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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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あの日黒板に書きなぐったのは

17/08/20 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:2件 小峰綾子 閲覧数:151

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利用されているだけなのは薄々気が付いていた。弁当の時間になると、いつも通りグループのメンバーから希望のドリンクを申し付けられる。私は他の4人が何か飲みたいものがある時に買いに行く係だ。中学生活に慣れた時にはすでに、クラスの女子は大まかに3つのグループに分かれていて、その中で一番「イケてる」グループに入れただけでも幸運なのだと思う。
「なんで私だけー?たまには誰か一緒に来てよぉ」
ふざけてリーダー格である明日香の腕に自分の腕を絡めるが、明日香はするっと腕を抜いて「めんどいー。」「係なんだから、一人で行ってよ」といって笑う。「分かってるよ。行ってくるね」そう言って私は教室を出た。
自販機までは渡り廊下を歩いて1階に降りるだけ、大した距離じゃない。お金は貰っているのでカツアゲされているわけではない。だから、いじめでもないしパシリでもない。そう自分に言い聞かせながら、今日は3人分のお使い、100円玉を3枚握りしめる。グループから外されて独りぼっちで過ごすよりはずっとまし、そう思っていた。それが、あの日急に変わったのだ。
父の転勤が決まった。父は地方公務員なので転勤はつきものなのだが、今年は予期していなかったので急に家の中が慌ただしくなった。私の高校受験のことを考えると父だけが単身赴任するのが現実的なのではないか、ということで父と母の間では話がまとまっていたようだ。
しかし、私はこう言った。
「お母さん、私、一緒に引っ越してもいいよ」

学校を変わりたくない、友達もいるし、部活も続けたいから引っ越したくないと言っていた私が突然「転校でも構わない」と言い出したことで母は驚いていた。理由は「今の学校はつまんない。吹奏楽部も弱いからやる気でない」で通した。
転校することになったと告げるとグループのみんなは口々に「マジで」「寂しいねぇ」「お別れ会やろうね」と言ってくれた。だけど、その日も「私いちごミルクティ」「私はゼリーシェイク」などと使いを頼まれるのは変わらなかった。

いつも通りお金を受け取って自販機に走るのを、その日の私はやめたのだ。

「私、今日は別にいらないから、いかないよ」

全員が「え?」と、面食らっているのが分かった。私が何を言ったのか理解できない。そんな顔だ。
「飲みたい人が買いにいけばいいよ。私だけ行くのおかしくない?」
どうせこの付き合いもあと1週間、そういう気持ちもあったと思う。もやもやした気持ちのまま言いなりになるのが、グループの中で認めてもらうために惨めな行動をとるのが、馬鹿バカしくなったのだ。みんな怪訝そうな顔をして私を見ていた。そして結局、誰も自販機に行かずそれぞれ持ってきたお茶や水などを飲んで済ませた。
その日放課後になるまで、グループのメンバーたちが「どうしたあいつ?」「もう転校するからって、強気に出始めた?」と、聞こえよがしに言っているのが聞こえた。

3日後、ついに弁当を食べる輪に入れてもらえなくなった。一つの机を4人で囲んで、私が入ろうとするのを無言で拒否する。薄々感じていたことが段々とはっきりしていく。私は利用されていただけ。グループにちゃんとなじめていると、思いこまされていただけ。

どうでもよくなった私はカバンをもって、黒板に大きくある言葉を書いて教室を後にし、もう戻らなかった。

はっと目を覚ますと、大講義室での授業中だった。私は大学1年生、3限の授業中だった。大きな黒板を見ると、あの日黒板に書いた文字のことを思い出すので、そんな夢を見たのかもしれない。

突然、一年生も後5日のところで学校に行かなくなったので母はさらに困惑していた。でも、何を聞かれてもグループのことは言わなかった。メンバーをかばったわけではない。そんなグループに1年間属してた自分が悔しかったのだ。
担任と親が電話で何か話していたのは聞いたが、どうでもよかった。出席日数なら問題はない。担任は私が黒板に書いたことを親に伝えたのだろうか。いまだに聞けていない。
転校先では私はきちんと毎日学校に行き、吹奏楽部にも入り、部活に明け暮れた、始めこそ心配していた母も私が一応は楽しそうに学校に行っているのを見て安心したようだ。

大学生になりわたしは東京で一人暮らしを始め、ごく普通だが楽しい大学生活を送っている。

あの日私が黒板に書きなぐったのは
「ぜんぶ くだらない」
グループからはじかれたくなくて言いなりになることも、好きでもない子たちと時間を共にすることも全部くだらないと思ったのだ。
関係ないクラスメートや担任や親には迷惑をかけたと思うが、後悔はしていない。
あの時、父が転勤にならなければどうなっていたのか。タラれば言っても仕方ない。ともかく私は抜け出したのだ。自分を守ろうとして自分が自分でなくなる檻から、くだらない世界から。


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このストーリーに関するコメント

17/08/23 沓屋南実

小峰綾子さん

読ませていただき、わかりやすいお話で心に残りました。

グループの子たちは、巧妙に主人公の心に負のエネルギーを与え続けています。
主人公はグループに属すという安心が得られたようで、そうではないのですよね。教室という決まった構成員のなかで、グループに属さないことへの恐怖から逃れられているだけ。本当の安心からは、遠いと思いました。
こういう状態に置かれた子は日本じゅうに大勢いるような気がして、胸が痛いです。
主人公のように、転校できたら良いのに、と思いました。

17/08/30 小峰綾子

沓屋南実さん
コメントありがとうございます。私自身、黒板という言葉を思い描いた時に、息苦しさやもどかしさの方が強いことに気が付きました。
沓屋さんのおっしゃる通り、学校には自分で選んだわけでもない閉鎖的な空間に入れられて、その中で上手くやっていかなければいけないしんどさがあります。
誰か1人にでも、届いたことが嬉しいです。ありがとうございました。

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