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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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見えたり見えなかったりするもの、なーんだ?

17/08/05 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:7件 ちほ 閲覧数:253

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 僕らは中学3年生で、あと10日もすれば卒業する。期末テストも高校入試も無事に終わり、眠たくなりそうな優しい時間に包まれていた。クラスメートと共にいられる大切な時間を誰もが楽しく過ごしていた。もう授業はない。卒業も近く、飛び飛びに休みが入っている。家でのんびりしてもいいのだが、誰もが友だちとのお喋りを楽しみに登校していた。ここでいう『友だち』は『クラスメート全員』のことだ。46人のクラスメートはみんな仲が良く、諍いは一度もなかった。そんな奇跡的なクラスで、おかしな事件が起こった。ぼくは一生忘れられそうにない。他のみんなもそうだろう。
 ある朝のこと。登校してみると、黒板に四角張った文字がびっしりと書き込まれていて、クラスメートは全員ギョッとした。
「えー……と、小説?」「題名は『消えたのは誰?』で……もしかしてミステリー?」「作者のサインは?」「ないよ。書かれてない」「ふぅーん? 連載のようだな?」   
  誰かの悪戯だろうが、こんな悪戯なら大歓迎である。みんな本気で読み始めた。

『35人の20代の男女が、ある山奥の小学校に泊まる。それは別におかしなことではなく、村おこしの一環で、使われなくなった小学校でお泊りを体験してみませんか、というイベントだ。まず彼らは、小学校の中を探検してみた。机も椅子も学級文庫も昔のまま。黒板の隅には誰かのイタズラ書きも残っている。
──見えたり見えなかったりするもの、なーんだ?──』

  朝になると、黒板の小説はすっかり更新されていた。また、黒板いっぱいに書き込まれている。誰もがはじめは興奮していたが、気持ちを落ち着かせて真剣に続きを読みはじめた。そして、意見をぶつけ合った。

『朝食の時、35人いた。校庭でバレーボールをして、昼食の時に改めて数えたら34人になっていた。慌てて名簿と照らし合わせたら、35人いた。その後も気になって何度も確認するが、確認するたびに人数が1人分だけ合わない。誰かが幽霊だと叫び、パニックになる。黒板のイタズラ書きも、いつのまにか消えていた』

「ホラーミステリーだね」「幽霊だと思うのが一番納得いきそうだ」
 小説は、毎朝更新されていく。そして10日目の朝。題名の横に『最終回』と書かれてあったので、みんなドキドキしながら読んでいった。最後の文章は、次のとおりである。

『〜そうして1人は永遠に消えたのだ』

 スリルはあったが、謎はそのままで終わってしまっている。文句を言う者もあったし暇つぶしになったから別にいいじゃん? という者もいた。
「なぁ、どう思う?」聞かれたので、「下手なミステリー。今まで書いたことなかったんじゃないかな?」と僕は答えた。「そう思うけど、なんかズシンときた」「うん、胸の奥がね」誰かが「数えてみないか?」と言った。「何を?」「このクラスの人数」みんな無口になる。目だけでお互いを探っていたが、本当に数えてみることになった。
結果は、45人。そこで、何度も数えることになったのだが……何度数えても、45人。「1人消えた……」と茉莉という女子が呟く。彼女は机に置いていた小さな花束を胸に抱くと、「行ってきます」とそっと言い、呆然としているクラスメートをそのままにして教室を出て行った。彼女が何処へ行ったのか誰も知らない。そして、彼女も永遠に消えてしまった。
    ◇
「尚也、寝ているの?」
 母さんの声がきこえる。長いフライトで、僕はうつらうつらしていたようだ。
「あなたがさっきまで書いていた小説読んだけど、妙な話ね?」
「回想録だよ。最後以外は」
「あなた、あの子のこと好きだったの? ほら、空港まで見送りに来て花束くれた子」
「茉莉?」

 黒板に小説を書き始めて9日目。早朝、黒板に昨日の続きを書いていたら、彼女が教室に入ってきた。二人とも凍りついた。でも、お互い何も言わなかった。僕が書き終わると、彼女は顔を伏せてポツリと言った。「誰にも言わないから」秘密を盾に脅すような子でもないので、こちらから事情を話した。

