小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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17/08/24 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:153

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 なるほど、学校内という特定のエリアにおいて確実に嫌がらせするには、古典的だがいい手段かもしれない。
 黒板いっぱいに書かれた、私への悪口を見たにもかかわらず、私はそんな風に冷静に考えていた。こういうところが可愛げがないと言われるのだろう。
 ヤリマンだのなんだの書かれた黒板を目にして、私がとるべき正しい対応は何だったのだろう。少し遅れてそんなことを考える。怒る? 泣く? 慌てて消す?
 でも私はそのどれもしなかったし、そのどれもできなかった。瞬間的に自分の体温がぐっと下がったのはわかったし、お腹が重くなったし、心臓はバクバク言ってるけど、そういった感情を外に出すのがずっと苦手だった。そういうこと、彼女はわかってくれていると思ってたのになぁ……。
 教室の後ろの方でクスクス笑い合っている彼女を見る。ただ視線を向けただけなのに、彼女は一瞬ギョッとした顔をしてから、
「なによっ! はやく消せばっ?」
 キレ気味に言ってきた。別に睨んでもないんだけど。
「消さないよ」
「はぁ?」
「私、日直じゃないし」
「はぁぁぁ?!」
 彼女が不満そうな顔をする。
「先生来ちゃうよ!」
「だから?」
 日直の子はまだ来ていない。あの子はいつもギリギリに来るから……、可哀想に。
「先生に見られちゃうんだよ!」
「事実無根のことを書かれていて私に何か不利益はある? 事情を聞くために仮に呼び出されたとしても、それはいじめの被害者としてだよね?」
 彼女は怒ったような顔をして、何かを言いかけて、結局やめた。
 今更思い出したらしい。私がこういう人間だってことを。
 私がこんなふうにちょっとズレてるから私達の中もズレ始めて、だから彼女はこんな悪口を黒板に書いたのに、原因となった私の性格を忘れてるなんてお笑い草だ。 
 まあ、直接のきっかけは、彼女の好きな人が彼女のいる前で私に告白してきたことだけど、私は断ったわけだし、それについて彼女にとやかく言われる筋合いはない。と、思うのだが、彼女やクラスの女子的には私が親友の好きな人に色目を使ったビッチになるらしい。めんどくさい。
 好きな人がいなくて恋愛に興味がない人間はキモいとかいうくせに、誰かが先に目をつけていたものに告白されるとビッチになるというのだから、女子中学生というものは本当にめんどうだ。
「これを消さないと困るのは、書いた人でしょう? いくら黒板でノートとは違うとはいえ、筆跡ってあるし」
 彼女が黒板を見る。数日前から揉めていたのだ。クラスの誰もが犯人が彼女であることはわかっている。それでも、消しに行ったら自分が犯人ですというようで嫌だ。でもこのままにして先生に見られるのも嫌だ。そんな気持ちなのだろう。
「でも、黒板でよかったよね。犯人の特定は難しい方だし。これがネットとかだったら犯人特定できちゃうし、犯罪になるんでしょ?」
 小心者の彼女に出来るのは、黒板に書くぐらいだろうけど。
 予鈴が鳴る。そろそろ先生が来る。
 彼女が悔しそうな顔をして、一歩足を踏み出した時、
「うわ、なにこれ」
 日直の男子がやってきた。
 これ幸いとばかりに彼女は、
「あんた日直でしょ、黒板綺麗にしておかなきゃ」
 彼に消させに行く。
 なるほど、第一ラウンドは引き分けってとこか。
 つまらなくなって、私は自分の席についた。
「これで勝ったと思わないでよ」
 斜め前の席の彼女が、私の横を通る時にそう言った。
 思わないよ。私の勝利は、あなたを屈服させることだけ。
 好きだからこそ、容赦はしない。あなたが私のモノになるまで、私も諦めるつもりはない。いつまでも友達のままではいられないと思っていたところのなのだ、丁度良い。
 筆圧の強いチョークの跡をどうにか消そうと日直が頑張っているのを見ながら、私はうっすら微笑んだ。


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