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猫春雨さん

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ゆりかご

17/07/21 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 猫春雨 閲覧数:264

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 そのゆりかごはお母さんからのお下がりだった。
 お母さんもまたおばあちゃんから受け継いだらしい。
 当然私も、記憶には無いけれど使ったはずだ。
 そして、私の娘もまたそのゆりかごに揺さぶられている。
 このゆりかごは不思議だ。
 どんなに泣きわめいていても、ゆりかごに乗せるとピタリと泣き止む。
 そればかりか、きゃっきゃっと笑い声まで立てるのだ。
 おかげで私は育児に苦労することは少なかった。
 私はまだ若い。
 まだまだ遊びたいさかりだ。
 だから娘をゆりかごに入れておいて、ランチしに行ったり、パチンコに行ったり出来るから助かっていた。
 旦那はそんなことは知らない。
 私のことなんて二の次だ。
 仕事から帰宅すると真っ先に娘を抱きかかえて頬ずりをし、雄弁な赤ちゃん言葉であやしている。
 私には「おい」とか「飯」とか「風呂」とか、一言二言しか言わないくせに……。
 そんなんだからますますストレスが溜まって、私は遊びに興じるようになった。
 
 そんなある日、友人とカフェでおしゃべりしてから帰宅すると、部屋が妙に静かだった。
 ゆりかごで寝ていても、娘の気配のようなものは漂っているのに、今はそれも無い。
 私はあわててゆりかごに駆け寄ると、そこはもぬけの殻だった。
 気がつくと旦那が帰って来た。
 放心状態で座り込んでいた私は、弾かれるように立ち上がると、旦那に駆け寄り、赤ちゃんが赤ちゃんがとすがりつく。
 旦那も娘に何かあったと気がついて、あわててゆりかごに向かうが――、いつものように赤ちゃん言葉をかけると、まるで赤ん坊を持ち上げるように、空宙を支えた。
 脅かすなよ。何も無いじゃないか。
 そう、何も無いのよと言おうとするが、旦那は明らかに赤ん坊的なものを抱いている格好だ。
 翌日、お母さんを呼び出して娘を見て貰っても、ゆりかごに向かって当然のように赤ちゃん言葉で話しかける。
 そう、赤ん坊は、娘は、私にだけ見えていなかった。
 
 ゆりかごを揺らす。
 ひたすら揺らし続ける。
 赤ん坊の笑い声でも聞こえないものかと耳を澄ませながら。


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