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屋根裏さん

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いちのためのいち

17/07/15 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 屋根裏 閲覧数:217

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 これは、僕が僕を、あなたがあなたを探す旅。
 
 
 蒼
 
 例えば、ひとつの絵を完成させるのに、どれだけの色が必要なのだろうか。
 例えば、その絵に落とされる蒼をつくるのに、どれだけの色が必要なのだろうか。
 例えば、その蒼を選ぶまでに、どれだけの悲しみが必要なのだろうか。
 例えば、その悲しみを得るまでに、どれだけの喜びがあったのだろうか。
 
 例えば、悲しみも喜びも蒼も全部一つにしたら。
 
 蒼一色で表しきれるものなど、どこにもなかった。
 
 
 誤差
 
 バイト先の時計は五分遅れている。だからちょっとくらい遅刻しても実は遅刻にはならない。
 僕の携帯は世界に流れるありのままの時間を映す。デジタルだから当たり前だけれど。
 帰りに送ってくれる先輩の車のディスプレイは、五分先の未来を映し出す。まるで最先端を走り続けているかのように。

 みんながそれぞれ自分だけの世界を持っていて。そこには自分だけの時間が流れてて。僕の時間が世界と同じように流れてるのは納得いかないけれど。あまり好きじゃない先輩の時間が最先端っていうのは認めたくないけれど。
 共有しているはずの時間は、画面が映し出すズレによって個人のものになる。
 見かけだけかもしれないけれど、その時間のちょっとの差が多様な世界を形作っている。僕の時間も、世界の時間とちょっとくらいズレているかもしれない。
 
 僕は僕でしかないんだから。
 
 
 アルバム
 
  写真の景色のどこにも、私はいない。
 
 自撮りとかそういうのじゃなくて、私は風景とか、とにかく自分以外の何かを写真に収めることが好き。誰に習うでもなく、誰に善し悪しを指摘されるでもなく、自分の好きな時に好きなように撮る。
 
 今にも泳ぎ出しそうな魚の群れが、深い青の中に切り取られている。
 あぁ、ここはとても静かだ。
 
 顔を寄せ合う親子が、こちらには気づかない様子で笑いあっている。
 あぁ、ここはとても温かい。
 
 物で溢れた部屋に差し込む橙は、主人のいなくなった世界の住人に、命を吹き込むようだ。
 あぁ、ここはとても輝いている。
  
 ここにはリアルとは別の幸せが、詰まっている。いつでも私を旅に連れていってくれる。

 写真の景色のどこにも、私は行ける。
 
 
 影
 
  例えば、壁を這う蔦は何を求めて手を伸ばすのか。そして何をきっかけにして枝分かれし、それぞれが進む道を変えるのだろうか。
 
 例えば、蝶の羽根の模様は何を期待して自分のかたちを描いたのか。そして何を基準として、それぞれの行く先を変えるのだろうか。
 
 例えば、ここにいる僕は。
 
 何を求めて手を伸ばすのか。何を期待して自分のかたちを描いたのか。何をきっかけにしてここを選んだのだろうか。分かれ道において何を基準に行く先を選んだのだろうか。
 
 僕の中の僕しか知らない。僕は僕を選んだ。
 
 
 きみのはなし
 
  ぼくは昔から、数学が苦手だった。決まった答えに向かって、できる限り短いルートで走り抜ける。嫌いだった。
 始点と終点が決まっていて、そこまでの道のりを計画するよりは、行先も決めずに歩き始めて、途中で目的を見つける方が好きだった。だからかも知れない。ぼくには共感してくれる友達も少なくて、落ちこぼれ扱いされることにもいつしか慣れてしまった。
 けれどもちろん、ぼくにも好きなことはある。それは、何かをつくること。絵を描いたり、音を奏でたり、文字を紡いだり。周りの評価は気にしない。他人の基準で測ってもらう事は好きじゃない。なんてひねくれているんだろう。けれど褒められるのは嫌な気分じゃない。少しわがままかな。
 
 ぼくの中にある想いを、かたちのない想いを、誰かに伝えるために、つくる。ルールはない。想ったように、感じたように、紡いでいく。今もこうして。

 これは、ぼくのはなし。
 
 
 いちのためのいち
 
 あなたの現在は、きっと一枚の絵画。あなたにしかつくれない色で、あなたにしか選べない方法で、あなたが描いた絵画。他人が評価できる術なんてない。
 あなたが現在まで歩いてきた道のりは、きっと一本の糸。無数の繊維が、ひとつひとつ意味を持った“いち”という名の繊維が、あなたという“いち”のためだけに絡み合って紡がれた糸。他人が口出しする余地なんてない。
 
 誰しもが別のいきもの。そのいきものがそれぞれ別の世界を持っている。
 いきものをつくる“いち”にもそれぞれの世界があって、その先にはその“いち”のための“いち”がいて。
 
 別の“いち”は、現在という一瞬を共有することしかできない。けれどそれは大した問題じゃない。見えないところで、みんな繋がっている。
 
 あなたもきっと、いちのためのいち。


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