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浅月庵さん

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黒板(ブラックボード)の真価

17/08/27 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:1件 浅月庵 閲覧数:268

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「勇者よ。よくやった! 世界を混沌の渦へ陥れた大魔王を、ようやくその手で倒してくれたのだな」
「マジ疲れたんですけど。こいつ、重すぎ」
 勇者は背中に縛りつけていた武器を、レッドカーペットの上へと投げるようにして下ろした。
「ハハハ! まぁ、そう言うでない。ワシが託した伝説の武器、その威力はいかがだったかな?」
「見てくださいよ、コレ」
 勇者は防具を外し、服の袖を捲ると、力こぶを作って見せた。
「おぉっ!」
「あんた最初、俺のこと“豆もやし”って馬鹿にしてたよな。こんな土のついたままの“ゴボウ”に世界は救えるのか?って。安心して“ポトフ”も飲めやしないって“キャベツ”みたいに顔を真っ青にしてさ」
「……」
「そんな俺が、今じゃ筋肉ムキムキさ。各地の村へ訪れる度に、女たちがワンサカ寄って来て……嬉しい悲鳴を上げるしかないよ」
「そ、そうか。それは良かったな!」
「あんたはこれを見越して、俺に実用性ゼロの、成人になって働きもしない“お荷物”のようなガラクタを寄越したんだな」
「もしかして怒ってるのか?」
「いえいえ、まさか。ただ、こんな筋トレグッズを“伝説の武器”と言い張るなんて、一国の王もたかが知れてるなと思ってさ」
「んっ? これがそこまで馬鹿にされるような代物だとは思えないんだが」
 勇者は国王の発言に堪忍袋の尾が切れたのか、顔を真っ赤にして怒鳴り立てた。
「ふっっっざけんなよ、おい! これ見ろよ」
 勇者が武器を包んでいた布を引き剥がすと、中から木枠に嵌められた深緑色をした板が出てきた。
「勇者よ。なんで黒板が、こんなボコボコに……」
「黒板(ブラックボード)って言ったか!? この伝説の武器とやらは。最初は一人で使うことなんて、到底できなかったぜ。馬鹿でかいし、糞重いからな。仲間全員で持ち上げてさ、モンスターにぶん投げたけど、その攻撃に何の意味があるのかわからんくて」
「ぶん投げた? おい、勇者よ……」
「そこから始まったよ、俺の筋トレライフは。黒板をいつか一人で使いこなすんだって! そう自分に誓って頑張ったよ。世界を救うなんてどうでも良くなった。俺の旅の目的はいつしか“一人前の黒板使い”になることへシフトチェンジしたのさ!!」
 勇者のギラギラした目に、王は冷や汗を垂らした。

「えっ、ちょっと待って。怖い怖い! ちなみにその黒板、最終的にはどうやって使ったんだ?」
「ふふ、見てろよ? 度肝抜かれるぜ」
 勇者は不敵に笑むと、黒板の両端を掴み、持ち上げ、大きなうちわで扇ぐみたいにスイングした。突風が王の頭に乗せられた冠を飛ばした。
「……それで終わりか。それ以外の攻撃方法は……」
「そんなもん、あんたが一番よくわかってんだろ。無ぇよ! これで大魔王をバッシンバッシンぶん殴ってやったぜ」
 勇者の言葉に、王は目眩を覚えた。止めどなく溢れる額と背中の汗で、どんどんと気分が悪くなっていった。

 ーーまさか! 王は、自身の決定的なミスに気がついた。
 ただ、この場でそのことを口にしてしまえば、さらに勇者が激昂するに違いないと確信する。
 このまま適当なことを言って勇者の機嫌を宥め、盛大なパーティーの末に娘との結婚を認め、この場をやり過ごそう。そう心のなかで決めた。

「王様、ありましたよコレ!」
 王と勇者のやり取りを聞いて、席を外していた一人の兵士。彼が探し物を見つけたようで、笑顔で二人の元へ駆け寄ってきた。
「おい、馬鹿! 今更そいつを持ってくるな」
「ん? 何だよ、それ」
 二人の話を遮ってまで、間に入ってきた兵士に、勇者は興味津々だ。
「下っ端の兵士がしゃしゃり出てくるんじゃない! 下がっておれ!!」
「これはですね、その黒板とセットの武器で、白棒(チョーク)って言うんですよ」
 王の忠告を無視した兵士が、黒板の表面にチョークで絵を描くと“剣”が具現化して、兵士の手にすっぽり収まった。
「おい、これは……」
「これが、黒板が“伝説の武器”と呼ばれる所以ですね。恐ろしい怪物の絵を描けば、モンスターが飛び出して敵に攻撃します。火の玉を描けば、ファイヤーボールが敵に襲いかかります。十字架を描くだけで、仲間を蘇らせることができるみたいですよ」

 ーー勇者は少しばかり沈黙すると、王を睨みつけた。
「俺に黒板を渡した時“この武器の真価は旅の道中で明らかになるだろう”って、あんた言ってたなぁ」
「……」
「この白い棒が無けりゃあ! こんな武器、」
 王は顔を上げると、純正無垢な笑顔を浮かべた。
「エヘヘ、ごめん! チョーク渡すの忘れてた!!」
「てめぇぇええええっ!!」
「本当ごめんって! ほら、娘と結婚していいからさ」

「……俺の答えは、こうだ!」
 勇者が黒板に文字を書くと「あんなブス、お断りだ」の攻撃が、王の心を抉った。


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このストーリーに関するコメント

17/08/29 みや

浅月庵 様

とても楽しく拝読させて頂きました。
王様のお茶目ぶりがたまりませんね。

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