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おまじない

17/08/25 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:2件 ファリス 閲覧数:224

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最近、ある「おまじない」が流行っている。
「誰にも見られず黒板に好きな人の名前を赤チョークで書き、その上から自分の名前を白チョークで書くと、恋が叶う」
どこからともなく広まりだしたこのおまじないは支持を得たようで、放課後の教室ではいつも、どこかたどたどしいチョークの音が響いている。
今日もまた一人、想いを胸に秘めた少女が、周りを気にしながらこそこそと教室に入ってきた。
廊下や近くの階段に人がいないか、教卓の下に誰か隠れていないかまで念入りに確認して、その少女は教室の入口から遠い側の黒板の端に立った。
手元には、赤と白のチョークが一本ずつ。
黒板消しも近くに持ってきてある。
深呼吸をし、緊張で震える手を落ち着かせた。
細い指が伸び、まず赤チョークで好きな男の子の名前を書いた。ほとんど音を立てなかった。
次に自分の名前を白チョークで書いた。今度は少し音が出てしまったが、誰も聞いていないだろう。
手順を終えたのを確認すると、少女は素早く、しかし跡が残らないよう丁寧に、それらを消した。
誰にも見られずに済んだからか、安心からふうと一つ息を吐き、おまじないが効くことを期待して少女は教室から出ていった。

翌日の朝、席替えが行われた。
様々に不満の声が上がったが、少女はどこかそわそわしている。
席替えの結果、黒板に名前を書いた少年の隣の席になったのだ。
おまじないすごい!と少女は思った。
喜んでいそいそと席を移動すると、既に向こうは席についていた。
今までは恥ずかしくて遠くから見ていることが多かったが、おまじないが効いたと思っている少女は少し気が大きくなって、自分から挨拶をした。
「よろしくね」
「お、おぅ……」
しかしその反応はあまりよくなく、少年は相変わらず窓から外を眺めている。
少し残念になって、少女はゆっくり席についた。
その後も一日中ほとんど会話がないままで、二人だけがぎこちなく、新しい教室の空気から取り残されているようだった。
悲しくなった少女は、いつも一緒に帰っている友達に用事があると嘘をついて、図書室に向かった。
図書室にはほとんど人が来ないので、心を落ち着かせたいときによく使っている。今日も、少年とうまくいかなかったことの悲しみを溶かそうと、奥の部屋で静かにページをめくった。

すっかり陽が傾いた頃、家に帰ろうとして、少女は教室に忘れ物をしていることに気づいた。
オレンジ色に染め上げられた廊下を歩いていると、どこからか硬い音が聞こえてきた。
カツ、カツ、カツ。
おまじないだ。少女はすぐに気づいた。
誰が誰の名前を書いているのかという好奇心と、見てはいけないという良心が渦巻き、ほんの少しだけ気になると思ってしまった。
足音を忍ばせ、音が聞こえてくる方へ進む。
その教室の前に来ると、そこは少女のクラスだった。
大事な想いを邪魔してはいけない。そんなことはよくわかっている。私だって、昨日は誰かに見られないかとドキドキしっぱなしだったのだから。
でも……。
ガタッ。
「誰だ!?」
しまった、どうしよう。
勢いよくドアが開いた。
「……!」
その少年は一瞬だけ表情を強ばらせ、走り去ってしまった。
「びっくりした……」
まさか、彼が。
誰の名前を書いたんだろう。
急に胸が苦しくなって、悩んだが、黒板を見た。
しかし、そこには何も書かれていなかった。
気になっていたので残念だったが、忘れ物を回収して、そのまま少女は教室を出た。
階段を降りていると、上から声をかけられた。
「待てよ!」
振り向くと、息を荒くした少年が立っていた。
「なに?」
「……見たのか?」
「見てないし、消してあったじゃない」
「覗いてたんじゃないのか?」
「見てないって!」
「そうか」
落ち着いて息を整えている少年に、少女は思いきって聞いてみた。
「誰の名前を書いたの?」
「は?」
少年は信じられないというような顔をした。
「……本当に見てないんだな」
「ねえ、誰の名前を」
「教えてやるから、来い」
少年は大きくため息をついて、戻っていった。
教えてもらえることになり、少女は不用意なことを言ってしまったと後悔した。その名前を知ってしまえば、この気持ちが決して満たされることはないと思い知らされてしまうからだ。
少し泣きそうになりながら少年の後を追って教室に戻った。

教室には二人だけ。
夕陽に照らされた二つの顔は赤い。
「やっぱり、聞きたくない」
「なんだよ、そっちが教えてくれって言ったんだろ」
「でも、言わなくていいならそれでいいでしょ?」
「いや、もう言うって決めたから」
「私そんなの知らない!」
逃げようとする少女の腕を、少年はしっかりと掴んだ。
「離して!」
「お前だよ」
「え?」
「書いた名前」
二人の顔は更に赤くなった。
「……泣くなよ」
「ありがとう」


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このストーリーに関するコメント

17/08/26 セレビシエ

ファリスさん、拝読しました
甘酸っぱいです

17/08/27 浅月庵

ファリス様
作品拝読させていただきました。

キュンときますね。大好きです、こういう作品。
最後、来る来るってわかっていながらも、
思わずにやけてしまいました。

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