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t-99さん

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あの花に思いをのせて365日の花言葉

17/08/03 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:1件 t-99 閲覧数:254

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 終業式の朝、いつものように早起きをしました。吐き出す息がもう白くはありません。新聞配達屋さんの運転するバイクが「ブルン・ブルン」と近づいてきます。バイクに追い抜かれないよう、桃花は一飛びで学校に行きました。
 教室には担任の梨花先生がいます。先生は教室の窓を全部開けて、新鮮な空気を取り込んでいました。花瓶の水を替え、教室に花を飾ります。今日は桃花の大好きなマーガレットの花を飾ってくれました。
「マーガレット綺麗でしょう。花言葉は『真実の愛』だって」
 机の上で丁寧に本を開いた先生は、花言葉を教えてくれました。知っているのに桃花は黙って聞いています。お花が大好きだったお母さんが、たくさん花言葉を教えてくれました。優しい声はお母さんと一緒。先生の声を聞くだけで幸せな気分になれました。
 ときどき先生は桃花に内緒話しをしてくれます。クラスの友達の秘密。先生の彼氏さん。校長先生は昔、不良だった。四年生でクラス替えがあるよ。五年生は林間学校でキャンプファイア。六年生になったら北海道へ修学旅行。みんなが登校する前、先生と過ごすわずかな時間が桃花の宝物でした。
 今日はどんなお話しをしてくれるのだろう。待っていると、先生はチョークを手に持ち黒板にいきなり文字を書き始めました。



〈 皆 勤 賞 〉
村上桃花ちゃん
あなたは三年生の一年間
雨の日も、風の日も、一日も休まず
学校に通い、先生とお話しをしましたね
素敵な花言葉、たくさん教えてくれました
大変だったのに良くがんばりました
本当にえらいと思います…………



 黒板から手がはなれていました。座り込んでしまった先生はうつむいたままです。桃花は心配になって先生のところに飛んでいきました。
「痛かったでしょう。辛かったでしょう。ごめんね、桃花ちゃん、力になれなくて……。委員長で、みんなのことをいつも考えて、困っているお友だちがいたら真っ先に駆け寄って、声をかけていた……」
 肩を震わせて、これまでに聞いたことのない声でした。
「どうして、どうして、あんな酷い目に……なにも悪くないのに」
 顔を上げて、ゆっくり、ゆっくり、歩み寄った先生は、桃花の机でぽろぽろと涙をこぼしていました。窓から風が吹き抜けていきます。机に飾られたマーガレットの花びらが、ひとひら、またひとひらと落ちていきました。

先生泣かないで

 必死で叫んでいるのに、桃花の思いは先生に届きません。近くにいるのにどうしてなの。朝早くて、眠たくて、大変だったはずなのに、先生の嫌な顔、一度も見たことないよ。クラスのみんなといっぱい遊びたかった。勉強して、おしゃべりして、ときに喧嘩して、やりたいこと、まだ、まだ、あったのに……ねえ先生、桃花はどうして先生に触れることができないの。もっと先生とお話ししたいよ。

お母さん、力を貸して
 桃花は一生懸命祈りました。
 
 風が一層強く吹きつけたかと思うと、ぱらぱらと机にあった本をめくり始めました。先生のきれいな髪が巻き上がり、たくさんの白いマーガレットの花びらが本に吸い込まれていきます。花びらたちは栞となってあるページに挟まっていました。先生はそれを口にしていました。

「春に咲く花・スイートピー。花言葉は『……』」

 一瞬、沈黙のあと。

「優しい想い出」

「至福の喜び」

「門出・別離」

 ぽつり、ぽつり、読み上げていきました。

 そして最後に、こう言いました。

「私をわすれないで」

 薄い桃色のスイートピーはまるで蝶のようで、今にも空に羽ばたいていきそうでした。しばらく眺めていた先生と不意に目があった。そんな気がしました。
満たされた気持ちがどこからともなく溢れてきました。差し込んでくる朝日が桃花を包み込んでくれます。少しずつ消えていく意識のなかで、先生の声がはっきり聞こえていました。




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このストーリーに関するコメント

17/08/21 トツナン

拝読しました。何かここでは語られていない事柄があるような、思わず気になってしまう話立てでした。おそらく『やがて訪れる闇』を読んだ上での作品かと存じますが、見当違いでしたらご容赦ください。

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