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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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いつか二つ転がる

17/08/10 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:843

時空モノガタリからの選評

人間関係、特に親子関係と言うのは、なんとも難しいものですね。自覚なしにいつの間にか依存してしまったり、互いに傷つけ合っていたり…。おそらく、この親子も自覚のないまま、長い時間をかけ徐々にこのような依存的関係を築き上げてしまったのでしょう。この主人公が、自分自身を親の失敗作と自嘲する行が印象的でした。確かに親を批判したところで、大抵は親と似たような欠点を自分自身も持ち合わせているものですね。だからこそ余計に憎悪が生まれるという悪循環にはまりがちなわけで、そこが普通の人間関係よりも難しいところなのでしょう。お金を送り続け、娘に依存するこの母にどうやって対処するかは難しいところですよね。人生の出発点であり、切っても切れない親子の関係ならではの難しさを感じさせられました。

時空モノガタリK

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 あなた方は失敗したのです。それを認めてどうか傲慢な姉をこの家から追い出して下さい。

「お姉ちゃんはいつになったら働くの?」
 ――と、何度か繰り返してきた問いを両親にぶつける。二人はいつもと同じ答えを返した。
「あの子にもペースがあるから」
「もう何年も働いていないよね」
 詰め寄っても父母は困ったように微笑むばかり。
 歳の離れた姉妹だった。私が中学生の時に姉は就職をし、その半年後には会社を辞めた。心が折れるような出来事があったわけではない。美しい姉は、人付き合いも勉強も職場の業務でも、何においても優秀な人だった。自分の希望だけを通し続けてきた姉は、社会というものが単に「気に食わなかった」のだ。
 そしてそれからずっと両親に寄生して身勝手に生きている。母の作る料理を「不味い」とひっくり返し、父の渡す小遣いに「少ない」と文句を言って買い物をする、そんな毎日だ。
 小遣いや食事など与えるからいけない――と私は訴えた。そもそも家に住まわせなければ良い。けれど、たやすく激昂しガラスを叩き割る姉に、両親は逆らうという意思を奪われていた。
 二人は姉の育児に――子育てに失敗したのだ。だからあんな人間が出来上がった。

 私が就職を機に家を出て十年ほどになる。出逢いがあって結婚もした。父母は年金で暮らすようになっていた。
 姉の寄生はいつまで続くのかと悩み続けていたある日、父が死んだ。
 涙に暮れる中、これはチャンスだ――というどこか冷静な声が頭に響いた。
「お母さん。お父さんのいない家は寂しいでしょう? うちで一緒に暮らさない?」
 もうすぐ子供も産まれるのよ、と悲しむ母を慰める。母は悩んでいたが最後には頷いて私と夫の家で暮らしてくれることになった。
 これで姉は一人だ。寄生する相手も用意される食事もない家で、ゴミに埋もれて好きなように生きればいい。
 私はようやく、母を姉の支配から救う事が出来たのだと喜んだ。縛り付けられていた母を私の手で大切にしてあげられるのだと。

「お母さん、一緒に買い物に行こっか」
 私は母を定期的に食事や観劇などに誘った。あの家を出てから母が塞ぎがちであったからだ。
「うん……でもねぇ、私はいいよ」
「じゃあ、外食しよう?」
「私はいいよ。……ねぇ、あの子はちゃんと食べてるかしら?」
 母は不安そうな顔で私の手を掴んで揺する。
「心配で仕方ないんだよ。あの子はお母さんがいないと何もできないから。ねぇ、様子を見に行ってもいいかい?」
 必死に訴える母に「……いいよ」と答える事しかできなかった。

