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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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上司たちの駆け込み寺

17/08/21 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:167

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 高松光一の目がそのとき、すさまじく怒気をおびてまっかに血走った。
「ふざけるんじゃないぞ。おまえたち」
 そばにあった椅子を壁ぎわまで蹴っとばした。
「おい、おまえら」
 声高にどなりつけるなり高松は、椅子にならぶみんなの顔を、自分の手が痛くなるのもかまわず、片端からひっぱたいていった。ときには拳で、また肘の先で、あげくは革靴で、殴る、蹴る、踏んづけるを、いつまでも執拗に繰り返した。それでもまだ足りないとみえ、彼はそばにいた社員の髪をわしづかみにすると、床のうえに引きずり倒して顔といわず全身を、むちゃくちゃに蹴りつづけた。
「よくみろ、俺さまのいうことがきけないやつらは、こうなるんだ」
 自分の言葉に、ふたたび憤怒に顔を赤く染めて高松は、室内にいる部下たちを、またしても手辺りしだいに殴打しはじめた。社員には女性も数名まじっていたが、激昂のあまり高松には、もはや相手の性別などに拘る余裕さえ喪失していた。
「おい大野―――」
 名指しするなり高松は、その社員の席まで詰め寄っていくと、ぐいと胸倉をつかんで、
「影で俺のことを笑っているのはわかっているんだ。俺のやることすること、けちばかりつけやがって、なにが上司、それはちがいます、だ。女性社員に色目ばかりつかいやがるおまえなんかが俺にたてつくのは十年はやいんだ。このやろう」
 とまた、大野の喉を、ぎゅうぎゅうとしめつけた。
「そこの佐竹―――」
 とこんどは、高松は女子社員に矛先をむけた。
「仕事ちゅうに俺が、チラチラ色目でみてると課長にチクッたのはおまえだろう。わかってるんだぞ。すれちがいざまに、太腿にふれただと、嘘ばっかりいうな。だれがおまえみたいな女に、色目を使ったりするものか。あれはおまえのほうがちかづいてきて、俺の横をすれちがいざまに、そっちからふれてきたんじゃないか。この嘘つき女め―――」
 またまた平手打ちが佐竹を襲った。
「てめえら、上司の俺をなめやがって、今度ばかりは許さないから覚悟しやがれ」
 高松は鼻息あらくネクタイの結び目をゆるめた。上着もぬぎすて、絡み合わせた指をボキボキ鳴らした。
「これまでのことはほんの小手調べだ。てめえら、足腰たたなくなったってしらねえからな」
 彼はそれから、部下の社員にたいして、これでもかというぐらい暴力をふるいまくった。
 
 入り口の上の赤いランプが消え、ゆっくりとドアが開いた。
 きちんと背広を着け、ネクタイを結びなおした高松が、神妙なおももちで部屋からでてきた。IDカードをぬきとろうとしたとき、部屋のまえにたっていた男が、
「お、高松か」
 同期の桜井だった。
「待っていたのかい」
 以前は、会社でむしゃくしゃしたときなどはよく、帰りにさそいあわせて酒をのみにいった仲だった。この部屋ができて以来、そういうこともなくなった。
「うん。いうことをきかない部下をもつと、やってられんよ」
「まったく、まったく」
「それじゃ」
 桜井はここで時間をつぶすのももどかしいといわんばかりに、早々にドアをあけて入っていった。
 いま自分がしたような光景が桜井の周りにすぐにも展開することを思い浮かべながら、高松は階下におりていった。
 パーテーションに仕切られた部署にもどると、さっそく大野が、
「係長、どこをほっつきあるいていたのです。まったく。得意さきから電話がはいってるんだから」
「これは、どうも」
 高松はちいさくなって詫びた。じぶんの机に行こうとすると、途中で佐竹の椅子から投げだしたあしに邪魔された。スマホに夢中になっていて、いっこう足をひっこめようとしない。あきらかにプライベートのスマホだとわかっていたが、彼はそのことにはふれずに、
「あのう、佐竹さん、ちょっとこことおしてくれないかな」
 顔もあげようとしない彼女に、なおも高松は低姿勢で、
「すみません、お願いします」
「とびこえていけば」
「は」
 すると彼女は腹をかかえてけらけら笑いだし、彼がみているのも平気で、スカートから両膝をつきあげた。
「これは、どうも」
 ぺこぺこしながら高松は、ようやく自分の席につくことができた。
 あとはもう、パソコンに顔をくっつけるようにしながら、いつものように社員たちが周囲でなにをしようと、みてみぬふりをきめこんだ。
 頭のなかでは、さっきの部屋の、社員のレプリカがならぶ室内の光景がなんどもよぎった。いくら殴っても傷ひとつつかないホームラバー製の、関節部分は油圧で可動し、見た目は人間そっくりのかれらの姿が胸によみがえった。
 モンスターのような部下たちを前にして、のしかかるストレスに喘ぐ上司たちを癒すために社内に設けられた、駆け込み寺に、はやくも彼はとんでいきたい衝動にかられた。
 


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