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夏野夕暮さん

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桃太郎の子育て

17/08/14 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 夏野夕暮 閲覧数:321

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 鬼退治を終えた桃太郎。
 今、鬼の討伐よりも難しい難問に直面していた。それは……。
「桃太郎さん! 赤子をそんなに揺らしてはなりませぬ!」
「そ、そうか。すまない」
「桃太郎さん! 赤子には乳をやればいいのです! 勝手にきび団子を食べさせてはなりませぬと、あれほど申したでしょう!」
「いや、滋養になるかと思って」
「毒にしかなりませぬ!」
「はい……」
 勇猛果敢だった桃太郎も、子育てには四苦八苦していたのだった。

 鬼ヶ島での戦から、はや数年。
 桃太郎は、育ての親であるおじいさんとおばあさんの勧めで都に居を構えた。
 それからほどなくして一人の女性と結ばれ、子供が生まれた。
 桃太郎は生まれたばかりの赤ちゃんを溺愛した。しかし妻からは育児の仕方がなっていないと怒られてばかり。門外漢に子育ては難しく、気持ちが空回る一方なのだった。この日も妻からは「お子の面倒は私が見ますから、桃太郎さんは芝刈りにでも行っていてくださいませ」とつれなく言われてしまった。

 ある日、桃太郎は妻から質問を受けた。
「なぜそこまでお子を気にかけるのです?」
 この時代の男は、赤ちゃんの面倒など見ようともしないのが普通だった。桃太郎はその点、結果は伴っていないにせよ暇さえあれば自身の子供の世話をしようとしていた。
 桃太郎が問いに答えようとした時、外から「桃太郎や〜い! 迎えに来たべ〜!」と言う二人の声がした。途端に桃太郎の顔が曇る。
 これは「自称桃太郎の両親」だ。桃太郎自身は、血の繋がりの無い赤の他人だと見て無視を決め込んでいる。しかし何度も何度もこうしてやってきては騒ぎ立てるのだ。桃太郎にとって、悩みの種だった。
「また来たか、あやつらめ……。僕の名前を使って銭稼ぎでもするつもりか、はたまた金の無心にでも来たのか。下手に知恵が回る分、ああいう手合いは鬼よりもタチが悪い」
 いつもは穏やかな桃太郎だが、今回ばかりは言葉が荒かった。
「僕はね。自分の子供だけは、幸せに育ってほしいのだよ」
 妻はその言葉にハッとした。桃太郎の出自については、彼女も知っている。その「悲劇」についても。
 桃太郎は生まれたばかりの時分に、深い心の傷を負った。それが原因で、今も「暗くて狭い場所」には居られないのだ。

 桃太郎の赤ちゃんはすくすくと育ち、一歳の誕生日を迎えた。それを祝うため、桃太郎はおじいさんとおばあさんを呼んで、宴を開くことにした。
 普段は質素倹約に務めていた桃太郎だったが、この時だけは贅を尽くしたご馳走を用意して舌鼓を打った。
 こうして宴もたけなわといった雰囲気に差し掛かったところで、またしても「桃太郎の両親」を名乗る二人の人物が現れた。いつもだったら家の外で喚き散らすだけなのだが、今回は不躾にも堂々と中へと入ってきた。
「会いたかったよう桃太郎。ささ、オラたちと帰るべよ」
 わざとらしいえびす顔を作って桃太郎を懐柔しようとする二人。
 桃太郎は立ち上がり、怒りとも憐れみとも知れぬ顔をしたまま言った。
「あなたたちは、暗くて狭い場所に何日も閉じこめられたことがありますか? お腹を空かせて泣き喚いても誰も助けてくれない、そんな恐怖を知っていますか?」
「な、なんの話をしているんだい桃太郎や?」
「あなた方が僕の本当の両親ならば知っているはずです。生まれたばかりの僕を、大きな桃の中に閉じ込めて川に流したことを」
 おじいさんとおばあさんに助けられるまで、桃太郎は桃の中で必死に恐怖と戦っていたのだ。その時のおぞましい記憶は、今も忘れることが出来ない。
「僕は実の両親を恨んでいます。出会いたいなどとは一度たりとも思ったことはありません」
「何を言うんだい桃太郎! オラたちがこうして迎えに来たというのに」
「……これ以上、言わねば分からぬ愚鈍か?」
 桃太郎の目には、殺気さえ漲っていた。
「生まれたばかりの幼子を! 桃の中に閉じこめて川に流すような鬼畜外道が! まともな両親なわけあるまいが!」
 桃太郎が一喝すると、自称両親は怯えて逃げ帰ってしまった。
 桃太郎は皆に向かって「せっかくの宴に水を差してしまい申し訳ありません」と侘びた。
「生みの親など、どうでもいいのです。僕にとっての両親は、今も昔もおじいさんとおばあさんのお二人だけですよ」
 桃太郎はそう言った。


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