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森川夕陽さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 青春は片道切符。

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犬派の僕が二匹の猫を飼っているわけ

17/07/14 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 森川夕陽 閲覧数:365

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「ミヤー」という甘い鳴き声で僕は目を覚ました。
生粋の犬派である僕――佐藤光太郎が二匹の猫を飼い始めて、もうすぐ一年になる。こいつらとの昼寝もすっかり習慣化してしまった。
「よしっ」
僕は両頬をパチンとたたいて気合いを入れると、胡座をかいて座った。
目の前には一冊のノート。表紙には「光太郎日記」とある。ページをめくっていくと、 中身はノートの三分の二ほどでぷつりと途切れていた。
最後の日付は、昨年の二月一日。一行目に記録的な大雪だったとある。
僕は次のページを開いた。もちろん白紙だ。
翌日の二月二日は、世界が冷凍庫に閉じ込められたような寒さだった。あの日のことは今でもはっきりと覚えている。
しかし、人間というのは猫のように気ままで勝手な生き物だ。どんなに大切な想い出も時間とともに忘れてしまう。だから記憶を書き留めておく必要がある。
僕は深く息を吐くと、最後の日記を書き始めた。



この日記を、君に捧げよう。

大学に通うため上京した僕は、慣れない一人暮らしに不安を感じ、気づけば一匹の犬と暮らしていた。
小さな純白のチワワ。幼少期から共に育ってきた愛犬「小太郎」を、ついに実家から連れてきたんだ。
小太郎は人間で言うと九十歳近くて、世話には手がかからないだろうと、家族からなんとか了承を得たのだ。
それにしても、ペット可のアパートにしておいて正解だった。
朝、親切な管理人の林さんに小太郎を預けて学校へ行き、帰宅後は短い散歩に出かける。これが僕らの日課になった。

そんなある日、僕は君に出会ったんだ。蝉がうるさく鳴いている蒸し暑い日だった。
空色ワンピースと麦藁帽姿の君は、金色の目をした大きな黒猫を大事そうに抱えていた。
なんとなく君とその猫が似合わないと思った。
君はそれを察したのか、少し頬を膨らませて言った。
「猫だって散歩くらいするわ。あなたには分からないでしょうけど」
想像より大人びた声にドキリとして、それから負けじと言い返す。
「犬は猫より賢いし、よく懐くんだ」
「そんなの誰が決めたのよ」
そして、僕らは耐えきれずに吹き出した。初対面のはずなのに、君には妙に親近感が沸いたことを覚えている。
「私は春野小鳥。よろしくね」
君は自慢げにそう言ったけど、名前が「小鳥」じゃやっぱり猫は似合わない。僕はこっそりそう思ったのだ。
それから僕らは毎日、大切な相棒を抱いて語り合った。
そのほとんどは、まあ犬派猫派の争いだったような気がする。
「百歩譲って白猫。黒猫を飼っていいのは、どっかの魔女だけさ」
「確かにチワワは可愛らしいけど「小太郎」はセンスがないわ」
「小鳥さんの「みや」だって適当じゃないか」
「だってこの子、ミヤーって鳴くから」
「猫はみんなそうでしょ」
くだらないことばかり話していたけど、僕にはそれが本当に楽しかった。
君と、僕と、君の愛猫みやと、僕の愛犬小太郎。確かに僕らの間には、いつでも幸せの風が吹いていた。

そうして時は流れ、冬がやってきた。
それは、僕が君に惹かれるのに十分すぎるほどの時間だった。
僕は毎晩、小太郎相手に告白の練習までしていたというのに。
そして、世界が冷凍庫に閉じ込められた二月二日。君と僕の関係はあっけなく終わりを告げる。
ねぇ、どうして。
どうして君は、何も言わずいってしまったのか。
君は僕と出会った約半年後、交通事故で帰らぬ人となった。
僕はそれからも、 毎日あの場所あの時間に小太郎と訪れ君を待った。
しかし、不幸は続くものだ。
しばらくして今度は小太郎が旅立った。今思えば長生きを喜ぶべきだったのかもしれないが、この時の僕にとっては追い打ち以外の何ものでもなかった。
せっかく手に入れた大切なものが、次々とこぼれ落ちてゆく。
家族と小太郎の葬式をした後、僕はあの場所で一人泣いた。 孤独から逃れようと必死に泣いた。
するとそこへ、他の誰かの哀しい泣き声が聞こえてくる。即座に振り向くと、そこには二匹の猫がいた。
一匹は、真っ黒で仏頂面の、みやだった。そしてもう一匹は、綺麗な純白の子猫。なぜか前にも会ったことがあるような、懐かしさを感じた。
二匹が僕を見つめて鳴いていた。
「メソメソしてないで、あんたが責任とって飼いなさい」
そう言っているような気がしたんだ。
君が僕に残してくれた、最高の贈り物だ。
ありがとう。

p.s. 白猫につけた名前、センス無いとか言うなよ



僕が再び深く息を吐いてノートを閉じると、タイミング良く二匹が近寄ってきた。
「みや、残念だろうけど、僕が犬派だってことは今後も変わらないからな」
僕はこの人懐っこい猫たちを順番に撫でた。
「ただ、ほんの少しだけ猫に優しい犬派なのさ。な、ことり」
「ミヤー」

こういうわけで犬派の僕は、現在二匹の猫を飼っている。


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