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八王子さん

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アナログメール

17/07/31 コンテスト(テーマ):第141回 時空モノガタリ文学賞 【 黒板 】 コメント:1件 八王子 閲覧数:171

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 最初は面倒ごとを押し付けられたものだと思った。
「こらー、高山ー。ちゃんと机くっつけて教科書見せてあげるんだ」
「はーい」
 教師にそう言われて、仕方なく僕は机を引きずって隣の席とくっつけた。
「あ、あの、ありが、ごめんなさい」
 隣の席の阿部さんも遠慮がちに机を引きずって僕の机とくっつけようと寄せるが、僕たちの机の間には手を縦にすれば通るような隙間が空いている。
 これは目に見えない心の距離を可視化したものではなく、たぶん「高校生だから」というやつだ。
「いいよ」
 僕はそう言って、二つの机の隙間を埋めるように、遠慮がちな阿部さんに代わって机をさらに寄せ、その間に教科書を置いた。
 なんで高校生にもなって机をくっつけて授業を受けているかというと、すごく単純なことで阿部さんは県外からの転校生だからだ。
 そのせいで隣の席の僕が教科書を毎度見せてやっている。
 全部の授業でこうなのだから、わざわざ机を授業が終わる度に離す必要はないと思ってはいるが、高校生で机をくっつけているのは恥ずかしいというのもあるが、僕には友達がいる。
 授業の間の短い休み時間でも、昨日のアニメの話やスマホのゲームの話など話題が尽きないのだが、阿部さんは別だ。
 中途半端な時期に転校してきたせいか、それとも彼女の性格のせいか、友達ができた様子はなく、昼もいつも一人で弁当を食べている。

 この数日、観察してよくわかったことは、阿部さんは視力が悪い。
 黒板の文字を見るために目を細めたり、ぎゅっと瞑ってから見開いて文字を追ったりしている。
「黒板見えないの?」
「あ、はい……あまり」
 授業中に話しかけられたことに驚いたのか、それともそんな奇妙な行動をしていることを見られていたことを恥じらったのか、阿部さんは俯いてしまった。
「汚い字でいいなら」
 僕は教科書だけでなく、ノートまで見せてあげることになった。
「ありがとうございます」
 今までで一番ハッキリとしたお礼をもらった。
 そんなのいらないんだけど、なんだかちょっと嬉しい気持ちだ。
「ノートは貸しておいてあげるよ」
 急いで写そうとする阿部さんに言う。
「え、でも……」
「僕は復習とかしないし、今日のだけじゃなく以前のも」
 そんな「気づいてたんですか」みたいな顔をされても困るが、これでも何日間も隣の席にいる仲だ。
「ありがとうございます」
 二度目のお礼は嬉しさが半減することを知った僕は、いつものように机を放して、いつもよりも短くなってしまった休み時間を駄弁るのではなく、ぼーっとしながら過ごした。

 僕は授業を真面目に受けている――ように装っているが、その内実、あまり理解はしていない。
 授業を真面目に受けても成績が上がらないのが僕だが、この数日、今まで感じたことのないプレッシャーを感じるようになった。
 教師以外の誰か――それも女の子にノートを見せるということだ。
 阿部さんの成績は知らないが、僕がサボると阿部さんが困り、阿部さんの成績が下がりかねない。
 いつしか僕は真剣にノートをとるようになっていたが、
「はい」
 数学で小テスト前に結構重要なポイントとして黒板に書かれた数式を、困っていた阿部さんにすぐに見せてあげた。
「ありがとう」
 そして阿部さんも重要な部分はすぐにメモをするように写す。

 普段は小声での会話だったが、この日の午後の授業だった。
 僕が授業中に睡魔に負けかけていると、隣の席からノートが僕の机の上に侵入してきた。
【ねむいですか?】
 可愛らしい丸文字で書かれていたので僕は、とりあえず頷いた。
【私もねむいけど、ガマンしないといけませんね】
 ノートの端にどんどん書かれては差し出される阿部さんからのメールのようなメッセージ。
 それを見てしっかりノートをとらないと、という気持ちになった。
【この近くにおすすめの本屋はありませんか?】
 僕が真剣に黒板に向いて睡魔と格闘しながらノートに書き写していると、授業にまったく関係ないメッセージがやってきた。
 僕も同じようにノートの端に、
【あるよ。今日、行く予定だけど一緒に行く?】
 ノートにただ書き写すよりも、自分の考えた言葉を文字にすると一気に脳が冴えわたる気がした。
 それと同時に、なんて軟派な発言をしたんだと驚いて目が覚めた。
「いいんですか?」
「あ、うん……漫画の発売日だから」
「こら、高山ー、お喋りするなー」
 僕だけが名指しで教師に怒られてしまい、隣の阿部さんは小さく笑った。
「はーい」
 やる気なく返事をして、ふと思い出す。
【そういえばそろそろ教科書届いてるんじゃないの?】
 その返事は放課後、学校の外で聞くことになる。
 まあ、女の子って意外としたたかなんだな、って思ったのが阿部さんの印象だ。

(了)


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このストーリーに関するコメント

17/08/20 トツナン

拝読しました。
黒板を書き取ることだけはする。授業の内容は理解できないのに。でも誰かに見せるから頑張る。非常に共感できる主人公でした。『意外としたたかな』阿部さんもまた、そんな『僕』の性質を見抜いていたのかもしれません。二人がまずは良き級友とならんことを願うばかりです。

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