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ケイジロウさん

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消えないチョークの文字

17/08/14 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:128

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 ある日のことだ。教室に入ると黒板がなくなっていた。
 確か昨日まであった。昨日は僕が日直だったのでその記憶は確かだ。
 しかし、昨日僕が消していたチョークの文字は本当に存在していたのだろうか。なぜ自分の記憶に疑いを持ってしまうかというと、教室に入った時、黒板がないこと以外いたっていつも通りだったからだ。貴志はいつも通り難しい顔で難しい話を男子たちとしながら敏子のことをチラチラ見ている。敏子は髪の毛をクルクル丸めながら笑顔らしきものを男子たち向けに造っている。いたっていつも通りだ。誰一人黒板がないことに気付いている様子はない。
「おはよう」
 となりの席の里美が目をパチクリまばたきながら僕にあいさつをしてきた。
「おう」
 僕はかばんの中を意味もなく探りながら返事をした。
「おい、里美」
 僕は空っぽのかばんの中を見ながら声をかけた。
「黒板、なんだけどさ。何でないの?」
「え!?コクバン?」
「そう、黒板。昨日まで確かにあったような気がするんだけど……」
「コクバン、って黒板?」
 里美は猫のような顔をななめにかしげながら、チョークで文字を書くしぐさをした。
「そう、その黒板」
「ぷっ、うける。黒板だなんて。ぷぷぷ」
「はっ!?」
「黒板ってさ、チョークで文字を書いて、それを黒板消しで消すんでしょ。意味ないよね。うける。ぷぷぷ」
 里美はかがみを取り出し自分の顔面を見つめた。それから、いきなり黒板消しで自分の顔をはたき始めたのだ。黒板消しが里美の青白い頬にあたるたび白い粉が舞った。
「おいおい、何やってんだよ、里美」
 僕はかばんを置いて里美に詰め寄った。
「何、って……ファンデーションよ、悪い?」
「それは黒板消しだろ、お前大丈夫か?」
「あなたこそ大丈夫?歴史を消す道具だと思ってるの。これは基礎を創るものよ」
 はっ!?
 何かがおかしい。
 僕はまわりを見渡した。先ほどまで髪の毛をクルクル丸めていた敏子が何かを頬をぬっていた。よく見るとそれは赤のチョークだった。
「おい、敏子、何やってんだ!」
 僕が大声で叫ぶと、教室にいた5,6人が敏子を見た。それから敏子を含めたみんなが僕の方を宇宙人でも見るような目でのぞき込んできた。
「うざっ!チークよ」
 チークだと。
「それはチョークだろ!」
 敏子以外みんなの笑いが教室内に起こった。
「あなたこれを歴史を創るものだと思ってるんじゃないの。これは色を主張させるものよ」
 敏子はチョーク以上の赤で頬を染めて僕を睨みながら言った。
 貴志がクールに笑いながら僕に寄って来た。
「君、なかなかセンスがあるね」
「……」
「君、西京大学を目指すより、お笑い芸人を目指した方がいいのではあるまいか」
 貴志は、僕が敏子を馬鹿にしたと思って抗議しているのか、口元は笑えていなかった。
「僕は別に西大なんかに興味はないよ」
 僕はしょうがないので応えた。
「ははは。西京大学に興味がない、ははは。黒板はそんなに甘くない。一生踊らされてれていればいい」
 んんん
「おい、貴志、今なんて言った?」
「だから、一生踊らされる、って言ったのさ」
「いや、その前だ。黒板がどうのこうのって言わなかったか」
「悪いか?事実じゃないか。黒板は甘くない。君が黒板の中で与えられるスペースなんてほとんど無だな」
 黒板が甘くない、だと……
 狂ってる。こいつは狂ってる。いやこいつだけじゃない、みんな狂ってる。
 僕は、自分の席に座った。せみがギャーギャー騒いでいる。

 コンコンコンと香ばしい音を立てて白い文字が次から次へと黒板に築かれていった。黒板消しでサッと白い文字をなでると、白い文字は消えてなくなってしまった。なんとも悲しいことだが、いつかは消さなくてはならない。なぜなら黒板には制限があるからだ。
 白い文字はどこへ行ったのだろうか。黒板消しに、白い文字たちの生きた証は残っているのだろうか。黒板消しを二つ持って窓を開けた。そして、パンパンと黒板消し同士を叩いた。白い粉が舞った。その白い粉は風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまった。校庭に向かって散骨しているような気分になってしまう。その白い粉は校庭なんかには着地せず、どこかの黒板に再び登場することを願いたいが、実際はただ消えてなくなっているようにしか思えない……

 チャイムと同時に、里美が僕のことを見つめているのに気づいた。
「大丈夫?」
「あ、なんか考え事してた。ははは」
 里美の手にはファンデーションのケースが握られていた。
 前を向くと、いつの間にか担任が教壇に立っていた。担任の背後には僕が昨日磨き上げた黒板があった。しかし黒板は新品ではなく、明らかに何かが浸み込んでいるのであった。


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