1. トップページ
  2. 彼のために旅に出る

あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

投稿済みの作品

7

彼のために旅に出る

17/07/30 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:10件 あずみの白馬 閲覧数:542

この作品を評価する

――7月某日 土曜日 午前7時40分 東京駅20番線

「美菜子さん、元気でね!」
「ありがと!」

 ホームには、白いボディに銀と青のラインが光る新幹線「はくたか553号」7時48分金沢行きが発車を待っている。
 その前で、大学の文芸サークルで一緒だった、大学2年、同級生の美菜子が友達の見送りを受けていた。急に家業を継ぐことになり、中退することになったらしい。

 そこに、武史が階段を上がってきた。

 私は1年の時、鉄道研究会に居た。
 姫ポジションも悪くはなかったが、2年になった時、サークル勧誘会で武史を見かけた。
 まだあどけなさが残る顔に澄んだ瞳、一目惚れした私は鉄研に勧誘したけど、彼は文芸サークルに入ったので、何の迷いもなく私は転籍した。

 ところが2か月前、彼から美菜子のことが好きだと相談を受けた。

 私はショックだった。けど、好きな人が喜ぶのが一番と、何度か武史が告白出来るようにお膳立てしてあげた。ところが、肝心な所でイジイジしてしまう彼は、チャンスを生かすことが出来なかった。

 彼は、美菜子に挨拶を済ませると、とても無念そうな顔をして私のところに来た。
「ねえ、美菜子には告白出来たの?」
 彼は首を横に振った。
「そのまま終わるんじゃ、後悔を残すだけじゃない」
「でも、美菜子さんは遠くに行くし、みんな周りにいるし」
 今日もイジイジしている。このままではケジメがつかないと思った私は、鉄道知識を駆使した一つの策を思いついた。
「武史くん、美菜子と二人きりなら告白出来るんでしょ?」
「え!?」
「さっきそう言ったじゃない。考えがあるの。ついてきて」
「な、夏乃先輩!?」
 私は有無を言わせず武史を連れて、向かいのホームに止まっていた、7時44分発、新潟行きMaxとき305号に乗り込む。白と青のツートンカラーの二階建て新幹線。乗り込むとすぐに動き出したので、私たちが消えたことに気がつく人はいなかった。
「これに乗って、どこへ?」
「決まってるじゃない、直江津よ。美菜子より先に着いて、二人きりにしてあげる」
「え!? そんなこと出来るの!?」
「大丈夫、私に任せて」

 大宮を過ぎてさらに北へ、高崎観音を左に見ながら進んでいく。

 一瞬、私の想いを伝えようと思った。けど、彼のために旅に出たんだと自分に言い聞かせ、思いとどまる。

『まもなく、越後湯沢です』

「ここで降りるわよ」
「? 温泉にでも行くんですか?」
「乗り換えよ」

 越後湯沢駅に9時8分に着くと、すぐに1番線に向かう。目指す電車はすでにホームにいた。
「超快速スノーラビット、直江津経由新井行、これに乗るわよ」
「か、快速!?」

 9時14分、電車は越後湯沢駅を離れた。車内は立ち席も出る盛況ぶりだ。武史は不安そうな顔をしている。

「直江津に着いたら絶対告白するのよ」
「……」
「ちゃんと返事!」
「は、はい! でも、本当に先回り出来るんですか?」
「大丈夫」

 六日町から北越急行ほくほく線に入ると、一気に速度を上げ始めた。

「全然止まらないですね、特急みたい」
「停車駅は4駅。越後湯沢から直江津まで、わずか1時間よ」
「すごく早いんですね」

 頃合いと見て、種明かしをすることにした。

「そうね。美菜子の2分前に着くはずよ……。北越急行はね、北陸新幹線が出来てから、収入の9割を占めていた特急が無くなっちゃったの。それまでの貯金で30年間は営業を続ける予定だけど、簡単に廃止にはしないつもり。だから、本数は少ないけど、東京から直江津までなら北陸新幹線に乗るのと時間がほとんど変わらない電車を走らせて、お金を稼いでるの」
「そうだったんですね」
「題して、そのまま終わるつもりがない電車。キミが乗るのにピッタリでしょ?」
「……うん」

