾崎豊」
「音楽が好き?」
「あぁ、聴いてる間だけ、何も怖いものがなくなるよ。でも、音楽は、鳴りやむものだからさ」
「音楽、好きなら、そのためだけにでも、生きれば?」
「うーん、楽器できなかったし、軽音部の先輩にも蹴られたし」
「そうじゃなくって、聴くのは自由じゃない」
「そうだな、ロックはフリーだ。ポール・ロジャースは今クイーンで唄ってる」
「うっそだー」
「ははは、嘘ならいいけどね」
「あたし、助けてやるよ」
「誰を」
「あんたを。こっちでみつけた魔法の一個、そっちにあげる。なにか、奇跡を起こせる男なら、馬鹿どもは見る目を黒から白に変えるよ」
「めんどくせー」
「ほら、男だろ、テイクイットイージー、ジャクソン・ブラウン」
「イーグルスじゃないところが、気にいっちゃったな」

 深夜のプール、黒い死への境界の向こうから、白い手が伸びてきて、僕を引っ張り上げた。
 はぁ。おえ。ぐえええ。這いずり上がったプールサイドで、僕は吐瀉物の中に、黒いチョークをみつける。
「気持ちわりー」
「それで奇跡を描いてみろよ」
「めんどくせー」
「もう遅いよ、ゲロ吐きやろー」
 黒いプールの水面に、白い少女の笑顔がひとつ。月に手を伸ばすより、もっと伸ばす相手があることを知った。

 翌日。九月一日。この世で迎えてしまった二学期初日。
 僕は夢に消えることのなかった黒いチョークで、黒板に、黒いカラスを描いた。邪魔がはいらないように、眠らないまま朝、五時半の教室で。朝日の白に返る前の重たい青の中で、電線にとまって、こちらを睨むように見るカラスを描いた。プレーヤーで音楽を聴きながら、狂ったように、空を走るように、ゲロを吐くように描いた。どうなるんだよ。こんなことして、また、こんなことして。アイツらになんて言われる。何をされて、何に、される。
 カラスの目を、僕は黒のチョークで埋めることができなかった。
 絵が完成するのを恐れたのだ。その代わりに、カラスの嘴に赤いチョークを咥えさせてやった。その、瞬間だ。起こった奇跡。「ほらね」なんだよ、ここ、プールじゃねーぞ。「幽霊の自由度舐めんな」

 喋ってる。
 誰が描いたの?
 喋ってる。カラスが? 黒板が? 黒いチョークなんてあったんだ。
 三木島、ホラ、アイツの指、黒くねぇか?
 すっげー、動画のRT十万超えた。
 来るって、テレビ、取材、来るってー!
 喋る絵なんてここしかねーもん。すっげー。奇跡だ。
 なー、みんな一緒?
 うん。「赤いチョークで俺の目を赤に塗れ」そーそー。すっげー。
 
 僕は思う。何も変わらない。だから、黒板に走っていって、消す。
「な、にすんだよ!!」
「ちょっと、取材、来るんだよ!!」
「もっといいもの、見せてやるよ」
 僕は黒いチョークを握りしめて、シャツを脱いだ。トイレに駆け込んで、鏡を見ながら左肩甲骨に羽を広げたカラスを描いた。
「なー。みんな、なんて喋ってる?」
「俺を空に飛ばせろ」
 見てろよな。
「ブラックバード、フライ、ビートルズ」 
 この馬鹿、ゲロ吐きやろー。少女の幽霊は次の魔法を、探す。
 
 


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