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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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この行為に未来はない

17/08/13 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:252

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 隣の部屋から、唸り声がする。私を呼ぶ、音。
「はいはーい、今行くよー」
 声だけかける。
 ああ、面倒くさい。行きたくない。
 そう思いながら、ガスを止めて部屋に向かう。
 ドアをあけると枕が飛んできた。うぜぇ。
 仕方なくそれを拾うと、投げ返した。ベッドの上の人影に当たったが、投げたのはそっちだ。知ったこっちゃない。
 ベッドの上で、祖父がわけのわからないことを言っていた。聞き取れない。というか、聞く気がない。
 「あー、はいはい、オムツね」
 適当に声をかけると、オムツを替える。
 祖父は何かを喚いているが、私の耳には届かない。どうせ、ロクでもないことだ。
 人間は年をとると、最期には赤ん坊に戻るという。ならば、言葉も奪っておいてくれればいいのに。私は祖父の罵詈雑言など聞きたくない。
 一年半前に寝たきりになった祖父。誰もがその世話を嫌がった。祖父は偏屈で、声ばかり大きく、文句ばかり言い、とにかく嫌われる要件を満たしていたから。
 それを、
「じゃあ、いいよ。私が面倒見るから」
 と言って引き受けたのは、たまたま仕事を辞めて暇だったから。それから、祖父が嫌いだったから。

 人間は、年をとる赤ん坊に戻るという。だから私がやっている行為は、介護ではない。育児だ。だから、わけのわからぬ呻き声を無視し、状態だけで要求を判断する。育児だと思えば、オムツ替えも苦ではない。
「それじゃあ、今日のお話は何にしましょうか」
 祖父が動けないのをいいことに、昼と夜にオハナシをするのが私の日課だ。祖父は聞かざるを得ない。耳はまだまだ良い。
 新聞やニュースサイトなどを漁り、偏屈な老人が孤独死した話をする。
「そう考えると、おじいちゃんはいいよねぇー。うちのお父さんとか、おばちゃんが小さいころは躾と称して虐待していたり、浮気三昧だったり、うちのお母さんが離婚しちゃうぐらいいじめたり、会社の人だって今でいうパワハラで辞めさせて自殺までさせたようなクズなのに、こうやって私に面倒見てもらえるんだもん。感謝しないとねぇ」
 いつもそう言って話を締めくくる。
 祖父は怒ったような顔で何かを言っているが、私は無視をする。だって、
「私の話をずぅっと無視していた人が、今更自分の話を聞いてもらおうだなんて、虫が良すぎると思わない?」
 私がやっていることは介護ではない。育児だ。
「私はね、おじいちゃん。あなたのためを思ってやっているの。今までずっと人に迷惑をかけて、お金だって十分にはおばあちゃんに渡さないでATMとしてもロクに機能していなかったおじいちゃん。このまま死んだらどうなると思う? 地獄に落ちるでしょう? 私、おじいちゃんには殴られたし、おでこの傷は未だに治ってないし、嫌いどころか恨んでいるけれども、身内が地獄に落ちるのは困るから。だから、おじいちゃんに道理を教えてあげてるの。これはね、躾だよ。教育だよ」
 ベッドサイドで微笑む。
 祖父は何かを言っている。
「あなたは罪深いの。クズなの。生きている価値もないの。それをまずは認めて。話はそれからだから」
 祖父が死ぬまでの間、祖父の面倒を見る。これは介護ではない、育児だ。祖父が地獄に落ちないように、働きかけているのだ。
 生活費は多く、親族からもらっている。親族は皆、私に感謝している。当の祖父以外。
 そして私は、祖父にこうやって話しかけることで、積年の恨みを果たしている。満足だ。
 私がやっていることは介護ではない。育児だ。だけど、本当の育児と違って、私のこの行為には、未来がない。


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