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瀧上ルーシーさん

twitter https://twitter.com/rusitakigami 破滅派 https://hametuha.com/doujin/detail/rusitakigami/

性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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デリシャス・テイスト

17/08/18 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:2件 瀧上ルーシー 閲覧数:326

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 地元にあるファミリーレストラン、デリシャス・テイストの厨房でアルバイトをしていた。デリシャス・テイスト。略すとデリスト、とか、デイストとか言う。デリストは全国展開しているチェーン店だから、マニュアルがしっかりしていて、アルバイトでも月に一日や二日は有給が取れる。働きやすい職場だ。
 今日は先輩のアルバイトがサラマンダー前をやってくれるので俺はパスタやサラダ、デザートなどを作る係だった。サラマンダーとは上火だけのオーブンで、火の下は動くレールになっていて決まった時間で鉄板やグラタン皿が入り口から出口に出る。レールに載せたハンバーグやグラタンを時間になっても放っておくと、レールは勝手に止まってくれないので、鉄板や皿が床に落ちて料理が台無しになる。出口から出てきたらペンチで鉄板や皿を掴んで木の皿に載せて、すぐさま料理をお客様の待つテーブルまで運んでもらわなければならない。
 俺は大学生で、もうすぐ就活を始めるとはいえデリストでの仕事が好きだった。パスタを調理して、背の低い冷蔵庫の上の調理台でサンデーグラスにアイスやチョコ、生クリームを盛ってパフェを作っていく。今夜もいつも通り店が閉まる十二時までのシフトだった。九時を過ぎるとそれまでの忙しさが嘘のようにお客様の数が少なくなって、俺と先輩バイトは厨房で雑談していた。
 客足が少なくなって結構経つのに、まだ皿や鉄板の洗い物が終わっていない、お爺さんのアルバイトが忙しそうにしていた。そのお爺さんは制服のキャップをしていても隙間から白髪が見え、顔は皺だらけだった。ネームプレートには佐藤と書かれている。とにかく俺は先輩バイトとの雑談を中断させて、佐藤さんを手伝うため洗い場に行った。
「あまり汚れていない皿はそのまま食洗機行きでいいですよ」
「ああ……そうなんですか。教えて下さってありがとうございます」
 佐藤さんはぺこりと頭を下げた。

 その日も午後六時から店が閉まる十二時までのシフトだった。狭い更衣室で制服に着替えているときに、その日一緒に仕事をする筈だったアルバイトから携帯の方へ電話がかかってきた。
「今日、休むから」
「どこか具合が悪いんですか?」
「ああ、腹が悪くてな」
 本当なら文句の一つも言ってやりたいが、時間が勿体ないので俺はさっさと厨房に入った。その日の厨房担当の一人である佐藤さんが床の掃除やグリストラップを掃除していた。もう一人いたアルバイトはこれで上がりらしく、お先に失礼しますと言って厨房から抜けていった。俺は少し不安に思ったがやるしかないのでサラマンダーの前に立った。サラマンダーとコンロの前を往復するので、余裕がなく、何度もサラマンダーの上から料理が載った皿や鉄板が落下した。落とした皿の破片や料理は、この間の一件以来洗い物が早くなった佐藤さんが片づけてくれた。
「簡単なメニューなら私も作れますよ」
 誰かが教えたのだろうか? そう疑問に思ったが猫の手も借りたいほどの忙しさだったので、サラダやデザートを彼に作ってもらった。作る早さは俺の方が早いが佐藤さんが作ったメニューはどれもとても綺麗な仕上がりだった。
 そうして混雑する時間をなんとかクリアして、厨房の後片付けをしながら店を閉める時間を待っていると、佐藤さんが「これから飲みに行きませんか?」と誘ってきた。酒でも飲まないと疲れが抜けないような気がしたので俺はその誘いを受けた。店の外の従業員用の駐車スペースには外国の高級車が駐まっていた。しかも運転席には既に人が座っている。「彼は運転手ですから」と佐藤さんは言った。彼がドアを開けてくれて二人で後部座席に乗り込んだ。少しの時間車は走ると、地元では栄えている繁華街の雑居ビルの前で停まった。ビルの二階は個室居酒屋になっていた。俺はわけがわからないで固くなってしまい、ビール中ジョッキ……としか言えなかった。佐藤さんは座敷の上で刺身や野菜スティックなどを頼み、飲み物は日本酒だった。
 いつの間にか、彼からはある種の雰囲気が漂ってきていた。
「実は私はデリストの社長でね。君のような有能なアルバイトがいる限りうちも安泰だな」
 俺は弱いので既に少し酔っ払っていたが、佐藤さんが冗談を言っているようには思えなかった。
「たまに適当な店の視察に行くんだ。君はたしか大学三年生だよね」
「はい……」
「現場のノウハウを知った背広組が必要なんだ。大学を卒業したらデスクワークだがうちの本社ビルで仕事をしてみないか? 社宅もあるし給料も今とは比べものにならないよ」
「少し混乱していますけど嬉しいです……是非よろしくお願いします」
 だいぶ早いが俺は就活を終わらせたようだった。
 社長はもっと食べなさいと言って、色々な料理を注文した。俺は一杯しか飲んでいないのに頭がふらふらして目玉がぐるぐるとしていた。


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このストーリーに関するコメント

17/10/23 光石七

遅ればせながら拝読しました。
ファミレスでのバイトの描写が具体的でリアリティがあり、実際にご経験がおありなのかなと思いました。
主人公の真面目な姿勢もいいですね。
その企業のボスが変装して現場に潜り込むというテレビ番組を思い出しましたが、やはり普段の仕事ぶりが大切だと思います。
素敵なお話をありがとうございます!

17/10/23 瀧上ルーシー

光石七様、いつも素敵な感想をありがとうございます!
ファミレスでのバイト経験は多少あります。真面目で仕事ができる若者を目指して書きました。
フィクションですが、こんな若者がいたらもっと評価されていいのではないかと思います。それでこういう結末になりました。
読んでくださいまして、重ねてありがとうございました!

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