「何を話したの?」「影が薄かった男子生徒のサプライズだとね。みんなに楽しんでほしかったし、怖がらせてやりたかった」……それに、嘲笑ってやりたかった。みんな仲良しだとクラスの誰もが思っていたようだけど、その中に僕の存在は含まれていなかった。僕がアメリカへ引っ越すことを知っているのは、先生と茉莉だけ。ミステリーなんて初めて書いた。全然謎解きになっていないけど。でも、満足してる。みんな、僕の作品を読んで必死になって謎を解こうとした。そして、僕は永遠に消えてしまうのだ。
「あと1時間もすれば空港に到着よ。あら、眠ってしまったの?」

──僕は、最後の最後は46人の内の1人になれたかな? ……そうだといいな。


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このストーリーに関するコメント

17/08/21 トツナン

拝読しました。
誰もいない早朝の教室で、一心に黒板に向かう『僕』の表情を妄想しました。『みんなに楽しんでほしかったし、怖がらせてやりたかった」……それに、嘲笑ってやりたかった』。そう言いながらも、彼が誰かを小ばかにするように笑う画はどうしても似つかわしくなく思えました。いつ、誰が来るともわからない緊張感に指先が震えることもあったのではないか、と。だからこそ『9日目』になって『茉莉』に見つけられたことは彼にとっての救いだったのかもしれないとも……

17/08/21 トツナン

……あるいは彼が10日間の創作を達成できたのは、このクラスだったからこそなのかもしれないとも思いました。謎の黒板創作を目の当たりにしても、作者を突き止めて晒し挙げるようなことをせず、純粋に悪戯を楽しみ、意見をぶつけ合う。良き読者であろうとする姿勢に結束した何かを感じました。もし、数年、数十年が過ぎて、『僕』が本当のミステリー作家となったとき、『茉莉』から同窓会か何かに呼ばれ、みんながあの時のミステリーの謎解きを待っている、と伝えられたとしたら。『僕』はもうずっと前から46人の内の1人だったのだと強く感じるかもしれません。長々と失礼しました。

17/08/22 ちほ

トツテン様
読んでいただき、ありがとうございました。
「いじめる子がいて、いじめられる子がいる」という図は、どうしても小説にしたくありませんでした。
どこか希望の残る終わり方にしたかったのです。
でも、この優しい空気のクラスは実際に存在しました。彼らなら、どういう行動をとるかを想像してみたのです。
影の薄い主人公の夢、主人公を「みていた」少女一人、そしてクラスメート。
次に主人公が日本に帰ってきた時、彼らがそれぞれ成長していることを願っています。
大変ご丁寧なコメントをありがとうございました。

17/08/27 浅月庵

ちほ様
作品拝読させていただきました。

まず、設定がとても好みで引きこまれました。
自分もクラスの一員になったかのような構成
(勝手な思い込みかもしれませんが)で、
その謎を一緒に解き明かしてみたいと思いながら
読み進めました。

そして、謎が明かされた瞬間に、一気に物悲しさに
包まれて、ある種そのギャップが、物語の面白さを
引き出しているんだなと感じました。

素敵な作品をありがとうございます。

17/08/29 ちほ

浅月庵様
コメントをありがとうございました。
(どうなるかなー?)と読者様にドキドキしていただきたかったのです。
そう思いながら書いている私も、ドキドキしていました!
(こんなミステリーってアリかしら?)
(ホラーミステリーにしたいやー)とか。
(でも、本当にこれでいいのかしら?)と迷いながら書き上げました。
楽しく読んでいただけて、大変うれしかったです。
ありがとうございました。

17/10/09 光石七

遅ればせながら拝読しました。
影が薄かった男子生徒による10日間の黒板連載小説、サプライズ。
クラスの優しい空気と文体が相まって、じめっとした鬱屈さや悲壮感ではなく、さらりと爽やかな明るさ、希望が滲み出ているように思いました。
ラストの主人公の言葉に「大丈夫、君はちゃんとクラスの一員だよ」と言ってあげたくなりました。
素敵なお話をありがとうございます!

17/10/09 ちほ

光石七様
読んでいただきありがとうございました。
黒板に連載小説を書いてみることは、私のやってみたかったことの一つです。
話は膨らみ、ダーッと一気に書いてみたら優しいお話になっていました。
私も「もうクラスの一員だよ」と言ってあげたくなりました。
嬉しいコメントをありがとうございました。

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