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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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黒板は今日も緑

17/08/01 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:1件 miccho 閲覧数:146

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「この世は虚構と欺瞞だらけだ!」
 隣で六車正和が騒いでいる。
「いいから早くチョーク片付けろ」
 同じ日直当番としてなすべき行為を指示してはみたが、この男が聞き入れる様子はない。
「青信号なんて言いつつ、青くないではないか!」
 それは日本人が元々青と緑を区別していなかったからでは?
「それに」
 正和は俺にツッコむ暇も与えずまくし立てる。
「黒板だって、黒い板と書きながら緑色ではないか!」
 正和は語気を荒げて、黒板を右手で強打した。
 ゴン、という鈍い音が静寂の教室に響いた。
「一体どうしたって言うんだ。お前の戯言癖は理解しているつもりだが、今日はいつになく荒れているじゃないか」
「あぁもう。うるさい、うるさい」
 正和が大げさに両耳を塞いでみせた。まったく。うるさいのはどちらだと思っているのか。
「何が『お友達から始めましょう』だ!告白して玉砕した相手と、お友達になんてなれるわけないだろうが!」
 なるほど。要するにこの男は失恋したのだ。
「それはご愁傷様。で、相手は一体誰なんだ?」
 この変人の恋慕の相手とは、一体どんな女神なのだろう。早く帰宅したいが、その一点には若干の興味が湧く。
「…平林さんだ」
 蚊の羽音よりも小さな声で、正和が呟いた。
 その名前に、心臓の鼓動が速くなる。平林さんと言えば、隣のクラスのマドンナだ。この男、意外とノーマルなストライクゾーンだな。
「ペンギンは鳥類なのに変温動物ではないか!閉店セールで閉店した試しが無いではないか!一本でも人参ではないか!欺瞞だ欺瞞だ!欺瞞100%だ!」
 おとなしくなったのも束の間、もはや支離滅裂だ。
「分かった、分かった。アイスおごってやるから、とりあえず帰ろうぜ」
 このままだとあと何時間もこの実りなき「未成年の主張」を聞かされかねない。俺はぐずる正和を無理やり連れ出した。

 コンビニでアイスを買い与えると、正和は幾分おとなしくなった。
「むむむ」
 アイスを食べながら歩いていると、正和が唸り出した。遠くの方で何かを見つけた様だ。視線の先は街の繁華街だった。
「あれは、平林さんではないか」
「おい、冗談はよせよ。暑さと失恋のショックで、幻覚でも見えているんじゃないか」
「いや、あの可憐な後ろ姿、間違いない」
 その分厚い眼鏡はスパイのひみつ道具か何かか?
「おい、我が友よ。気をつけろよ」
「何にだよ」
「バレないようにだよ。今から尾行を開始する」
 言うが早いか、正和は早足で歩き出した。この男の行動力が学業や部活動等の前向きな活動に発揮されればと、いつも思う。
「あの角を曲がったぞ。相棒、ついて来い」
「誰が相棒だ」
 とツッコんではみたが、人生初の尾行は存外楽しかった。
「む、コンビニに入ったぞ。店の外で待機だ」
 我々は電柱の陰に隠れて、ターゲットが店から出てくるのを待った。
 しかし、一向に出てくる気配は無い。
「こうなったらやむを得ない。正面突破だ」
「お、おい。それはさすがに…。バレたらどうするんだ」
「なるようになるだろうさ」
 お前は良くても、俺が困るんだよ。
 正和は目にも留まらぬ速さでコンビニの入り口まで到達していた。渋々俺もそれに続く。
「いらっしゃいませー」
 女性店員の声が店内に響く。いや、女性店員?
「平林さん…!」
 コンビニの制服姿の平林さんが、レジの向こう側に立っていた。向こうもそれに気づいたらしく、思いっきり視線を外された。
「おい、正和、退散だ!」
 俺は正和の首根っこを掴んで一目散にその場から立ち去った。

「いやー、まさか平林さんがバイトしていたとは。確か校則では禁止では」
 コンビニから全速力で走って駅を視界に捉えたころ、息を切らしながら正和が唸った。
「いいんだよ。みんなやってるさ。黒板だって、緑色だろうが」
 俺がそう言うと、正和は目をパチクリとさせた。
「君がそんな屁理屈をこねるとは珍しい。でも平林さんのバイト姿を拝めたので、満足だ」
 正和はニタリと笑いながら
「アディオス、相棒」
 と言って人混みに消えていった。

 その晩、自室で宿題をやっていると、携帯電話が鳴った。
「もう、バイト先に来るなら来るって、言ってよ!うちの制服、あんまり可愛くないから見られたくなかったのに」
 口を尖らせている電話の主の顔を想像して、それも悪くないな、と思った。
「悪い。成り行きで」
「今度クレープおごってよね。駅前にオープンした店のやつ」
「いいけど、三つまでな」
「そんなに食い意地貼ってません!」
 それから三十分ほど他愛のない話をしたあと、電話を切った。
 俺はベッドに倒れ込んで深く息を吐いた。
 俺と平林さんが付き合っていることは、あいつにはもうしばらく黙っておこう。
 黒板だって、緑色なのだから。


(終)


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このストーリーに関するコメント

17/08/21 トツナン

拝読しました。
先の読めない展開でした。『虚構と欺瞞だらけ』とは言い得て妙だと得心しました。

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