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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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育代さん

17/08/04 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:7件 霜月秋介 閲覧数:714

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 俺は、とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない。このままではいずれ、我が子をアイツに殺されてしまう。

 三ヶ月前、私は妻と離婚した。俺が目玉焼きにマヨネーズをかけて食べていることが気に食わなかったらしい。そこから妻の不満が爆発し、妻は出て行った。息子・スバルが生まれて一年後のことだった。
 これからは俺が一人でスバルを育てていかなくてはならない。しかし仕事と育児の両立は難しい。頼りたい自分の両親は既に他界している。そこで俺は、ネットのショッピングサイトで見つけた育児ロボットを、思い切って購入した。百万円した。

『ハジメマシテ、ワタシ、育代デス』
 育児ロボット『育代さん』が家に届いた。見た目は人間とさほど変わらない、アンドロイドに近い。説明書に寄れば育代さんには育児に関するあらゆる情報がインプットされていて、子供のあらゆる状態に対し臨機応変に対応できるらしい。これで俺は育児のことを気にせず、仕事に集中できる。
 しかし、そう思ったのも束の間だった。
 試しに育代さんにスバルをを抱かせてみると、スバルは思い切り泣き出した。そして育代さんがどうやってスバルを泣きやませるかを、俺は興味本位で見ていた。すると育代さんは、泣き止まないスバルを持ち上げて、こう言い放った。
『育代必殺・タカイ…タカーイ!!!』
 突然、スバルを掴む育代さんの腕が凄まじい勢いで上に伸び、天井を突き破った。
「ぅわあああああ!!」
 俺は慌てて外に出て上を見上げた。育代さんの腕が、気が遠くなるほどの高さまで伸びている。
『トリアエズ、スカイツリーノ高サマデ、持チアゲテミマシタ』
「取りあえずじゃねぇよ!早くおろせ!手が滑って落ちたらそれこそ他界しちまうぞ!!」
『イマ、オロシマス』
 するとまたしても凄まじい勢いで、育代さんの腕は上から戻ってきた。スバルは先ほどよりも更に泣き叫んでいた。
「さっきより余計泣き叫んでるじゃねぇか!」
『心配御無用。既ニ次ノ手段ハ考エテマス。ネンネンコロリヨ、オコロリヨ。ネンネンコロリヨ、オコロリヨ』
 育代さんは、子守唄を歌い始めた。終始棒読みだったが、スバルは一気に眠りだした。
「おぉ、すげぇじゃねぇか。あっという間に眠りだしたぜ。あの下手くそな子守唄で。ていうか、俺まで眠くなってきたぞ」
『ワタシノ口カラ、催眠ガスヲ漂ワセテイマス。コレナラドンナ相手デモ、イチコロデス』
「子守唄関係ねぇじゃねぇか!子供になんてもの嗅がせてんだよ!!」
『ワタシノヤリ方ニ、ケチヲツケルツモリデスカ…?ワタシノ子育テノ、邪魔ヲシヨウッテ言ウノデスカ?貴様…』
「え?お、おい…」
 育代さんの態度が急変した。そして育代さんの右手は日本刀へと変化し、左手はマシンガンへと変化した。
『ワタシノ子育テヲ邪魔スル奴ハ、消シマス。コノ子ハ、ワタシガ守ル!例エ命ヲ賭ケテデモ!』
「わ、わかった。わかったから、その物騒なものを早く収めろ、な!」

 俺は、とんでもないものを買ってしまったのかもしれない。この育代さんに逆らったら俺は殺される。育代さんのバッテリーが切れそうになるたび、育代さんの両手が再び武器になり、『充電シロ!充電シロ!!サモナクバ貴様ト刺シ違エテ共ニ逝クゾ!!』と充電を求めて俺に襲い掛かってくるのだ。俺は二十メートル程の延長コードを使って、育代さんをコンセントに繋いだままにした。これで育代さんが充電を求めて俺に襲い掛かってくることはない。
 しかしその後も、育子さんによる手荒い育児は続いた。英才教育だと言って官能小説を読み聞かせたり、麻雀のパイを舐めさせたりしていた。俺はやめさせたかったが、逆らうとまた育代さんの両手が武器になる。スバルの成長が心配だが、俺にはどうすることもできなかった。

『子供ハ、外デ遊バセル事モ大切デスヨ』
 ある日、スバルを連れて育子さんと山へハイキングへ行った。俺はその時気が付いた。隙を見て育子を崖から突き落とせばいいと。所詮ロボットだ。人を殺める訳ではない。これで日々の悩みが解消されるなら…。
 山に入って一時間ほど経ったときだ。突然、激しい雨が降ってきた。偶然近くに洞窟があるのを見つけ、そこに入って雨を凌いだ。しばらくその洞窟で雨が落ちつくのを待っていると、天井が突然、鈍い音を立てて崩れてきた。俺と育子さんとスバルは、その下敷きになった。

 その後、駆けつけた救援隊によって、俺とスバルは救助された。しかし育子さんは、俺とスバルに覆いかぶさるようにして、ボロボロになって動かなくなっていた。まるで俺達を土砂から庇う様に…。俺は、育代さんが放っていた言葉を思い出していた。

『コノ子ハ、ワタシガ守ル!例エ命ヲ賭ケテデモ!』 
 


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このストーリーに関するコメント

17/08/05 浅月庵

霜月秋介さま
作品拝読させていただきました。

育代さんの暴走っぷりに笑いながらも。
最後の展開が印象的で、
もしかして今までの育代さんの育児方法は、
空回りしすぎてただけなのかも。
なんて無条件にすべてを許してしまえるような
ラストだったと思います。

ロボットとはいえ、そこに愛情という感情が
あったことを願いたくなる作品でした。

17/08/05 霜月秋介

浅月庵さま、コメントありがとうございます。

ひょっとしたら近い未来、感情がある育児ロボットが開発されるかもしれませんね。しかし本当は、産みの親の温かい育児が一番ですね。

17/08/05 あずみの白馬

拝読させていただきました。育代さんがひたすら暴走するギャグストーリーかと思いきや、ラストが見事でした。
様々な育児論が言われ、時には暴走してしまうことがある。でもその中で一番大切なものは何だろうか。というテーマ性も感じられました。

17/08/06 霜月秋介

あずみの白馬さま、コメントありがとうございます

この話は銀行にいる●ッパーくんを見て閃きました。ラストは悩みましたが、そう言っていただけてよかったです。
十人いれば十通りの育児論があると思いますが、いずれにしても愛情は大切だと思います。

17/08/09 待井小雨

拝読させていただきました。
私は笑うよりも育代さんの暴走っぷりが怖かったです(汗)
主人公の「突き落とせばいい」という発想にも恥ずかしながらその通りだ、とさえ思ってしまいました。
けれどラストの育代さんの行動……彼女は本当に、ただ子供を育てたい、守りたいとロボットなりに行動していたのだな……と思いました。

17/08/11 滝沢朱音

イラスト、すさまじい破壊力ですね〜!笑
「他界しちまうぞ」や「英才教育だと言って官能小説」のあたりで笑ってしまいました。
育代さんの「充電シロ!」のセリフ、妙に好き。
最後の一行、ほろっとしたエンディングにしんみりしました。面白かったです。

余談ですが、以前の作品「全部ぶち壊せ!」にも通じる世界観だなと思いました。
霜月さんの作風には、こういうアンドロイド系とか、得体のしれないロボットを使った作品が
とてもハマっている気がします!シリーズ化に期待(*^_^*)

17/08/28 霜月秋介

待井小雨さま、コメントありがとうございます。

たしかに怖いですよね。感情が無いロボットには善悪の判断すら無いので子供に何をするかわかりませんし。いつか感情があるロボットが開発される日が来るのかもしれませんね。

滝沢朱音さま、コメントありがとうございます。

いろんなところを誉めていただきまして嬉しい限りです。
初期の頃、【聖なる領域へ】という空港の金属探知機ネタを書きましたがそれに今回の話は似てます。こういう話は書いてて楽しいです。機会がありましたらまた、こういったロボットネタの話をやりたいです。

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