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沓屋南実さん

音楽、表社会系、詩、エッセイなど書いております。 よろしく、お願いします。

性別 女性
将来の夢 小説家。 音楽を聴きながら、一日中本を読んで、小説を書く生活。 行きつけの音楽カフェで、皆とおしゃべりすること。
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PTA役員選挙

17/08/28 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 沓屋南実 閲覧数:163

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 教室にいる母親たちの視線は、黒板に向かうPTA選出委員の手にあるチョークに注れていた。
 4年3組の教室は、見晴らしの良い南側校舎の3階。良く晴れているのに、どよんとした重い空気が充満しているのは、PTA役員選挙の結果がもうすぐわかるからだ。
 すでに、それぞれが2名を選び、担任に提出を終えている。ここ一週間というものの、親たちはこの話題一色だった。
 
上田 8票
川合 6票
相川 5票
佐藤 5票
早瀬 5票
脇田 4票
金沢 4票
小原 3票
森下 2票
 
1票以下は省略、16名
白票 8票

 ざわめきが広がった。ほっと胸をなでおろす者、ひそひそ話をするもの、もう自分には関係ないとばかりお茶の相談をはじめる者まで。
 上田さんは冷めた目をして、私に「やっぱりね」と呟いた。 
「票を確認させてください!」
 私たちの後ろから、鋭い声がした。2位当選の川合さんだ。
「では、どうぞ」
 選出委員は、ゴムで束ねた投票用紙を、進み出た川合さんに手渡した。川合さんは、ゆっくり数えた。
「確かに6票で合っています、だけど、ちょっと待ってください」
 ひそひそ話の声が大きくなっていく。
「悪あがきはやめてほしい」「上田さんと川合さん以外はもう関係ないよね」「早く帰りたいわ」
 非難の目が、川合さんに注がれる。
「上田さんと、私の両方に投票した人が5人いますね」
 表情がさっと変わった一団に、上田さんと私以外は気が付かないようだ。
「どういうことですか?」
 選出委員の一人が、川合さんにたずねた。
「不正です。上田さんと私に入れるよう申し合わせましたね」
 ざわめきが大きくなった。
「川合さん、その5人が同じ人を選んだとして、偶然かもしれませんよ」
 私はここで、はじめて発言した。
「去年も同じようなことが、ありましたね」
 昨年の選挙でも、ターゲットになった2人に票を集める疑いが持ち上がった。
「だから、このやり方に反対だったのです」
「私に言われても……」
「いえ、選出委員のあなたが悪いわけじゃない。無記名投票が良くないので、PTA会長には進言したのですよ、でも」
 顔色を変えた5人は、いつもは大きな声で文句を言うのに、ヒソヒソ声で話している。
 終了予定時間が過ぎた。
 決まらないクラスに順次、会長や本部役員がやってきて「子どものため」などとグイグイ押して、結局は当選者に引き受けさせる。去年はそれで幕引きとなった。
 今年は、そうはいかない。不正を許せないのと、ターゲットにされた上田さんの生活が手一杯であることを、私は知っている。どうしても彼女に引き受けさせてはいけない。

「まだ決まっていないようですね」
  副会長母親代表は、教室に入ってくるなり言った。会長に、書記、それに会計も一緒だ。
「はい、投票が不正だと言われて……」
 選出委員は申し訳なさそうに言った。副会長の表情は険しくなった。
「何ですかそれ」
 私は、副会長の勢いに負けまいと、語気を強めた。
「いろいろ変えてほしいと、私は昨年からずっとお願いしていましたよね」 
「とにかく、上田さんと川合さんで決まりです。投票結果は絶対です。証拠もないのに、何ですか」
「では、証拠があったら?」 
 私は、待ってましたとばかりにバッグの中から、ICレコーダーを取り出した。例の5人組は顔をひきつらせ、ジリジリと扉のほうに寄りだした。
「これが証拠です。皆さん!」
 再生ボタンを押すと、雑音に続いて話し声が流れ出した。

「また投票だって」
「今年は誰に入れようか」
「5人揃ってやって大丈夫かな」
「去年バレなかったからいいよ」
「この手で6年まで乗り切れるね」
「PTAなんて時間のムダだもん」
「バレないバレない」
「じゃ、生贄を決めようか」
「あ、川合と上田でいいんじゃない」
「ちょっとあのふたりムカつくから」
「ま、誰でもいいし」
「決まり。上田と川合」

 この学年に知り合いの少ない会長が呟いた。
「この声の主たちは……誰ですか?」
 皆の視線は、教室をこっそり抜け出そうとしている5人に集まった。



 選挙の不正発覚は、これまで親たちを押し込めていた「同調圧力」という名のふたを、あっさり吹き飛ばしてしまった。
 上田さんと川合さんと私がPTAからの脱会を決めると、クラスの大半が追随した。PTAは実はやめられると知っている人たちは多く、タイミングを待っていたのである。
 他のクラスにおいても、脱会者が相次いだ。5月の総会は延期になり、組織が崩壊したまま夏休みが終わろうとしている。
 上田さんの生活は、朝から晩まで多忙だ。むしろ助けがいるぐらいで、夏休み中は、我が家へお子さんに遊びに来てもらった。彼女にPTAの役員が回らなくて、心から良かったと思っている。


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