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本宮晃樹さん

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性別 男性
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ニート、世界へ

17/07/24 コンテスト(テーマ):第110回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:405

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「まったく怖気をふるうほどの経済格差がいま、この国を席巻している!」
 カリスマニート・城島武志氏が街頭演説をぶつと聞いて、物見高い人びと――そのほとんどが定職を持たない同類ども――がまったくの自己犠牲精神を発揮して駆けつけた。むろん彼を鼓舞する目的でだ。
 彼らの結束力は侮れない。社会の最底辺に滞留するメタンガスのごとき人間は、普段の生活で同族に巡り合うことはまずない。ところがどうた、夏真っ盛りのオフィス街でこれほど大勢の仲間に会えるなんて!
「経済はゼロサムゲームである」とカリスマニート。「ためにすべての人間が金持ちになることはできない。あぶれ者が出てくるのは自由経済の必然なのだ!」
 演壇の周りはニート親衛隊によって堅牢な警備態勢下にある。道ゆく通行人に睨みを利かせ、彼らの精神的指導者たる城島氏に野次でも飛ばそうものなら、ためらいなく踊りかかるのも辞さないといったかまえ。
「われわれは働かないのではない。働けないのだ」
 歓声、どよめき、賛同の拍手。照りつける太陽のもと、長年にわたる引きこもり生活によってたまりにたまった毒素が親衛隊の体内から染み出し、演壇周辺は嫌気性細菌の分解生成物に勝るとも劣らない臭気が漂っている。
「勤め人は自覚すべし。あなたがたがわれわれの職を奪っているおかげで、立派な社会人として威張り散らしていられるのだと」城島氏の額に青筋が浮いた。「断言しよう、きさまら社会人にはわれわれニートを扶養する義務がある!」
 大喝采の嵐が吹き荒れ、親衛隊の興奮は暴動に発展する一歩手前だ。
「われわれはここに宣言する」ナチス式敬礼を完璧な角度でやってのけた(アドルフ・ヒトラーをやたらと崇拝するのはキモオタの共通項である)。「金持ちを許すな! 勤め人に引けめを感じるな! 所得再分配を推し進めろ!」
 いまや興奮は最高潮に達した感がある。親衛隊どももこぞって斜め前に右手を掲げてみせた。「ハイル・城島! ハイル・ニート! ハイル・無職!」

     *     *     *

――ネット選挙制度を活用し、同族の組織票で当選確実と目されている〈ニート政治家〉城島氏について、どう思われますか?
「ぼくは好きになれませんね。どうして汗水垂らして働く人たちにたかって当然だと思えるのか、ちょっと神経を疑います」(二十代学生)
「いいんじゃないですか、好きにさせとけば。仮に彼が当選してなんらかのニート優遇政策をぶちあげて、それがまかりまちがって議会を通ったとしても、われわれは法人税とか所得税の少ない国に移転する。それだけですよ」(五十代経営者)
「キモいですねはっきり言って。あたしはああいうの大嫌いです」(十代学生)
「理念は立派ですけど、現実には誰かが国を支えないとだめなわけでしょ。あんな考えかたが公的に認められたら、そのうち誰も働かなくなっちゃいますよ。ニートは社会の底辺で腐ってればよかった。それがああいったかたちで権力を持ったらもう、終わりですね。あとは堕落。それだけですよ」(三十代会社員)
「実に平等主義的ですばらしい政策だと思います。なんで働いてるかそうでないかで差別されなきゃならないのか? 城島氏は一見当たり前だとされていた労働倫理に鋭く切り込んで、働けない人に負い目を感じさせない世の中をつくってくれようとしてるんです。仕事の割当が限られてるなら、ぼくたちはそういう難しいことは有能なみなさまがたにお任せして、できることをするまでです」(四十代無職)※なお「できること」とは、ゲーム、ネット、アニメ視聴、アイドルの応援などである。

     *     *     *

「なあじいちゃん、それからどうなったんだい」みすぼらしいガキが骨と皮だけの老人の周りをさかんに跳ね回っている。「城島さんがニートに優しい日本を作ってくれて、みんな幸せになったんだよね」
「最初のころはな」とわけ知り顔で老人。
「もったいぶるなよ」
「わしらは率直に言って、見通しが甘かった。〈みんなでニート法案〉が施行されてから、完全な二極化が始まったのさ」
 ガキは跳ね回るのをやめて、謹聴のかまえ。
「あくまで他人の労働に依存する生粋のニートどもと、怠け者の養分にはなるまいと決意して日本を出ていった裏切り者ども。わしらがどっちかはもうわかるな」
 ガキは老人の身なりを一瞥して、苦笑した。「おのずからね」
「いまわしらは未曽有の危機に見舞われてる。ついにニート人口が労働人口を大幅に上回って、わしらを支える金がなくなっちまったんだ」
 ガキはごくりと息を呑んだ。「ど、どうすればいいんだよ? このままじゃぼくたち飢え死にだぜ」
「そこでわしらは決意したのさ。この国を捨てて香港かどこかに高飛びしたやつらにしても、進んでよその国に帰化したかったわけじゃない。女々しくかたまって日本人街を作ってるはずだ」
 老人は杖を頼りによろよろと立ちあがり、例のナチス式敬礼をやってのけた。在りし日――そう、街頭演説をやっていたころみたいに――のままというわけにはいかなかったが、彼の栄養状態を考慮すればそれはまったく申しぶんのないできだった。「わしらは日本人街に電撃作戦を決行する!」
 彼が宣言した瞬間、それが合図になったかのように老人どものギャング集団がジープに乗って飛び出してきた。
「よう、準備できたぜ。みろよ」
 眼帯(特段目に傷があるわけではない)をしたリーダー格がエアガンで示した先には、排ガスをまき散らす年代物のセスナが駐機してあるではないか。ぶるぶるがたがた、ほんの少しの衝撃で爆散しそうなあんばいだ。
「あれをチャーターするのに何人が働いたと思う? ニートを続けるために働かなきゃならんとは誰が予想したろう……」眼帯はエアガンを頭上に掲げ、ぶんぶん振り回す。「しかしついに報われるときがきた。野郎ども、俺たちの養分を見つけにいこうぜ!」
 号令一下、ニート・ギャングたちがジープから飛び降りてセスナに殺到する。城島武志は、その光景をほほえましく見守っている。
「憎たらしいガキよ、手を貸してくれんか」
「いいよ」ガキは肩を貸してやった。老人は風船みたいに軽かった。「その代わり、ぼくもみんなと一緒にいっていいかい」
「もちろんだ」老人は大きく息を吸い込んだ。「世界にはばたけ、ニートども!」


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