 足が弱ってきた母に付き添い、実家までの道を歩く。
 姉は私達の顔を見るなり、ちっと舌打ちをして見下すような視線を寄越した。
「何か用?」
 その足元にはネットで購入したであろうものがいくつも転がっている。その新しさと数の多さに、殴られたようなショックを受けた。
 母は姉にお金を送っている――!
「まあまあ、痩せちゃって。ちゃんと食べてるの?」
 裏切られた思いで倒れそうな私とは裏腹に、母は嬉しそうに姉に手を伸ばす。
「触んなよ」
「ご、ごめんね。久しぶりにごはん作ってあげようね。コンビニばかりじゃ駄目だよ」
 床に転がる弁当の空容器をどかし、母はおぼつかない足取りで、それでもいそいそと台所へ向かった。
 そして出来上がった食事を三人で囲んだ。
 姉が「魚は嫌いだって何度もさぁ」と言うと、母はびくりとして「ごめんなさい」と侘びる。それでいながら、お風呂を沸かしておいて、汚いから掃除もして、という姉の命令にはいちいち嬉しそうに頷くのだ。
 私と暮らしている時よりずっと楽しそうだ。
 母と共に暮らした数ヶ月。虐げられていた母を守れた、安息を与えることができたのだという気持ちが独りよがりであった事を思い知る。
 ――なんだ、幸せそうじゃないか。
 自嘲の笑いさえ込み上げてくる。母は私を見ていない。
 ……ああ、もう本当に――嫌だ。
「私、帰るね」
 言い置いて立ち上がる。母が何か言いたそうに見てくるので、にっこりと微笑んであげた。
「ここで暮らしたいなら、いいよ」
 そう言うと、母は心底ほっとしたような顔をしたのだった。

 両親は子供を育てる事に失敗した。
 それは姉だけでなく、私という娘に対しても。
 あの二人を見捨てる事に何の躊躇いもない、そんな娘に育ったのだから。
 腹を撫でる。私は決して育児に失敗などしない。産まれてくる子が私や姉のような人間にならないよう、正しく育ててやるのだ。
 歩き出した道を立ち止まり、家を振り返った。
 ――私はもうこの家には来ない。二度と連絡を取りたくもないし仕送りもしない。金などすぐに尽きるだろう。

 それでいつかこの家に二つの死体が転がる事になるのだとしても、私はもう構わない。


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このストーリーに関するコメント

17/08/21 冬垣ひなた

待井小雨さん、拝読しました。

子育ての成功や失敗というのは、何処で判断するかは難しい所です。この親子は主人公と違い、今まで自分の生きてきた結果に自信もなく、将来を見るのが怖いから、親離れ子離れしないのかもしれませんね。家族には愛が必要です、しかし愛だけでは人は育たないという真理、子育ての意味を深く考えました。

17/08/22 沓屋南実

まともでない姉。まともでない両親。姉の一方的な依存ではなく、母のほうも依存していたのですね。

妹は、これからの人生をしっかりやっていこうとしています。ふたりを抱えるには大変すぎます。
しっかり妹から見限られれば、姉も母も何とかしようとするでしょう。身内には、できないことだと思います。

17/08/27 待井小雨

冬垣ひなた 様
お読みいただきありがとうございます。
何をもって子育ての成功とするのか、失敗とするのか。現実には決められないことだと思います。
主人公にとっては、姉も自分も子育ての失敗ゆえに「こう」なってしまいました。
読後感の良くない話となってしまいましたが、ご感想をいただき嬉しく思います。

沓屋南実 様
お読みいただきありがとうございます。
主人公が見限ることによりふたりがどうなるのか……主人公の思う通り死体が転がる結末となるのか、沓屋様の仰るように何とかしていくのか。
「育児の失敗」というテーマで考えたので明るい未来を思い描きづらくはありますが、沓屋様の仰る通り、何とかしていく未来もあるのかもしれない、と改めて考えました。

17/09/25 光石七

遅ればせながら、入賞おめでとうございます!
拝読しました。
経済面や身の回りのことを親に依存する我儘な姉、そんな姉に精神的に依存する母。歪なのに深く噛み合い回っている歯車は、なかなか止めるのが難しいのでしょう。
お金が尽きた時、二人はどうなるのか…… 願わくば、前向きな方向転換で歪な関係に終止符を打てればいいのですが。
母が姉しか見ていないことに気付いた主人公が、二人を見限る自分を自嘲する主人公が哀しいです。
いい意味で心がざらつく、ズシリと残るものがある、素晴らしい作品でした!

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