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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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ブローチ猫の憂鬱

17/07/16 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 みや 閲覧数:389

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私はブローチ猫です。生物学と科学の最先端の技術を駆使して作られた次世代型のブローチペット。ブローチ猫の名前の通りに小さなブローチにされた猫なのです。決してロボットではありません。普通の猫と同じく生きています。けれど私たちはごはんを食べる必要がありません。太陽や電気の光のソーラーパワーが私たちのごはんです。糞尿もしません。糞尿はソーラーパワーをエネルギーに変える糧になります。鳴くのは普通の猫と同じです。けれど大きな鳴き声は決して出しません。小さく控えめに鳴きます。手触りは普通の猫そのもの。だって私たちは普通の猫の進化系なのだから。

ペットを飼いたくても飼えない、ごはんの世話や糞尿の処理が面倒くさい、けれどロボットでは物足りない。本当に生きているペットを手軽に飼いたいー
そんは人々の夢を実現させたのが、私たちブローチ猫なのです。開発段階で私たち猫と犬がブローチペットの対象になったのだけれど、犬はどんなに改良を重ねても鳴き声を小さくする事が出来ませんでした。ブローチにして身に付けるには、周りの人々に対して鳴き声が迷惑行為となると判断された犬は、ブローチペットとして却下されたのです。

ブローチ猫の私たちは、ご主人様といつでもどこでも一緒。胸に飾ったり、鞄に飾ったり。ご主人様が仕事に行く時も一緒に連れていって貰えます。一人ぼっちでお留守番をして寂しい思いをしなくても良いなんて、何と言う幸せ。

私はブローチ猫です。名前はルナ。私のご主人様は男性で、本が好きなご主人様は私をいつもブックカバーに飾ってくれています。そして、本を読みながら時々私の頭を優しく撫でてくれます。そんな時は私は甘えた声でにゃあと小さく鳴くのです。

やがていつも色々な本の側にいる私の頭の中に、色々な人間の言葉が染み込んできました。そして私は徐々に人間の言葉が理解出来るようになりました。私はブローチ猫として独自に進化を遂げたのです。
「おはよ、ござます」
私が初めて話した言葉です。ご主人様は空耳なのかと気に留めませんでしたが、もう一度おはよ、ござます。と私はご主人様に話し掛けました。
「ルナ、お前は人間の言葉が喋れるのかい?」
「はい。言葉、が頭の中にあります」
「…すごい!」

それからご主人様は私に色々な人間の言葉を教えてくれました。砂地に水が染み込むように、その言葉たちは私の脳内に染み込み、私はご主人様と人間同士と同じように会話を交わす事が出来る様になったのです。
「おはよう、ルナ」
「おはよ、ございます。ご主人様、今日もお仕事がばって下さい」
「がんばって、って言うんだよ」
「が…がばって下さい」
「ルナは可愛いね」
「あ、ありがとございます」
とても幸せな時間でした。私は優しいご主人様が大好きでしたし、ご主人様も私を愛しい恋人に触れるようにそっと優しく撫でてくれて可愛がってくれました。ご主人様に素敵な恋人が出来るまでは…

ご主人様の恋人は、人間の言葉を理解出来る私を初めは「すごい!このブローチ猫」と言って可愛がってくれましたが、私のご主人様への恋心に気が付いてからは、「なんだか気味が悪いわ…」と言って、新しく開発されたブローチペットのブローチウサギを私の代わりにご主人様にプレゼントしました。「だって、ブローチ猫と会話してるなんて、皆んなに知られたら頭がおかしいって思われちゃうじゃない?」

そうだね、と言ってご主人様は私を机の引き出しに閉じ込めようとしました。太陽や光が私たちのごはん。机の引き出しに閉じ込められてソーラーパワーを浴びないとブローチ猫は死んでしまいます。躊躇うご主人様にご主人様の恋人は、「大丈夫よ。だってブローチ猫は本当に生きていないから。ロボットと同じよ」そう言って引き出しをピシャリと閉めました。私たちブローチ猫は本当に生きているのに…

暗い引き出しの中で私は孤独でした。どれくらい光を浴びないとブローチ猫は死んでしまうのでしょうか?私たちは小さいのできっとすぐに死んでしまうでしょう…ご主人様、ここから出してと叫んでも私の声は小さすぎてベッドルームで恋人と愛し合っているご主人様には届くはずもありません。

しばらくするとお腹が空いてきて、哀しくて涙が溢れ出してきました。このまま明日の朝には私はきっと死んでしまうのでしょう…
すると真っ暗だった引き出しの中に光が差し込んで来ました。ごめんよ、怖い想いをさせてしまって、と言ってご主人様が私を優しく取り出してくれました。
「これからは毎夜、月の光を浴びさせてあげよう。ルナはラテン語で月って言う意味なんだよ。君にぴったりだ」
ご主人様は優しい指先でそっと私の涙を拭ってくれました。


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