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ちりぬるをさん

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王国に花火が打ち上がり、彼女の願いは……

17/08/10 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 ちりぬるを 閲覧数:187

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 リカとナナコが友達の範疇を超えて仲が良いのは恐らくクラス中が知っていた。なにを言われても二人共否定しないので、その噂は夏休みが始まる前には学校の生徒が知るところとなっていた。だから蝉の声がうるさい夏期講習の教室で背中に丸めた紙を投げつけられた時も、どうせいつもの嫌がらせだろうとナナコは思っていた。
無視していると次に消しゴムの欠片が背中に当たり、あまりにしつこいので振り返ると二つ後ろの席にニヤニヤと笑うリカの姿を見つけた。

 ナナコはリカほど必死に勉強しなければならないような成績ではなかったが、それでも暑い中夏期講習に通っているのは他ならぬリカに会うためだった。
「あんな紙投げなくてもいつも通り集合するのに」
「たまにはいいじゃない。授業も退屈だったし」
 講習が終わると旧校舎の空き教室に集まり、昼ごはんを食べて夕方までおしゃべりをして過ごすのがこの夏の定番だった。この日もコンビニで買ってきた冷やし中華を二人で食べて、黒板に落書きをしながらたわいも無い会話をしていた。
 ねえ、と振り返るリカのポニーテールが揺れる。「今日花火大会だよ」そう言いながら 黒板に花火大会と大きく書くリカの後ろ姿をナナコは複雑な顔で見つめていた。ポニーテールから時折覗くうなじが汗で光るのをナナコは綺麗だと思った。
「やっぱ一緒に行けない?」
「ごめん」
 ナナコの家は地元の名家だ。当然しつけも厳しく、花火大会どころか余計な外出さえも禁止されていた。リカは不満げに頬を膨らませる。
「今年は勉強頑張ろうよ 同じ高校行くんでしょ?」
 ナナコがそう言うとリカはいっそう大きく頬を膨らませて不満を露わにする。
「王国まで来て勉強の話しなくたっていいじゃない」
 滅多に人が通らない、通ったとしても足音が響くせいですぐに隠れられるこの教室を二人は「王国」と呼んでいて、リカの言う通りここでは勉強や家庭の話はしない決まりになっていた。外の嫌なことを全て忘れるための都合の良い王国、他人から白い目で見られる二人が唯一気兼ねなく一緒に居られる王国がこの教室だった。
「ごめんね、リカ」
 ナナコはリカに並んで意味もない落書きをし始めた。その途端チョークを持つナナコの腕にリカの腕が回される。健康的に日焼けしたリカの小麦色の腕に比べて、ナナコは自分の青白い肌が嫌いだった。一度それをリカに言うと「私は好きだよ。ナナコみたい綺麗な肌になりたい」そう言ってリカはナナコの腕をいとおしそうに指でなぞっていた。
「ないもの……ねだり?」リカの書いた花火大会の文字の少し下、その半分ほどの大きさでナナコの書いた文字をリカは声に出して読んだ。
「そう、私達はきっとお互いにないものねだりをしてるんだと思うの」
 リカが首を傾げる。吹奏楽部の練習が始まった。夏休みになって毎日演奏されている、二人がこの王国の国歌にしようと決めた曲が聞こえる。
「私はリカみたいになりたい」
「でも私はナナコみたいになりたいとは思ってないよ?」
 ナナコから離れながらリカが言った。何かを思いついたのか、彼女は両手いっぱいにチョークを集めだした。
「だってナナコは自分のこと嫌いでしょ? だからナナコみたいになったらナナコに嫌われちゃうじゃん」
 集めたチョークを黒板の真ん中の前に置き、リカはそう言って笑顔を見せた。
 思わずリカから目を逸らしたナナコの後ろの窓からぬるい風が吹きこみカーテンを揺らす。振り向くと、それで出来た隙間から大きな入道雲が見えた。あの雲が夕立を降らせればいい。ナナコはそう思った。そうすれば雨宿りを言い訳にもう少しリカと一緒にいられる。
「ナナコ、ここに座って」
 リカに誘導されるままナナコは一番前の机の上に座った。
「見ててね」チョークを両手に持ったリカが黒板の前にしゃがみ込んだ。教卓に隠れたリカの様子を探ろうとナナコが身を乗り出す前に「ひゅうーー」と口笛にも似た声を出しながらリカがゆっくりと立ち上がる。彼女の両手が黒板の中心に来た時、「ばーーーん」と大声を上げながら手に持ったチョークを放射状に動かし黒板を白、黄色、赤に染めていく。
 ナナコがさっき書いた「ないものねだり」の文字を赤いチョークが塗りつぶし始めた時、リカが花火を描いているのだとナナコにも分かった。「ズルい!」と立ち上がりリカの花火の隣に放射状の線を描いていく。
 途中からはもう線はめちゃくちゃになり、最後には笑い転げてそのまま二人で床に寝そべった。

 遠くに聞こえる吹奏楽部の演奏を裂くように、降り出した夕立が音を立てて窓ガラスを叩き始める。寝転ぶナナコの手を握ったリカの唇が小さく動いたが、雨音に邪魔されてナナコの耳には届かなかった。


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