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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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道草しながら、馬の旅

17/07/31 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:422

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 私は人間が苦手ですが、馬はとても好きなのです。
 トロくてドジな私ですが、馬はひゅうひゅうと私を乗せて気持ち良く駆けてくれます。
 私がバカで分からずやでも、馬は愛くるしく長い顔で頬ずりしてきます(たまに鼻水や涎をつけて服を台無しにしますが)。
 風になびくたてがみや滑らかな体毛に、しなやかな筋肉質の体躯と力強いひづめ。馬は時に、俺様といわんばかりに我が儘で、誰もいないとヒヒーンッといななく程の寂しがり屋さんです。
 自分さえ苦手な人間の私ですが、馬に似てきたのでしょうか。たまに何だか、人恋しくなる時があるのです。


 そんな私は、岐阜県の根の上高原にやってきました。いつもの乗馬クラブで走る馬場を離れて、何時間もバスで揺られたどり着いた、素敵な外乗(がいじょう)の旅です。
 標高1000m近くの涼しい空気が、2つの湖を抱いた自然溢れる高原に満ちています。白い雲を鏡面のように映す湖畔の道を、小さな可愛いポニーに乗って走る……今からワクワクします。
「サワタニさん」
「は……はい!何でしょうか!」
「サワタニさんはA班。美鈴ちゃん、野中君と行動してください」
 あ……班が決まりました。美鈴ちゃんは小学4年生の女の子。野中君は16歳ですから私より3つ年下ですが、「年上? うわっ、背ぇちっちゃい!」など言われちゃう。背の事は、余計なお世話なのです!
 早速、乗馬服に着替え、ストレッチをする私たちの前に、現地の乗馬クラブから到着したポニーが並びます。普段乗ってるサラブレッドと違い、人懐っこさが際立っていて、私は首筋を叩いてご挨拶。外乗が初めてという他の二人もほっとした様子で、馬にまたがりました。


 パカッ、パカッと、ひづめの音も軽やかに馬たちが歩き始めました。ゆったりとした足取りで、インストラクターを先頭に、野中君、美鈴ちゃん、私の順で、湖畔の道を一時間かけて回るコースを進んでいます。
 夏の暑さを緑のトンネルが遮り、光と影のまだら模様をアスファルトに描いています。
 あれあれ。気が付くと、美鈴ちゃんの馬が止まってしまいました。むしゃむしゃ。道端に生えている草を、馬が美味しそうに食べています。
「あーっ、何やってるんだよ!」、野中君の声です。どうも気が短いようですね。
「何って、馬が道草を食ってるのです」
 私が言うと、インストラクターは苦笑しました。
「意味は合ってますが……仕方ないなぁ、ここで道草しましょう」
 私たちも自分の馬を休めます。
 涼やかな風が、お日様の匂いと草の湿った香りを運んでくれました。むしゃむしゃ。手を伸ばし、汗をかいた馬の体温に触れると心が和みます。
「くしゅん!」、美鈴ちゃんがくしゃみしました。
「風邪なの?」
「ううん、わたし、馬アレルギーなの」
 薬は飲んできたんだけどね、と美鈴ちゃんは元気いっぱい笑います。
「それでも馬が好きだから、お母さんに頼み込んで乗馬してるんだ」
 その眼差しは、情熱できらきらしていて、楽しげでした。


 パカッ、パカッ。
 旅はまだまだ続きます。
 パカッ……パカパカパカパカ!
「うわっ!」、指示もなしに、馬の歩調が急に変わり速度を上げました。美鈴ちゃんは上手く手綱を引いて馬を止めましたが、野中君の馬はどんどん先へ駆けます。
 ……パカパカパカパカ!
 私は馬に駈足を出させると、ぐんと勢いよく走って野中君に追いつきます。
「姿勢直さないと落馬するよ!」
「ど、ど、どうやって!」
「背筋ピンと伸ばして! 手綱張って!」
 前のめりに崩れた野中君の姿勢がしゃきっとすると、馬も落ち着いて、彼の指示を聞き歩調を緩めました。インストラクターと美鈴ちゃんもすぐに追いつきます。
「サワタニさん、さすが馬術競技の選手だね」
 インストラクターが褒めるので、私はえへへっと照れてしまいます。単細胞なのです。
 でも残る二人を驚かせてしまいました。
「なんで、選手クラスの人間が、ビギナー向けの外乗で馬に乗ってるんだよ!」
「あの……だってポニー可愛いし!」
 私はきっぱり言います。
 まっしぐらに疾走する馬の姿はスポーツとして魅力的です。
 けれど馬との旅は、その自然な生態を知るまたとない機会なのです。
 実は馬はのんびり屋さんなのです。
 私は一生懸命に語ります。
 馬を、好きになって欲しいから。


 ……二人は顔を見合わせ、クスッと笑いました。
「馬可愛いよね!」
「そうだな、道草も楽しいし」
 その言葉だけで、私たちはほんの少し人生を共有した仲間になれました。
 パカッ、パカッ。
 道端に咲くササユリが綺麗で、旅する私は素顔に戻ります。
 まるで私の開いた心に咲いた花のようです。嬉しくなってみんなを呼びました。
 人間ですから道草は食べるのでなく、旅の思い出に残しましょう、ね。


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