1. トップページ
  2. 黒板の本当の意味

ふわふわひかるさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

黒板の本当の意味

17/08/09 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 ふわふわひかる 閲覧数:223

この作品を評価する

白いキャンバスを真っ黒な絵の具で塗りつぶしたような夜。
先程まで多くの生徒が日常を過ごしていた教室は夜になるとそんな作ったような黒色になる。
俺は生徒が1人も残っていない暗い教室で1人立ち尽くしている。
まるで暗闇の海面を漂うカモメのようだ。
俺は十数年も前に先生が言った言葉を思い出していた。


「黒板ってね、虚空板っていう戦前使っていた言葉が変化したものなの。
黒板自体はアメリカから輸入されてたんだけど、ブラックボードを誤訳したのね。」

俺は内心この先生が好きでは無かった。
昔学校の帰り道で男と抱き合っているのを見たからだ。
先生の旦那は同じ学校の体育教師だったので、これがいけないことなんだろうとは子どもながらに分かった。
静まり返った夜の教室で先生が続ける。

「昔この学校のある教室で子どもが消える事件があったの。怖いでしょ。
 あら、怖くない?じゃあ補足するとね、授業中に突然消えちゃったの。
 授業前の点呼にも居たし隣の席の子も居たっていうの。」

俺は小学生ながらも馬鹿馬鹿しい三流の怪談話だと思った。
今じゃ考えられないが、戦後直ぐの田舎のひと昔の学校では夜に先生と生徒が集まって肝試しなどしたものだ。
親が居なく痴呆の始まったばあちゃんと2人暮らしだった俺にはいい暇つぶしになっていたが。
怖がらない俺に気づいてか気づかずか先生が続ける。

「これね、実話なのよ。この学校の七不思議で皆も少しは聞いたことがあるかもしれないけど。
 私がここに赴任して初めて担任を持った時の話でね。
 でも警察も来なかったし、保護者会も開かれなかったの。」

そこで当時の俺は初めて不気味だな、と思った。
なんせ子どもが1人消えているのに警察も保護者も騒がない。
これは異常だ。
背中に寒気を感じながら誰かの視線を感じた気がした。
小さな声で何か聞こえた気がした「それは..なんとかかんとか」
しかし遮る声にかき消された。

「どうして誰も探さないんだよ。」

家が近い割には遊んだ事のない藤田。
こいつはいつも空気が読めない。
そういう性格が好きになれず昔小競り合いになりプールの時間に足を引っ張って溺れさせたことがある。
空気の読めない藤田、とは思っていたものの少し悪いなと感じていた。

先生はニッコリ笑いながら答えた。

「さっき黒板の話をしたでしょう?その黒板に秘密があるの。今でも実はとある教室の中にあるんだけど見てみる?」

20人は集まっていた生徒達が少しためらったのが空気で分かったが、誰ともなしに行こうと相成った。

「ここよ。」

今は使われていない教室。
昔、まだまだ生徒数が多く教室が足りないくらいの時に使われていた場所だ。
普段は施錠されていて入れないのだが先生が何のことはなく鍵を使って開けた。
教室の空気が埃っぽいのが分かる。

先生が黒板の前に立ちまた話し始めた。
「さっき黒板は虚空板って言われてたって教えたでしょ?
 虚空っていうのはね、空っぽで何も無いってことなの。
 まあ真っ黒で真っ暗闇も虚空ってことになるわね。」

ある生徒が言った。
「さっきの居なくなった男の子は何処に行ったのー?」
夏希だ。
こいつも小うるさくて昔ケンカになり、突き飛ばした拍子に階段を踏み外して
転げ落としたことがある。
理屈やでコテでも動かないうるさい夏希、とは内心小バカにしていたが少し悪いなと思っていた。

先生がまたニッコリ笑い、話を続けた。
「警察も誰も探さないって言ったじゃない?
 実はね。 最初からその子は居なかったの。最初はあいつが居ないとか、どうして人数が足りないのか
 なんて騒いでたんだけど、誰がいないのかって言われると誰も答えることが出来なかったの。
 それで昔の先生達が悪いことしたら黒板に吸い込まれちゃうよ、っていう話がこの学校の七不思議になったのよ。」

先生はそう言いながら俺の腕を掴んでねじ伏せ、力一杯に鈍器で俺の頭を殴った。

空気を自分で吸うことも出来なくなった藤田。
靴も履けず手も動かず話すこともできなくなった夏希。
車椅子の彼らと目があった気がした。

後頭部に強い衝撃が走り頭から暖かい血が流れてくるのを感じた。
感じたこともない激痛の中見たものは、黒板に飛び散る血。
薄れ行く景色の中聞いた言葉は先生の冷たい声だった。

「このクラスに私達以外誰か居た?」

生徒は誰一人首を縦に振らなかったように思う。

さまよう意識の中で。
虚空の暗闇の中で俺は小さく叫んだ。

「それは俺だ」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン