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浦田かずさん

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性別 男性
将来の夢 作家デビューすること
座右の銘 日々是写楽 (写真を撮らない日も一瞬一瞬を目に残しておきたいと思って日々暮らしています)

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黒板小説

17/08/17 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 浦田かず 閲覧数:245

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 ある日のことでございます。龍太が千代田区の大型書店に入っていきます。入ってすぐ目につくところに売れ筋の本や新刊が置かれています。平台と呼ばれるところにございます。そこに変わった本が一冊置かれています。F8サイズのスケッチブックほどの大きさの本でございます。その本の手書きポップには「今話題の黒板小説」と書かれています。丁度売れ筋なのでございましょう。

 龍太はその本を手に取ります。表表紙には「本の内容を黒板消しで消してチョークで書きかえると、不思議な体験ができる本」と書いてあります。本の題は「蜘蛛の糸」と書いてあります。龍太は、どんな不思議なことが起こるのだろうと思い、この本に心を惹かれます。龍太はその不思議な本を買って帰ります。

 龍太が「蜘蛛の糸」を自宅で読みます。黒板のような紙の上に、チョークで小説が書かれています。内容は皆さまご存じの「蜘蛛の糸」でございます。そう、極楽の御釈迦様は、罪人の犍陀多が昔、蜘蛛を殺さなかったことを思い出し、地獄の底に糸を垂らして犍陀多を助けようとします。犍陀多は御釈迦様が垂らした糸につかまり上へ上へと登りはじめます。しかし犍陀多の後を追って何百、何千といった罪人どもが登ってきます。犍陀多が「この蜘蛛の糸は己のものだぞ。下りろ。下りろ」と下に向かって喚いたところ、蜘蛛の糸はプツリと切れ、犍陀多と下の罪人たちは、もとの地獄の底に落ちていくというお話でございます。

 龍太は本に付いていた黒板消しとチョークで後半の文を消して、面白半分で次のような内容に書きかえます。
「蜘蛛の糸は切れることなく、犍陀多と数限りもない罪人が登ってきて、極楽は罪人であふれかえります。罪人どもは極楽で悪事を働き始めます」と。
 
 書きかえが終わっても、龍太の部屋では何も起こる気配がありません。ところが、龍太の部屋の隅に置いてあるテレビから次のような臨時ニュースが流れ出します。
 
 ・ある国が弾道ミサイルを発射し、何万人もの人が亡くなります。
 ・ある島で火山が噴火し、何千人もの人が亡くなりなります。
 ・またある国では竜巻が発生し、一つの町が消失します。

 これらがテレビのニュースで次々と流れます。龍太は、この上ない驚きに固まってしまいます。自分が本を書きかえたことで起こっている出来事ではないかと思ったのでございます。書き終えた直後から事件が次々と起こりましたので、そうに違いないと思ったのでございましょう。

 そこで龍太は、また黒板消しとチョークを手に取り、
「御釈迦様は犍陀多の悪事が、たった一回蜘蛛を殺さなかったことだけで許されることではなかろうと犍陀多を助けることをおやめになります。そして又ぶらぶらと蓮池のまわりを御歩きになりはじめました」と書き直します。
 すると、
 
 ・ミサイルを発射した国は、偉大な国王の命を大国の軍に断たれ、降参します。
 ・火山の噴火はおさまります。
 ・竜巻もおさまります。

 龍太は自分が本の内容を書きかえて起こったことだと確信します。事態が収まり一安心します。しかし、その後悔恨の念にかられます。
 そうです。今回の件で亡くなられた方々の命は戻らないのでございます。なんとか自分がしでかしたことで亡くなられた方々を蘇らせることができないかと、龍太はあれこれ考えます。
 書きなおした文章をもとあった通りに戻すには記憶力に乏しいと考えます。自分で考えて蜘蛛の糸に近い文を書くには、文章力がなさすぎると考えます。全部黒板消しで消してしまえば、オールリセットされるのではないかと考えます。本を燃やしてしまえば、もとの通りになるのではないかと考えます。
 龍太は考えた挙句、黒板消しで全部の文を消します。消し終わった途端、
 
 ・下界には、人っ子一人いなくなります。
 ・下界には、陸と海だけが残ります。
 ・地獄にも、人っ子一人いなくなります。
 ・極楽には、もと通りの平和が戻ります。

 御釈迦様は蓮池のまわりをゆっくりと御歩きになっています。
 
 下界や地獄は、四十六億年後にもとに戻ると聞いております。


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