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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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夢の中で

12/12/02 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1544

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 街の中を歩いていた。
 街は映画のセットみたいに洋風で、雪が積もっていた。人の居ない、両側の明りが寂しく漏れる家の間を、ぼくは白い息を吐きながら足跡のない雪を踏みしめるようにして歩く。
 ここはどこだろう、とは思わなかった。ただ、この先にぼくのことを待っている人が居ることはなぜか知っていた。
 しばらく歩くと広場に出た。真ん中にふんすいがあって、そこを照らすように明りが向けられていた。今までで一番明るいその光はちょっとだけ目に痛い。
 ジョアアアアアアア。
 突然、ふんすいから水が勢いよく吹き出し、お母さんと一緒に見に行った舞台のように辺りに白い煙が広がる。水と煙のキラキラとした光がとてもきれいだ。そして、その白い世界の中に、一つだけ真っ赤なものを見つける。
 ふわふわの真っ赤な服に、真っ白なひげ。そして、背中に持った大きな袋。
 あれは、ぼくの記憶が正しければ……。
「……メリークリスマス、サンタ」
「メリークリスマス、坊や。さんをつけなさい。私はサンタさんだ」
「うざっ」
 両腕を広げて待っていたおっさんに、ぼくは広い心を持って接したつもりだ。しかし、このうざさは耐えられなかった。抱きしめようとしてくるその手を払いのけ、ぼくは尋ねる。
「てめえ、本当にサンタか?」
「何を言う。僕はサンタさんだ。間違いなくね。後、さんを……」
「それはもういい。やせすぎだろ、てめえ。それに若え。にせものにしか見えねえ」
 目の前のおっさんは細かった。若さも細さもテレビで見るモデルのようで、顔も普通にカッコイイ。良く見るとひげはにせもののようだった。
「いやあ、ぽっちゃり、白ひげ、年寄りの三点セットはモテないんだよねえ。だから、ちょっとダイエットとアンチエイジングにはまっちゃって。この服はモテるからそのままなんだけどさ」
「てめえのリアルなんか聞きたくねえよ」
 てへっ、と横ピースを決めるおっさんにドン引きするぼく。おっさんは、首を傾げてから、ぱっと明るい笑顔で言った。
「それなら、親友のユニコーン君から落馬してお尻が腫れた話はどうだい?」
「それもいい。っていうか、なんでてめえがユニコーンと親友なんだよ。ぜんぜん関係ないだろ」
 決定。こいつはにせものだ。とぼくの中で考えが固まったところで、おっさんは浮かべていた笑みを消し、寂しそうに言う。
「僕だってもう、メルヘンの住人だからねえ。なにせ、僕はとっくの昔に死んでるんだ。あっちの世界の住人と仲良くなるのだって当然だろう?」
 そんな風に言われたら何も言えない。ぼくはうめき声とともにうなづいた。おっさんは満足そうに笑ってぼくに尋ねる。
「さて、坊やの願い事はなんだい?」
「3PSとDS3が欲しい」
「早っ。しかも、そんなにつまらないものでいいのかい?」
 おっさんが言った、つまらないもの、という言葉にぼくの頭の中が熱くなる。
「つまらなくねえよ」
「そうかい?」
「そうだね。少なくても、叶えられないものを願うよりは、つまらなくねえ」
 サンタの正体は両親だ。そんなことくらい、もう知ってる。
 ならば、ぼくの願いは絶対にサンタには叶えられない。そんなものを願って、両親の心を傷つけるくらいならぼくは自分の気持ちに嘘をつくほうがましだ。
 ほしくもないゲームを、子供みたいにねだる方がましだ。
「……やれやれ。優しいねえ、坊やは」
「何が!」
 ぼくの髪を撫でようとするおっさんの手を力を込めて払いのける。
 優しいものか。ずるいだけだ、ぼくは。
「坊やの本当の願い事は、自由帳の最後のページに書いてあるものだろう?」
「……なんで、知って」
 ぼくが驚いた顔でおっさんを見ると、おっさんはニッと歯を見せて笑った。
「言っただろう。僕はサンタさんだって」
「理由になってねえよ。ぼくの知ってるサンタにそんな機能はねえ」
「ほっほっほ。サンタさんだって進化するんだ。坊やの言ったゲームみたいにね」
 再度頭を撫でようとする大きな手。今度はぼくも抵抗しない。
 言ってることは嘘っぽいけど、信じてみても良いって思えたから。
「本来、僕に叶えられない願いはないよ。ただ、手が回らないだけなんだ。すまないとは思うけれど、この世には不幸がありすぎるからね。仕方のないことなんだ。坊やは運が良い」
 おっさんはぼくの身体をぎゅうっと抱きしめて、言った。、
「『ばあちゃんが元気になりますように』。優しい坊やの願い、確かに叶えたよ」


 朝、電話の音で目が覚めた。
 その電話を取ったお母さんの喜びの声で、ぼくはおっさんが約束を守ったことを知った。
 メリークリスマス。耳元でおっさんの声が聞こえたような気がした。
 ぼくは自然にこぼれる涙を腕で一生懸命ぬぐいながら、おっさんにありがとうの気持ちを込めて、メリークリスマスと呟いた。


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