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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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赤ちゃんロボット

17/07/24 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:326

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 明夫はカーテンの隙間から、庭にしょんぼりたちつくす妻の都を、思いやりにみちたまなざしでながめた。
 家庭菜園をかこむ柵の向こうの道をいま、母と子が手をつないで、なにやらたのしげに歌をくちずさみながら、歩いていた。
 その二人の姿を都は、いつまでも目でおいかけている。
 こちらからはうかがいしれないその顔には、あからさまな羨望の念がやどっているのにちがいなかった。
 ふだんは、じぶんたち二人のあいだに子供がないことなど、まるで気にもとめていないふうをよそおう彼女なのに、いまのように、ひとりいるときなどによその親子を目にしたりすると、ふだんは隠している本心がふいに、あたまをもたげるのだった。
 むりもない。―――明夫は、黙ってうなずいた。
 あれほど子供をのぞんでいた彼女だった。じぶんの未来はつねに、子供のことを中心にまわっているのよと、いつも顔をかがやかせて語っていた彼女だった。しかし、まてどもまてども、二人のあいだに子供はできなかった。
 近所の無神経な主婦たちは、子育てって大変よ、夜泣きはするわ、やれ熱がでたらどうしょうとか、どうしておっぱいをのんでくれないのとか、そんな心配ばっかりして、一睡もできない夜がなんどあったことかと、よってたかって慰めの言葉を都になげかけるのだった。しかし誰ひとりとして都が、そんな彼女たちの育児にたいする悩みを悩むことさえできないじぶんを人一倍、責めていることには気づきもしなかった。
「都、人は人だよ。僕たちは僕たちだけの人生をエンジョイすればいい」
 明夫は庭にでると、これまでなんども語ってきた言葉を、いままた都にむかってくりかえした。
 彼女はおどろいたようにふりかえると、
「あら、なんのことをいってるの、あなた」
 夫を見返し、彼女はことさら明るく笑った。
 その夜、夕食もすませ、ソフアでくつろいでいるとき、ふいに彼女がいった。
「赤ん坊のロボットって、できないものかしら」
 さっきテレビの番組で、ある介護施設内の模様を紹介しているとき、高齢者たちをなぐさめている犬や猫のロボットをうつしていて、そのみるからに愛くるしい外見に、ふたりして目をほそめたやさきのことだった。
「あってもおかしくはないよね」
 明夫は共感をあらわして大きくうなずいた。
 人間の赤ちゃんそっくりのロボットができたら、それをもとめる連中はきっと、世間にはたくさんいるはずだった。子供がいない家庭だけでなく、これから産まれる予定の女性にとっても、そんなロボットがいればシュミレーションに役立つことだろう。ミルクをほしがって泣いたり、おむつをむずがったり、抱いてあやすと声に出して笑ったりする、本物そっくりの赤ちゃん………
「できるだけかわいらしい赤ちゃんロボットがいいな」
 おそらく頭のなかでその赤ちゃんロボットのことを思い描いているのか、うなずく妻は目をうっとりとみひらいて、口にはとろけるような笑みがうかんでいる。
「我が国の優秀なロボット技術をもってすれば、赤ん坊アンドロイドも夢じゃない。きっと近い将来、社会に登場すると思うから、あきらめずに、まとうじゃないか」
 励ますように彼は、妻の手のうえに自分の手を重ね合わせた。
「そうね。私も信じてまつことにする」
 その様子を、別の部屋からモニターで観察していた研究員の井上と青山のふたりは、モニター画面から顔をあげると、満足そうに目をみあわせた。
「子供のできない夫婦を設定して造ったアンドロイドたちの行動記録に、かなり興味ぶかい変化があらわれだしたようだ」
 さきほどの明夫と都の、ロボットの赤ちゃんに関するやりとりを画面に再生しながら、青山がいった。
「子供のいない夫婦というのは、子供のいる家庭よりも、おたがいいたわりあう傾向が強いのは、当然かもしれない」
「共感も、結構深いわね」
「たとえロボットでもいいから赤ちゃんがほしい―――子供ができない夫婦の、切実な願いだな」
「その気持は、あたしにもよくわかりますわ」
「おや、AIの先端科学をいくきみが、そういうかね」
「あら、あたしだって女ですのよ」
「おっと、これは失礼」
 二人はふたたび、モニター画面にうつしだされる明夫と都のロボット夫妻に目をやると、子供がいない男女の意識調査に没頭しはじめた。


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このストーリーに関するコメント

17/08/27 木野 道々草

読み進めるごとに、物語の全体が見えてくるのがとても面白かったです。誰かを見ている誰かをまた誰かが見ている、という展開のお話を読むのは、まるで自分が撮影カメラになって徐々にズームアウトしていくような気分でした。

人間は赤ちゃん(人間)を生みますが、ロボット夫妻や赤ちゃんロボットを造ることは、個人的に、越えてはいけない一線のように感じます。人工知能・ロボット開発の倫理問題の観点からも、大変興味深く拝読いたしました。

17/08/28 W・アーム・スープレックス

先日テレビで空くドロイド製作者の教授が、未来は人間にとってかわってロボットが地上を支配するようなことをいっていましたが、現代社会のit

17/08/28 W・アーム・スープレックス

アンドロイド製作者の教授が、ロボットが人にとってかわる未来がくるというような話をしていました。SFの世界ではありません。現代社会のIT機器のめざましい発展ぶりや、チェスや将棋のプロ棋士がコンピューターと対戦して勝てなくなっている現状を例にだして、やがてはコンピューターが社会を統治する日がくる、とか。すでにコンピューターは小説も書いているらしいですが、我々にとっては最後の一線、創作の世界においては、絶対に機械に引けをとらないように絶えず、想像力に磨きをかけたいものです。

17/08/28 W・アーム・スープレックス

最初のコメント、まちがいです。失礼しました。

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