 彼の表情が少し緩んだ。

 10時14分、時間通り直江津着。2分後に十日町行の観光列車「越乃Shu*Kura」が入線、美菜子が降りて来た。すぐさま彼女のところに向かうと、驚いた表情を見せた。

 そして彼女と彼はホームの端へ……

 数分後、美菜子は私たちに一礼をして改札へと向かっていくと、武史が話しかけてきた。
「夏乃先輩のおかげで、好きだと伝えることができました。でも、美菜子さんは結婚するそうです。気を使わせないために黙ってたみたいで……」

 私も驚いた。武史はとても辛そうな顔をしている。

 彼のためにと思ってしたことが、こんな結果になってしまった。私は責任を取らなければばならない。
 
「すぐに帰るのもなんだし、海でも見に行かない?」
「え? これから?」
「うん、私とじゃ嫌?」
「いえ……、ありがとうございます」

 彼の傷を癒して、ありがとうじゃない言葉を聞きたくて、再び私は彼と旅に出る。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/07/30 忍川さとし

拝読しました。
列車時間のからくりを2000文字の中に入れてあるのが感心しました。
そんな緻密さのあと、結末のゆるやかな余韻があって、思わずにやりです。

17/07/30 石蕗亮

電車の絡繰が読み易く、また、ストーリーのオチも良い意味裏切られ良かったです。
電車の絡繰のくだりは実話ですか?

17/07/30 あずみの白馬

>忍川さとし 様
2000文字の中に時刻表トリックを入れることが出来て良かったと私も思います。
結末のゆるやかさも評価していただきまして、ありがとうございます。

17/07/30 あずみの白馬

> 石蕗亮 様
ありがとうございます。
ストーリーを評価していただきまして、作者としても嬉しい限りです。
北越急行の話は実話です。ちなみに「はくたか」は、現在は北陸新幹線の愛称の一つですが、かつては越後湯沢からほくほく線経由で金沢まで走る特急列車の名前でした。

17/08/05 浅月庵

あずみの白馬様
作品拝読させていただきました。

私は電車の知識に明るくないため
「そのまま終わるつもりがない電車」の
部分で、素直に感服いたしました。

2000文字とは思えない構成で、上手だなと
思うと同時に、ラストの一文がこれまた綺麗です。
良作だと思います!

17/08/06 あずみの白馬

>浅月庵 様
コメントありがとうございます。
「そのまま終わるつもりがない電車」は、北越急行の話を聞いたときに思いつきました。
評価して頂きまして、ありがとうございます。

構成の方も、自分なりに頑張りました。過分な評価に恐縮しております。
今後とも宜しくお願いします。

17/08/08 霜月秋介

あずみの白馬さま、拝読しました。

鉄道の知識を駆使した内容、お見事です。
新幹線に乗るのと対して時間が変わらない電車があったのですね。学ばせていただきました。

17/08/11 滝沢朱音

具体的な時刻表トリックが物語のリアリティを支えてて、旅のテーマにふさわしいお話だなと思いました。
読後感もさわやかで、面白かったです。2000字でこんなこともできるんですね…!

17/08/11 あずみの白馬

> 霜月秋介 様

ありがとうございます。
北越急行のことを作品で活かせないか……、と考えさせていただきました。

ちなみに、夏乃&武史は、
東京→Maxとき305号(上越新幹線)→越後湯沢→超快速スノーラビット(北越急行・JR東日本)→直江津
美菜子は、
東京→はくたか553号(北陸新幹線)→上越妙高→越乃Shu*Kura(えちごトキめき鉄道)→直江津

と、両者ともに新幹線に乗っています。文中わかりにくい点もあったかと思いますが、読了ありがとうございました。

17/08/11 あずみの白馬

> 滝沢朱音 様
2000文字の限界、自分なりに頑張りました。評価していただいてありがとうございます!

ログイン
アドセンス

ピックアップ作品