1. トップページ
  2. 黒板消しよりも

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

2

黒板消しよりも

17/08/27 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:5件 光石七 閲覧数:190

この作品を評価する

 私は鹿児島県民である。進学や就職で県外に出ていた時期はあるが、生まれも育ちも今暮らしているのも薩摩半島の片田舎だ。仕事中にも「しもた、ラベルがよんごひんごなった」などと鹿児島弁の独り言が出てしまうような、生粋の薩摩乙女(「乙女」と書いて「オゴジョ」と読む)である。ちなみに「よんごひんご」とは、まっすぐでないこと、歪んでいたり曲がっていたりする状態を指す鹿児島弁である。
 さて、今回のテーマは【黒板】である。黒板といえば、鹿児島県民として見過ごすわけにはいかないゆゆしき問題がある。鹿児島から他県へ転校や進学をした際、あるいは他県民との研修や会議で黒板を使った際、カルチャーショックを受けた鹿児島県民は多いはずだ。――そう、「ラーフル」の件である。
 鹿児島では黒板消しのことを「ラーフル」と呼ぶ。そして、多くの鹿児島県民は「ラーフル」が標準語だと思い込んでいる。自分たちの方言が四十七都道府県の中でもかなり独自性の強いユニークなものであることを自覚している鹿児島県民だが、「ラーフル」が方言だという認識は無い。他県民にポカンとされたり怪訝な顔をされたりして初めて、鹿児島特有の言葉だったのかと気付くのだ。
 しかし、何故鹿児島県民が恥をかいたような形になってしまうのだろう。私は昔から疑問に思っていた。「黒板消し」よりも「ラーフル」のほうが短い音数で済むし、おしゃれではないか。むしろ「ラーフル」こそ全国的・一般的呼称になるべきではないのか。
 「コンプライアンス」に「コンセンサス」、「アライアンス」、「ダイバーシティ」など新たなカタカナ語が台頭する昨今、「ラーフル」だって市民権を得てもいいではないか。そこで私が思いついたのが、「『ラーフル』普及委員会」の創設である。
 しかし、「こっちのほうがカッコいいから」では説得力に欠けるし、語源も知らずに普及委員会など名乗ってはお笑い草だろう。こういう時ネットは便利である。早速「ラーフル」に関する情報を検索してみた。
 意外にも、黒板消しを「ラーフル」と呼ぶのは鹿児島県民だけではなかった。宮崎や愛媛、その他西日本の一部の地域でも「ラーフル」という呼称が使われているらしい。私が井の中の蛙だったことはさておき、鹿児島以外にも「ラーフル」仲間がいるとは心強い。さらに、文房具や事務用品を扱うメーカーでは製品名・業界用語として「ラーフル」が定着しているという。全国に浸透させる余地は十分にあるではないか。
 「ラーフル」の語源については、「こすること」「ほつれ糸」などを意味するオランダ語「rafel」が由来とする説が有力のようだ。日本で本格的に黒板が使用され始めた明治初期、チョークを消す際に、ほつれ糸を束ねたモップ風の物や、糸のほつれたぼろ切れを使っていたことから「ラーフル」という呼称が生まれたのではないかという説である。「ラーフル」という響きからして外来語ではないかと思っていたが、鎖国中も交易していた西洋の国オランダの言葉からきているというのは信憑性が高い気がする。
 驚くべきことに、かつて「ラーフル」という呼称は西日本各地の学校に普及していたらしい。ところが、学校用語としては東からの共通語風の「黒板消し」「黒板拭き」に押され、多くの地域で「ラーフル」という呼称が消えてしまった。鹿児島、宮崎、愛媛など限られた地域と業界の中でのみ「ラーフル」は生き残り、今に至るというわけだ。
 一時期西日本を席巻しながらも、「ラーフル」は「黒板消し」に敗れてしまったのか。これはリベンジするしかあるまい。おそらく当時はわかりやすい名称のほうが受け入れられたのだろう。何でもやたら横文字にしたがる風潮がある今なら、形勢逆転も可能ではないか。やはり今こそ「『ラーフル』普及委員会」を立ち上げるべきだ。
 だが、一人では心もとないし、実際に普及させることを考えると、各県に同志が必要だろう。そして影響力と有効性という点では、同志は黒板を使う機会が多い者がより望ましい。私はS県で教員をしている友人に連絡を取ってみた。
「ねえ、『ラーフル』って言葉使う?」
「あー、懐かしいー。全然使ってないわー」
「やっぱ『黒板消し』って言うの? それとも『黒板拭き』?」
「どっちもあんまり使わないよ。うちの学校、全教室電子黒板だから」
「……」
「全国的に増えてるよ、そういう学校。そのうち普通の黒板はどこも使わなくなるんじゃない?」
 ……黒板が無くなったら、「ラーフル」も消えてしまうではないか。早くも心が折れそうになってしまった。
 しかし、やはり「黒板消し」よりは「ラーフル」だなあ、と私は思うのである。いつ日本から黒板が姿を消してしまうか、不安ではあるが、もし「『ラーフル』普及委員会」に賛同して下さる方がいらっしゃれば僥倖である。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/08/27 浅月庵

光石七様

作品拝読させていただきました。
道民である私にはまったく馴染みのない話で、
興味深く読ませていただきました。

「ラーフル」。
確かに響きは格好良く、現代っぽいですね。
それゆえに、最後の電子黒板オチで笑ってしまいました。
面白かったです!

17/08/27 光石七

《参考URL》
中川淳一.“「黒板消し」を「ラーフル」と呼んだら○○県出身!”.ライフコラム.NIKKEI STYLE.2011-11-15.https://style.nikkei.com/article/DGXBASDB08001_Y1A101C1000000.(参照2017-8-25)
ラーフル考.http://osumi.or.jp/sakata/hougen/raful.htm. (参照2017-8-25)

17/08/29 光石七

>浅月庵さん
投稿早々のお目通しとコメント、ありがとうございます。
参考URLの貼付けに手間取っていたら、先を越されてしまいました(苦笑)
書きながら、提出期限直前にツギハギだらけのレポートをどうにか仕上げていた学生時代がフラッシュバックしましたが(苦笑)、「ラーフル」に興味を持っていただけてよかったです。
北海道にも道民だけに通じる特有の呼び名がついているものがあるかもしれませんね。
楽しんでいただけたなら幸いです。

17/09/06 秋 ひのこ

光石七様
「ラーフル」という呼び方、初めて知りました!
固い文調(←良い意味で)の中に「『ラーフル』普及委員会」や、電子黒板のオチなどちょっとしたユーモアも散りばめられ、最後まで楽しく読ませていただきました。
確かにカタカナ語(?)が氾濫するいま、ラーフルが黒板消しに取って代わっても不思議はないですね。
ちなみに、関西のわたしは「黒板消し」で「黒板拭き」も初耳でした。

17/09/10 光石七

>秋 ひのこさん
コメントありがとうございます。
急ごしらえの論文風似非エッセーという感じですが(苦笑)、楽しんでいただけたようでよかったです。
全国的には「黒板拭き」よりも「黒板消し」のほうが主流のようですよ。鹿児島県民にとっては「ラーフル」以外の何物でもありませんが(笑)

ログイン
アドセンス