1. トップページ
  2. ブンチョウ部長

ちりぬるをさん

これからも精進していきます。 コメントなどいただければとても励みになります! よろしくお願いします。 Twitter @1682hoheto8D

性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
座右の銘 春風秋雨

投稿済みの作品

1

ブンチョウ部長

17/08/21 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:0件 ちりぬるを 閲覧数:173

この作品を評価する

 会社の廊下を歩く俺に周囲の白い目が向けられる。無理もない。営業成績万年最下位の部署、しかも部長は不倫がバレてクビになった。どこまでも駄目な部署なのだから俺達もクビにならないだけマシだ。
 欠伸混じりにドアを開けると部長の席の周りに人が集まっていた。そういえば今日は新部長の挨拶があるから早めに出社するように言われていた。
 忍び足で人だかりに近づくと机の上に鳥かごが見えた。
「というわけで、会議への出席、報告は私がします。現場の指揮を執るのはこの桜井ピー助さんということになりますので、今後よろしくお願いします」
 戸惑い混じりの拍手が起こり俺もそれに合わせて拍手をした。
 人だかりが捌けて机には鳥かごだけが残された。当然その中には鳥がいる。俺は同期の渡辺を捕まえた。
「どういうこと?」
「アレが、新しい部長なんだって」
「アレ?」
「アレ、文鳥。文鳥が部長」
「ダジャレかよ。冗談でしょ?」
「あたしもそう思うけどさ、でもガチらしいよ。文鳥なら不倫もしないだろってさ」
 なんてこった。うちはそこまで会社から見放されてたのか。鳥かごを覗き込むといかにも賢そうな小鳥が羽をパタパタさせていた。
「どうでもいいけど、寝癖ひどいよ?」
  本当にどうでもよかった。

「ねえ聞いた?」
 数日後、始業ギリギリアウトの時間に席にどっしりと腰を下ろした俺に渡辺が近づいてきた。
「あの部長ね、ロボットらしいよ」
 不可解なことを耳打ちする。
「へえ」
「キミ部長が餌を食べてるとこ見たことある?」
 そう言われて思い返してみると部長はいつもカゴの中の小枝に止まってキョロキョロしているだけで、生き物らしい行動を見たことがない。俺は首を振った。
「おかしいと思ったんだよ。カメラが付いててあたし達のこと監視してるらしいよ」
「へえ」と鳥かごを覗き込む俺の背中に「だからやばいよ、あたし達」と渡辺が言った。
「やばいって?」
「部長変わってからあたし達仕事してないじゃん。普通にクビになるよ」
 ハッとして周囲を見回すとここ数日だらだらおしゃべりしたり、携帯をいじってたりしていた皆がせかせかと働いていた。
 これはまずい、と俺はとっさに姿勢を正す。俺には愛する妻と子供が……いるわけではないが、クビになるわけにはいかない。部長からよく見えるように座る位置をずらしてパソコンに向かった。

「部長、外回り行ってきます」
 外出時には必ず部長に声をかけるのにも慣れてきた。部長はたいがい小刻みに首をかしげているだけだが、今日は珍しく「クエクエ」とさえずっていた。その様子を見て俺は何をやっているのだろう? と部長と同じく首をかしげながら営業先へ向か……向かおうとした。……向かおうとしてやめた。やめて部長の席へ戻った。
「皆さん! 部長が鳴きました!」
 鬼の首を取ったような俺の勝どきを聞いた社員達が続々と部長の鳥かごを取り囲む。俺が聞いたきり部長が鳴くことはなかったが、よくよく見ればなぜロボットなどという噂が流れたのか不思議なくらい部長は文鳥だった。大きく伸びをしながら席に戻る渡辺に並んで自席へ戻る。
「外回り行くんじゃなかったの?」
 早速携帯ゲーム機を取り出す渡辺の問いに「まさか、暑いんだから電話でいいよ」俺は乾いた笑いを返した。

「ねえ、聞いた?」
 数日後、クールビズとは名ばかりの、他の会社いや他の部署でさえ一撃でクビになるような格好で出社した俺の寝癖を掴みながら渡辺が言った。
「最初の挨拶でさ、あの部長『桜井なんちゃら』って紹介されてたじゃない?」
 俺はアロハシャツのボタンを弄りながらその時のことを思い出そうとしたが、五秒と経たずに諦めて首を傾げた。
「ってことはあの部長、桜井常務の飼ってる文鳥なんじゃないかって説が出てるの」
「へえ、それで?」
「だからまずいよ」
「なんで?」
「常務が文鳥の様子を見に来るかもしれないじゃない。そのときそんな格好でダラダラしてたら……クビよ」
 それはまずい。俺はとっさに立ち上がった。俺には重い病気で入院している母が……いるわけではないがクビになるわけにはいかない。
「一度帰宅して着替えてきます」
 俺はこの間までの癖で部長にそう告げて帰路を急いだ。


 会社の廊下を歩く俺に周囲の白い目が向けられる。無理もない。結局その後常務は猫を飼っていることが判明し、常務と部長は無関係だと分かったのだ。が、一度ついた真面目に働く癖が抜けずうちの部署の成績が急上昇した。
 そこまでは良かったのだが、これに味を占めた上層部が管理職を全て動物にするという暴挙に出たのだ。
「そっちは猫か。うちなんて牛だぞ?」
 そんな会話が交わされる廊下で「全部お前らのせいだ」という視線を華麗にスルーしながら、俺は寝癖を直しつつドアを開けた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス