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つつい つつさん

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先生失格

17/08/26 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:145

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 今日の体育の授業はドッチボールだった。赤チームと白チームに分かれて白熱した戦いになり、赤は裕哉が中心となってよくまとまっていた。相手チームにボールが渡ると、「右からきてるよ」「後ろ、後ろ」「左に逃げろ」と、裕哉がみんなに指示を出し、うまく逃げていた。一方、白チームは龍雅のワンマンチームだった。龍雅は指示や声を出すわけでもなく、それでも小学四年生にしては大きな体格を利用して、強く鋭い球を投げて赤チームのメンバーを次々と倒していった。やや白チームが優勢となった時、不意をつかれて龍雅が倒されてしまった。ボールを当てられた龍雅はコートの外で待たないといけないのに、プイッとふくれて、そのまま鉄棒の方へ歩いていく。
「龍雅、みんなの応援しなきゃだめだろ!」
 僕は大声で注意したけど龍雅は無視して、鉄棒で一人遊び始めた。連れ戻したかったけど、まだ試合の途中だったので仕方なく審判に戻った。
 龍雅がいなくなり大幅に戦力ダウンした白チームだったけど、それからは赤チームに負けないくらい声を出し合い、試合に勝利した。だけど、龍雅はひとりみんなと離れて鉄棒で遊んだいた。
 給食の時間、体育の後だったせいか、いつもよりみんな食べるペースが早かった。給食を食べ終わり職員室に戻ろうとすると、学級委員の礼菜が怒った顔でやってきた。
「先生、また龍雅君が涼君をいじめてます」
 見ると、いち早く食べ終わった龍雅が、隣の席の涼の食パンを取り上げ、ちぎっては瞬にぶつけていた。
「龍雅、なにしてる!」
 僕が注意すると、龍雅は自分ばかり怒られるのにうんざりした表情で僕を睨みつける。
「友達にいじわるしたらだめだろ」
「こんなチビ、友達じゃないし」
「食べ物で遊んじゃだめだろ」
「遊んでないよ。食べやすいように投げてやっただけだ」
 龍雅が答えるたびに涼はビクッとして肩をすぼめる。
「そこに立ってろ」と、教室の隅を指さすと、「チビ、お前がトロトロ食ってるからだぞ」と、涼につかみかかる。なんとか龍雅を涼からひきはがし隅に連れていって立たせたけど、涼は座ったまま泣き出すし、クラスのみんなも不安そうな顔で見ていた。いつもこうだ。龍雅がなにかするたびにクラスメイトは怖がり、そのせいで誰も自分から龍雅に近寄ろうとせず、ひとり浮いていた。龍雅の両親からは龍雅ばかり目の敵にして怒っているとクレームもあったが、龍雅の為だと誠心誠意説明した。僕は早く龍雅がみんなとなじめるようにしてやりたかった。。
 それは、一学期もそろそろ終わろうとした時に起こった。音楽室で授業した後、職員室に寄り教室に戻る途中、礼菜がものすごい勢いで廊下を走ってきた。
「先生、龍雅が、龍雅が」
 急いで教室に向かうと、教室の前では裕哉や何人かのクラスメイトのが耳を塞ぎ、頭を抱えていた。ドアを開け教室に入ると、龍雅は黒板に両手の爪を立て、ギギィィイイィィと嫌な音を教室中に響き渡らせていた。涼や拓海やクラスの大人しいメンバーは外に出してもらえなかったらしく黒板の前に座らされ耳を塞いで泣きじゃくっていた。当の龍雅は平気なのかキャッキャと笑いながらギギィィと音を鳴らし続けていた。あまりの不快な音によろめきながら龍雅に近寄り止めようとした。
「龍雅、なにしてる!」
 余計な力が入ったのか、龍雅を突き飛ばすような形になってしまった。黒板から倒れ込むように崩れ落ちた龍雅は、教壇に頭をぶつけ頭から出血した。僕は急いで龍雅を病院に連れて行った。
 次の日、学校に行くと、学校には龍雅の両親、そしてマスコミの取材陣が殺到し大騒ぎとなっていた。教え子を突き飛ばしケガをさせた暴力教師としてテレビで連日報道されることとなった。僕は授業をすることを許されず学校で待機した後、教育委員会に呼び出された。委員会にも龍雅の両親にありのままを報告し、何度も謝罪したが許してはもらえなかった。結局僕は学校を辞めることとなり、最後にせめて自分のクラスの子供達に話をさせてほしいと頼み込んだが、それは受け入れられず、全校集会で一言謝ることだけが許された。
 全校集会の朝、学校の外にはまだたくさんのマスコミが待機しており学校全体が重苦しい雰囲気に包まれていた。僕は校長に促されるがまま「このたびは私の未熟さのせいでみなさんに大変ご迷惑をお掛けしました」と頭を下げることしか出来なかった。謝罪を終え学校を後にする途中クラスのみんなの顔が目に入った。礼奈や裕哉、クラスのほとんどが泣いていた。涼や拓海は心配そうな顔で僕を見ていた。そんな中、クラスのみんなと少し離れたところにぽつんと頭に包帯を巻いた龍雅がいた。龍雅は僕を見るとニヤニヤニヤニヤ笑った。みんながつらそうに悲しそうにしている中、ひとりニヤニヤ笑っていた。
 龍雅……ごめんな。先生、お前になにも教えてやれなかった。


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