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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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明日からも

17/08/08 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:0件 瀧上ルーシー 閲覧数:200

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 呼ばれることは呼ばれていたが、卒業式の後の打ち上げには参加しないで適当に時間を潰してから高校に戻ってきた。今日卒業した三年生の教室は全部で五クラスあって、そのすべてを俺は観に行った。学校独自の臭い、それとは別に精神的な部分で感じる雰囲気。今日は特別な日だった。これから俺達は別々の道を歩いて行く。いつもは見るのも嫌だったが、この日だけは黒板を観るのが楽しかった。
 クラスの卒業生全員の似顔絵がチョークで書かれている黒板、黒板いっぱいに描かれたピンクの桜と飾り文字、人気の漫画のキャラクターが描かれている黒板、全員の寄せ書きが書かれた黒板、カップル達を祝福する相合い傘が描かれている黒板……皆、卒業生達が最後に学校に残していった授業が始まればすぐに消される置き土産だ。俺はスマートフォンのカメラで、すべての黒板を撮った。
 今までは理由もなく学校に行けば仲間達に会えたが、明日からはそうではない。特別、仲が良かった友達とはこれからも会うだろうが、新しい友達との付き合いに忙しくて、今までと同じようには頻繁には会えないだろう。
 悲しかった。ちょっと前に仲間達とゲームセンターで撮ったプリクラには「永遠に友達」と書かれていたが永遠などない。それは悲しいが事実だった。
 皆、誰かしらと別れていく。誰もがこれからは職場の仲間や大学での友人と会うのを優先する。俺も来年度からは新しい仲間と話すことが増えるだろう。今の友達とはきっと会っても週一か週二くらいでしか会わなくなる。一つの時代の終焉だった。それでも俺や仲間達は進んでいくしかない。
 寂しくて悲しくて春休みだけは嬉しくて、俺の頭の中はぐちゃぐちゃになった。何を思ったか俺は卒業した三年生達の教室がある二階から三階に上がって、二年生の何も書かれていない綺麗な黒板に幼稚なことを沢山書いていった。
「童貞は卒業したかね? 俺達はここを卒業だ」そんな言葉と共に、即興で天使や悪魔の絵も描いた。十分もかけないで黒板をぐちゃぐちゃにすると、俺は隣の教室に行った。
「勉強はつまらないかい? 社会に出ればもっと厳しいんだぞ」などと上から目線の言葉も書く。そうでもしないとやっていられないのだ。今度は有名なマスコットキャラの絵を描こうとしたのだが、絵心がないのか、気づくと自分でも何を描いたかわからない半分動物半分人間の絵が白いチョークで黒板に描かれていた。
 今日は卒業式で部活動も休みだから、誰にも邪魔されないで、二年生と一年生の教室の黒板を汚していった。俺は親友と別々の道を行く。それがとくに悲しかった。スマートフォンから頻繁に音が鳴っていたが、そんなことは無視して誰も居ない校舎を回った。一人で黒板に字や絵を描いても全然楽しくなかった。いつしか俺の頬を涙が伝っていた。
 黒板にはもう執着しないで、階段を上り屋上に出た。空は夕焼けていた。黄昏時だ。オレンジ色の光が街を包む。よくある水色のプラスチック製のベンチに俺は寝っ転がり、片腕で目元を覆った。涙を隠すのだ。それでも俺の口からは嗚咽が漏れ出していた。
 もうすぐ夕焼けが終わるという頃、俺の他に屋上に人が入ってきた。まだ目を腕で覆っているので確かではないが、複数名の足音が聞えてきた。
 何者かはまず、バーカ! と叫んだ。聞き慣れた男の声だ。
「電話くらい出ろよ、留年クン」
 そう言われても俺は何も言い返せなかった。今喋ればきっと涙声になる。その男は俺の親友だった。他にも十名近くの私服を着た男女が屋上に雪崩れ込んでくる。
 一人の元クラスメイトの女は俺の名前を呼んで、「留年してもわたしたちは一緒だから。あまりこれからを悲観的に思わないで」と優しい声で言った。
 そう、俺は高校を卒業できなかったのだ。春休みが終わればまた高校三年生として過ごす生活が始まる。だから卒業する友達に打ち上げに誘われても、何故だか申し訳ないような気分になって断ったのだ。
 いつしか元クラスメイト達は、仰げば尊しを暗くなりそうな空に向かって歌い始めた。
 俺の目からはさらに涙が溢れてきた。
「卒業生同士勝手によろしくやってろよ! バカ、バーカ!」
 俺が泣きながらそう言うと、クラスメイト達は俺を取り囲んだ。
「こいつを胴上げだ」
「やめろ、やめろよ!」
 俺の抵抗は虚しく、身体を空に投げられた。
 仲間達は「留年ワッショイ! 友達ワッショイ!」などと言いながら、何度も俺を空に投げた。
 俺はきっと泣き笑いの顔をしている。仲間達に言った。
「一生友達なんだからな! 大学の文化祭には誘えよな! ナンパにも誘えよな!」
 胴上げされながらそう言うと、親友が言った。
「泣き虫ワッショイ」
「……うるせえよ」
 悲観的になるのはもうやめよう。俺達はずっと仲間だ。いつしか涙は嬉しいから分泌される水滴にかわっていた。


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